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無賃乗車
バスに乗り込むと、随分と混んでた。
まだ帰宅ラッシュには早い夕刻ではあるけれど、何せお盆のこの時期だ。郷里に戻るひとは多い。こうした光景も帰省ラッシュの一形態になりつつあるのだろう。
乗客の数が数だけに、バスは各停留所で停まっていった。
そうこうするうちに私の降りる先も近くなった。
手を伸ばしてボタンを押す。
軽やかな音でランプが灯った。
──次、停まります。
そのバスの運転手はため息をついた。
停留所には誰もいない。
車内にも誰もいない。
けれど降車を希望するランプは次々と灯る。
「お盆だからなぁ……」
ひとりごちて頭を掻いた。
ミラーで夕暮れに染まる車内を眺める。やはり乗客の姿はも見えない。
茄子の牛、胡瓜の馬に跨るよりも、そりゃバスの方が早くて楽なのだろう。
だが。
──次、停まります。
ポン、とまた音がして軽やかにアナウンスが告げる。
だがこれはしかし、無賃乗車ではないのだろうか。