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ノック、ノック
夜道を歩いていると、どこからかノックの音がした。
空耳かと思ったが、こつこつ、こつこつと繰り返し聞こえる。出所を探ろうと足を止めると、それはますます激しくなった。
「ねえ、聞こえているんでしょう? ねえ」
今度は細く声までもした。
それで判った。
鳴っているのはマンホールの蓋だ。
「ねえ、誰かいるんでしょう? 開けてくださいよ。ねえ。ねえ」
私は動かない。
猫撫で声とは裏腹に、ノックの音は強くなる。徐々に苛立ってきているようだった。
やがて、
「開けろと言ってるだろうが、このグズ!」
がつんと蹴りつけるような音がして、それきり静かになった。