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商売繁盛
雑踏で、スーツ姿の男に声をかけられた。
どこか薄汚れた雰囲気のある、痩せぎすの男だった。
「要りませんか、一本」
顔を寄せて囁かれた。
男は覆いをかけた鳥籠を持っていた。その中身を売りつけようという魂胆であるらしかった。
うるさげに手を振って払おうとすると、
「いいんですか。役に立ちますよ」
言って、籠の覆いを外した。
俺は思わずのけぞった。
籠には蛇がみっしりと充満していた。一体何匹いるのか。もつれ合い絡みあって蛇玉を形成し、シューシューと青くさい息を立てている。
男を振り払って、俺は早足にその場を離れた。
また別の日。同じ場所で男を見た。
俺にしたのとやはり同じように、誰彼へとなく商談を持ちかけているようだった。
どうにも得心いかないのは、遠目に見えた蛇籠の中身が、もう残りわずかだった事だ。