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  作者: 鵜狩三善
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揺れる、揺れる

 俺の出た中学には、枝振りのいい大きな桜があった。

 そして、それにまつわる怪談も。

 曰く「初花の頃の夜更けには、その枝にぶらぶらと揺れる人影が現れる」。

 無論生きた者ではない。首に縄をくくりつけて枝からぶら下がって、それでもなお死なない人間などいるはずもない。


 そのぶら下がりがどういう人物であり、どういう次第で首をくくったのか。それは語り手により諸説紛々だ。

 受験に失敗した生徒が、いじめられた生徒が、恋に破れた生徒が。或いは生徒ではなく教職員が。まるで関係のない通りすがりが。

 受験に失敗して、いじめられて、恋に破れて、仕事に疲れて、桜に魅入られて。

 そんな具合に噂が噂を、憶測が憶測を呼んで、真実はすっかり藪の中だ。

 ただどの巷説(こうせつ)にも、共通する事柄がひとつある。その人影は、


「やめておけばよかったやめておけばよかったやめておけばよかったやめておけばよかった」


 そう呟きながら揺れているのだという。



 数年前、教育実習に母校へ戻った時。

 どうしても気になって、夜更けに桜へ赴いた。わざわざ間近に寄る必要はなかった。月明かりに遠目ながら、しかし確かに揺れている影は見て取れた。

 以後、足を運ぶ事はしていない。

 だが確信があった。

 あいつは、まだぶら下がっている。


「やめておけばよかったやめておけばよかったやめておけばよかったやめておけばよかった」


 そう後悔を繰り返しながら。

 多分、今でも。

 きっと、いつまでも。

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