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空洞
残業を終えてようやく独身寮に帰りつくと、暗い部屋の奥からいびきが聞こえた。
すわ泥棒かと身構えたものの、盗みに入った先で高いびきするような肝の太い盗人が果たしているものだろうかと疑念が湧く。
だが理屈はどうあれ、不法侵入者がここにいるのは確かだった。真っ暗闇な部屋の中に、今もいびきが響いている。
玄関先に置いてある傘を掴んで握り締めた。誰だ、と怒鳴りながら電気のスイッチを入れる。
明るくなった部屋には誰もいなかった。
ただ掛け布団が人の形に、空洞のまま盛り上がっていた。




