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召喚憑依転生の――  作者: aika
序章
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第四話 狼達の森 (side 召喚者)


 あたくしこと、砂上森羅はそれなりに波乱万丈な人生を送ってきたと思っている。


 まず、物心ついた時から備わってた変な力。これの所為でそれはもうハチャメチャな騒動に巻き込まれた。何しろ色々ぶっ壊せる物騒極まりない力だ。コンクリートどーん、レンガどーん、アスファルトどーん、等々。今更ながら自分自身にツッコミいれたくなる幼い頃のあたし。

 そんな訳なので、自分自身がそうなので、厄介事に巡り会った事はそれなりにある。ヤーさんに銃やポン刀向けられた事もあるし、軍用ヘリに追い回された事も――いや、その辺は思い返すだけで大長編の物語になってしまうので記憶の奥底に仕舞い込んでおく。

 ……ようするにだ、あたしは物騒な厄介事には慣れている。

 だからこの現状は、ちょっと調子こきすぎていた事になるのだろう。


「…………地球じゃないって、日本じゃないって解ってたつもりなんだけどなぁ……考えが甘かったか。いやいや、もう確定だね。これが所謂『異世界』。あたしの今までの常識が通用しない異なる世界かぁ……」


 城から逃げ出して森に突貫して、その中で遭遇した脅威に、とりあえず現実逃避を試みるあたし。いや、だって、逃避したくもなるよ。本当に別世界なんだって思わせる事態なんだし。

 正直甘く見ていた。自分自身が荒事に慣れているから、森の中に居るのは精々野生動物だと高を括っていたのだ。その程度なら軽く対処できると考えていたのだ。

 いや、いやいやいや。別に自意識過剰って訳じゃないよ? 実際問題、猪とか熊とかそれくらいならどうにもできるし。どうにもできてたし。たまに山に猪獲りに行ってぼたん鍋とか食べた事あるくらいだし。

 だからあたしは不覚にも、異世界もその程度だって過小評価していたのだ。

 まあそれにしたってこれは予想外だったけど……何だって虎さんサイズの狼がいるのさ。


「グルルル……」

「ガァ……!」

「ウォワウ……」


 しかも一杯。や、そりゃまあ狼は群れるもので御座いますけどね。ホモサピエンスのあたくしとしましては群れられたら一大事なのですよ。あたしの知ってる狼さんよりでっかいし。

 うん。本当におっきいなぁ。真っ白毛皮は綺麗で、きっと抱きつくともふもふしてると思うんだけど……抱きついたら噛まれて喉笛食い千切られてご臨終すると思ふ。それ以前に抱きつけないとは思うけど。

 うーん。本当にどうしようか。どうにかして撤退するのが良いかも……でもこの森から逃げた所で行く場所あるのかと考えると気が重くなる。この異世界にあたしの居場所なんて無いだろうし、王族が自らあたしを利用しようとしている以上、下手に街中に逃げても捕まるだけだろうしねぇ。ホント、世知辛い世界ですよ。

 まあひとまず――この囲いから脱出するとしましょうか。


「ふっ」


 自分自身を鼓舞して呼気を鋭く駆け出す。少しでも狼の囲いの手薄な点を狙って――何か襲い掛かって来てるけど森羅ちゃんは頑張って避けます! 来ると解っていれば意外とどうにかなるもんです! 迫る爪を――とんでもなく速くておっかなかったけど――身を捩って避けて、すれ違い様に右拳をワンちゃんヘッドに叩き込む!


「……っ」


 当った。一応当った。色々“イカサマ”してる拳だから充分な威力が狼さんの脳天揺らした筈……なんだけどなぁ。全然効いてる様子が無いですよ。

 ひょっとしてこの狼さん達、狼なのは見た目だけで中身は異世界ばりのとんでも生物だったりするのかな? 一応あたしの拳は熊とか猪辺りならどうにか出来るんだけど。


「ガウッ!」


 どうにか出来てないみたいです。めっちゃこっち睨んでます。少し体勢崩した程度であんまり効いてる様子無いです。むしろ怒らせたみたいで状況は悪化の一歩を辿るばかり。

 うん。逃げよう。本気で逃げよう。こりゃどうにもなんない。あたし一人じゃ無理。

 鉄の鎧だろうが城壁だろうが、ダイヤモンドだろうが宇宙ロケット用の素材だろうが何でも壊せるあたしでも無理なものは無理なのだ。


 狼さん相手にあたしの力を――“使う訳にはいかない”のだから。


「てなわけで退散っ! 追って来ないで逃がしてねっ!」

「ガウッ! オオウッ!!」

「だから逃がしてっていってるのにぃ!!」


 迫る爪やら牙やらを避けつつ森の中を駆けるあたくし砂上森羅。

 うむ。こういう時、あたしの波乱万丈な人生も捨てたモンじゃないとしみじみ思う。普通に生きてきた人なら避けるどころか動く事も出来ずに、既にあの世に旅立ってるだろう。ずんばらりと爪で切り裂かれて。

 いや、まあ……普通の人はこんな悲惨な状況に陥る事は無いと思うのだがー。

 ぶぉんぶぉんと、あたしのすぐ後ろ辺りから風を裂く様な音聴こえるし。これが何なのか振り向いて確かめる愚は犯さない。ちゅうかね、振り向く暇あったら走らないと。足止めたら確実に死んじゃうし。若い身空で狼さんの餌になるのは嫌なのである。


「でも走ってばかりでも逃げられそうにないから……爆壊っ!」


 途中の樹に手を置いて“ぶっ壊す”。

 幹の途中からへし折れた樹が倒れ、迫る狼さん達の足を止める。ワオワオ吼えてるからきっと驚いているんだろう。ずっとそのまま驚いていて欲しい。その間にあたしは逃げるから。


「へへんだ! ざまーみさらせ! 人間様舐めたらいかんぜぇ!!」


 よせば良いのに勝手に挑発の言葉を漏らしてしまうあたくしである。

 うみゅ、自分で今気付いたが、あたしのテンション結構ハイになってるような。この不思議世界に召喚されてから立て続けに騒いでいる所為なのか。

 けど、今はそれでいい。テンション下がって走る速度緩めたら絶対死ぬ。本当に死ぬ。この森にいる狼さん達にはどう足掻いても勝てそうに無いし。あたしの力は局所的にしか無敵になれんのだ。野性味溢れるワンちゃん科の生き物相手にガチンコする気はねぇのである。


「問題はどこに向かって逃げてるのか良く解ってないって事だけど……神様仏様お願いします! どうかあたしを森の出口へと導いて下さいましー!」


 切に祈る。切に願う。そして人の居る場所に行きたい。この黒髪じゃ目立ってしまう可能性はあるけれど、それはあくまで可能性だ。たまたまあの城に居た人達が髪の毛カラフル族だって可能性も、無きにしろあらずなのだし。

 駄目だとしても、どっかその辺の若いにーちゃんに色仕掛けで迫れば匿って貰えるかもしれない! できれば純朴ぞうな若者を狙おう! 辛抱堪らなくなって襲う事が無いような、そういうドキマギ思春期的な男の人を狙って!

 何だか希望が沸いて来た。何処へ向かって走ってるのか全然解って無いけど全力疾走である。

 逃げて逃げて逃げ続ければ、きっと明るい未来が





「わふ?」





 いきなり顔を出したちっこいワンちゃんの所為で、あたしはすっ転んでしまうのであった。



「……ああ、思わず身を捻って避けちゃった……だってしょうがないじゃん。あのままだとワンちゃん蹴飛ばしそうだったんだもん……そりゃ森羅ちゃんは進路変更しますよ……その所為で足挫いたとしても悔いは無いですよーだ。後悔なんてしなーい。森羅ちゃんは何時だってーどんな時だってー」


 地面に倒れたままぶつくさ時世の句を詠うあたくし。

 もう駄目である。沢山の狼さんの気配がするのである。囲まれてるのが解るのである。

 ああもう、何をやってるのだかあたしは。あの状況で子犬――じゃなくて子狼か――を気遣う余裕なんて無かった筈なのに。蹴っ飛ばしてでも逃げていれば森の外へ出られたかも知れないのに。


「わふ? ……きゃんきゃん!」


 何か子狼ちゃんがあたしの傍で騒いでる。うつ伏せに倒れたままだからよく解んないけどね。

 そういえば、人間は追い詰められた時に出る咄嗟の判断がその人の本性だって言うけど……そうなると、咄嗟に子狼ちゃんの身を案じたあたしは結構良い奴なんだろうか。そうだと嬉しい。何せ元の世界じゃぶっ壊しまくりのトンデモガールだったから、自分の評価が良く解んないのだ。自分が良い奴だとしたら、それに勝るものはない。

 だって良い奴なら、死んだ後は天国に行けるに決まってる。ここで狼さん達に食べられたとしても死後は安泰だろう。ヤーさんに追われる事も、銃撃戦に巻き込まれる事も無くなる訳だ。

 それならそれでまぁいいか――何か悟ってきた。


「わふぅ! わふわふ! きゃうん!」


 うん。とりあえず子狼ちゃん。キミ、煩いから。こっちは覚悟決めてるんだから少し静かにして欲しい。せめて最後は安らかに――や、食われるって事は安らかじゃないだろうけど。

 それにしてもまだ食べないのか。一思いに噛み付けというのだ。あたしは自分で言うのも何だけど男好きのする身体だから肉付きはいいぞい? 充分美味しく召し上がれる筈だ。

 さあ食え! 食ってしまえ! 未練は……一杯あるけど、逃げも隠れもしないぞぉ!




「……不届きな侵入者が現れたと思ったが、よもや人が『子』に好かれるとはな」




 ……ん? 声がした。言葉が聴こえた。狼さんばかりの筈なのに……言語?

 不思議に思って顔を上げて見ると……うわぁ、とんでもない狼さんが居る。キングというかボスというかそれくらいの狼さんが居る。

 凄い。凄すぎる。何が凄いかって大きさが。だって象さんと同じくらいの大きさだよ? あたしはまだ年若い小娘でありますけどね、こんな巨大な狼なんて見た事聞いた事はおろか、想像した事すら無い。でか過ぎでしょう。この世界の生態系は大丈夫なのかしらん。


「黒髪の娘か。珍しいモノが来たものだな……まさか異界人か? ならば我が『森』の事を知らぬのは無理も無いが……」


 声は、そのキング狼さんが発しているようだった。声質はお爺ちゃんかな? 老人っぽい感じである。まあ、この大きさだ。そりゃあ随分年食ったのだろう。長生きし過ぎである。


「……一つ問う。黒髪の娘、何故お前は木々を薙ぎ倒した力を我等に向けなかった?」

「あー……別に深い意味は無いです。あたしが死にたくないから使わなかっただけです」

「どういう事だ? 死にたくないのなら我等にこそ使う道理だろう?」

「出来ないんです、それ。いや、出来るんですけど駄目なんです。“生物”に対して使うと、先にあたしがぶっ壊されるんで」


 キング狼さんの問いに、もう為すがままって感じで返答するあたし。

 そして、答えた事は全て本当だ。色々壊せるあたしの力だが、生き物、特にあたしと同じように臓器を持って骨を持って血液が流れて肺呼吸で哺乳類で――と共通点が多い生き物に対して、このぶっ壊し能力を使用する事は出来ない。

 可能か不可能かだけで言えば可能だけど、使った瞬間あたしの身体の“何か”が壊れる。

 昔、内臓破裂して文字通り死に掛けた事があるのだから間違いない。


「成る程な。枷がある、いや自ら術を束縛しているのか。殊勝な事だ。自分の力をあえて封じ、いたずらに破壊を振り撒く事を是としないとは」

「いや、そーいう訳でも……いや、そういう事にしておいて」


 妙な事は言わないでおこう。何かキング狼さん優しげになってるし。藪は突かないに限る。


「我が森に無断で足を踏み入れた事は見逃せぬが、酌量の余地はありそうだな……『子』が人を好くのも久しく見ていなかった。お前は中々に珍しい人間のようだ」


 キング狼さんは愉快そうに笑っている……笑っているんだと思う。牙剥き出しだからひたすら怖いけど、楽しげな雰囲気が伝わってきてるから。そういう事にしておこう。

 んで、子狼ちゃんや。キミはいつまであたしの傍をウロチョロしてるのかね? いや、その尻尾ふりふりしてちょこちょこ駆ける姿は可愛いけれども。


「まずは起きろ人の子よ……安心しろ。『子』がそこまで好いている以上、問答無用で喰らいはせぬ。お前の、そして我等とその『子』の今後の為にも話を聞こうではないか」


 催促されたので顔だけじゃなく、身体を起こすあたし。キング狼さんの機嫌は損ねないに限る。話を聞く限り、このキングさんが群れのボスみたいだしね。

 実際、その他大勢の狼さん達に囲まれてるけど、あたしに襲い掛かる狼さんは一匹もいない。唸ってたりするけど、ひとまず身の安全は保障されたようだ。

 ……そんな中で子狼ちゃんは尻尾ふりながらあたしに身体すり寄せてる。その気楽さを寄越せ。


「くっくっく。そのように尾を振る『子』を見れて愉快な限りだ……では娘よ。まずはお前の名から問おうか。何をするにも互いの名を知らねばならぬからな」

「えっと、はい。あたしの名前は砂上森羅。森羅が名で、砂上が苗字です。こっちの世界風に言うとシンラ・サジョウになるのかな?」

「ではサジョウと呼ぼう。それで良いか?」

「ええ、何も問題無く。というか娘でもよろしいで御座います。私は何も言い逃れいたしませぬ。海よりも深く反省しておりますので、何とぞ命だけは命だけはー」

「これこれ。まずは話を聞くと言っておるだろう。面を上げよ」

「ありがたき幸せー……で、幸せついでに聞きたいんですけど、キング狼さんの名前は?」

「キング狼……我の事か? 妙な名で呼ぶではない。我の名、真名は教えられぬが呼び名は教えよう。この身はこう呼ぶがいい――」






 大老。それが狼さん達のボスの呼び名で、奇しくも異世界で初めて行った自己紹介の相手だった。初めてのまともな交流が象サイズの狼さんだなんて、酷い話もあったものである。








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