夕立
さっと冷たい風が吹いて、鼻先に水が香った。
一転俄かに掻き曇り、黒く雨雲が出た。それから降り出すまではあっという間だった。
強い夕立に追われて、俺は転がるように家へ走る。
自宅まではわずかの距離だったけれど雨の勢いは侮り難く、玄関に着いた頃にはすっかり濡れネズミだった。
髪を手でひと拭いして水滴を払う。すぐ着替えてシャワーを浴びよう。そう思いながらドアを開けた時、おかしな感じがした。
何かが、今俺の横をすり抜けていったような。
薄黒い影が、すっと家の中に入っていったような。
実際にその何かに押しのけられたわけでも、影をはっきりと見たわけでもない。たが空気の動きというか、風の流れというか、ふわりと何かが通っていく感覚だけを確かに感じたのだ。
その不審を突き詰める前に、空が光った。間髪入れずに轟く雷鳴。近い。
「きゃあっ!?」
落雷の瞬間、そんな大仰な悲鳴が聞こえた。俺以外は誰もいない家の中から。
やはり、見えない来客が忍び入っている。
いささかならず図々しい気がしたが、この雨を避けたい気持ちは分からなくもない。
止んだら出て行くんだぞと、悲鳴の辺りへ声をかけた。