そのままがいい
電灯の位置がよくない。
何故か入口から見て部屋の奥側、窓の側にぶら下がっている。
元からそうだったわけではないようだ。
配線は天井の中央から出ている。何を思ってか、わざわざ延長して窓際に寄せてあるのだ。
お陰で自分の体がおかしな具合に光を遮ってしまって、手元に影が出来る。何をするにも具合が悪い。
越してきて数日は堪えようと思っていたのだが、どうにもこつこつと、魚の小骨のように癇に障る。ずっと暮らしていく場所の事だし、我慢を重ねる意味もない。
明日は配線を戻して、電灯の位置を替えてやろうと心に決めた。
その夜の事。
寝苦しくて目を開けると、天井一面が巨大な顔に変じていた。
いや、正確には顔の一部に、だ。
部屋の入り口を上、窓側を下にした配置で、額から鼻までの巨大なパーツがみっしりと見上げた視界を埋め尽くしている。埋め尽くして尚、顔の全ては天井に収まりきっていない。
ぎょろりと目玉が動いて、こちらを睨んだ。明らかにあちらもこちらを認識している。
あまりの事態に声も出ない。
しかし顔にとっても、電灯の位置はよくなかったようだった。
丁度鼻の穴の辺りに邪魔っけにぶら下がっているものだから、むず痒くて仕方がないらしい。しかし顔だけであるのが災いして、これをどうする事もできない。
さんざんに表情を歪めて顰めて、そのうちに諦めたのか疲れ果てたのか顔は消えた。
結局電灯は、そのままにしておく事にした。