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召喚憑依転生の――  作者: aika
序章
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第三話 王族会議 (side 転生者)


「――お前達に被召喚者の捜索に当ってもらう。尚これは王命と知れ」


 集められた王族――ライゼール現国王の実子達の前で、その言葉が掛けられた。

 今、卓の前に集められたのは私、レイゼルスを含めた金色の髪と蒼空の瞳を持つ王位継承者たち。第一王位継承者であるクルセイド・ラール・ライゼールと、第三王位継承者であるライオット・バァル・ライゼールの二人も同席している。両者とも私と違い召喚の儀に立ち会わせた王族で――二人とも王の命に反論する様子は見えない。


「異界より召喚されたモノは城壁を破壊後いずこへと逃走した……これはお前達も解っている事故に、改めて説明はせん。子飼いの者を用いても、独自の方法で捜索しても構わん。被召喚者を捕獲する事が最優先事項だ」

「それは構いませんが父上――暗部は動かさないのですか?」

「いや、無論余の命で奴等も動かすぞクルセイド。お前達にも命じるのは網を広げる為に他ならない。何しろ今回召喚されたモノは随分と“お転婆”だからな。こちらの思惑、予想の外の動きをする可能性がある。念を入れて動かねばならん……捕まえられない等という事はあってはならない。召喚物を逃がしたという時点で国の恥だ。醜聞を晒す訳にはいかん」


 兄上の問いに答えつつ、王は苦虫を噛み潰したように顔を顰める。

 我が国、ライゼールにおいて『召喚』は国事である。十年に一度の、国の未来を左右する行事。その行事によって齎せられる利益を取りこぼしたとなれば、醜態も過ぎる。

 ましてや、もしも他国にその利益を奪われる事になったら――戦が起きる可能性も。


「確かに、ね。その辺りは僕達だって考慮するさ。けどさ、父さん。まさか僕等があの女を捕まえても、父さんはそれを自分のものにするつもりかな?」

「……ふ、先にお前が捕らえたのなら妾にするなり何なり好きにするがいいライオット。余としては業腹だがな」

「ははは! 贅沢も過ぎると身を滅ぼすよ父さん? ……久し振りに面白い女と会えたんだ。あれは是非とも僕のものにするよ……妾どころか妃するのも面白いかもね」

「待て待て。流石にそれは承諾できんぞ? 相手は所詮異界人。血筋も不確かなものではないか」

「不確か……か。うん、まあそれはそうだね。けど父さん。そんなものを脇に置いておける位の力の持ち主じゃないか。あの儀式場の結界を一瞬で破るような力だよ? 血筋云々を無視できるくらいの価値はあると思うなぁ。それに見た目も悪くないしね」


 からからと笑いながら私の弟、ライオットは父譲りの金髪を揺らす。

 私は召喚の現場に居合わせた訳ではない。だが、あの儀式場の惨状は自ら目で確認した。複合多層結界により守護された召喚の空間。あの結界を打ち破るには、魔道長が魔力の殆どを消費して攻勢魔術を行使する必要がある。少なくとも、一瞬で、止める暇もなく壊せる代物ではない。

 それを、召喚された女性は瞬く間に破壊したという。確かに、利だけを見れば無視できる力ではない。

 だが――尚の事、私はそれを危うく思う。


「逆に危険とは考えないのかライオット。相手は騎士数名を打ち倒し、結界を破壊し逃げ出した人物……気性の荒い者だと言う事は明白だ。容易に考えれば被害を被るだけだぞ」

「相変わらず兄さんは心配性だなぁ。そういう相手も上手く御するのが僕ら王族の務めだろう?」

「ライオットが楽観的なのは俺も同意する。だが――レイゼルス。相手はおそらくお前が思ってるほど厄介ではない。正確には、手の打ちようがあると言った方が正しいが」


 冷静な瞳と声で、私を射抜く兄上――クルセイド第一王子。

 兄上もまた召喚された女性を目視した一人。そんな兄上が何を見て、何を確信しているのか。


「そも、今回の被害……破壊された騎士達の鎧や壁はお前も見ただろう? あの凶悪とも言える破壊力は、実際に過程を見なくても結果だけで判断できる筈だ」

「当然でしょう。あれだけの破壊力を持つ相手を手の内に取り込もう等危険極まりない。安易に手を広げればこちらの被害が大きくなるだけです」

「ああ、それ程の力を持つ相手だ――だが、な。ならば何故今俺やライオット、そして父上が今“生きている”のだ?」

「……どういう事です?」

「簡単な事だ。あれ程の力の持ち主ならば、俺達を殺す事も容易かったはずだ。にも関わらず選んだ道は脱出。騎士達も鎧は破壊され、それなりに負傷していたが死に至る傷では無かった。彼女が手心を加えた可能性も無くは無いが……何らかの理由があって殺せなかった思う方が妥当だろうな」

「……異界人を蛮族か何かと勘違いしていませんか? 異界の平民であったのなら人を殺める事に躊躇いを持ってもおかしくはないでしょう」

「ないない。それは絶対無いよ兄さん。ただの平民があんな力持ってるものかよ。言ってる事矛盾してるぜ兄さん。最初に危険て言ったのはあなたじゃあないか」

「…………」

「それに……あの女、そんな優しい女じゃないよ。あの目、騎士を見下ろしてたあの目はゴミを見るような目だった。あれ、絶対に何人か殺してる目だ。殺すのを躊躇うような女じゃあないよ」


 兄と弟が次々と語る異界人の詳細――話を聞けば聞くほど憂鬱な気持ちになってくる。

 結界を破壊したという事から薄々解っていたが……召喚されたモノは、私の生前いた世界とは無関係なのだろう。もう過去の記憶になっているとは言え、地球の、それも日本で生活していた頃、鉄製の鎧を一瞬で破壊できる術理など聞いた事も無かった。

 転生する前の前世。その前世とは全く違う世界の住人か……ならば不味いな。例え私が最初に接触できたとしても話が通じるかどうか解らない。

 名も知らぬ女性の事を思案し、思わず私は沈黙してしまう。

 しかしその沈黙も持続する事はできない。王が再び言葉を発する。


「今頃、城下町では今回の騒動が“謎の爆発”として騒動になっている事だろう。緘口令を敷いて城に居る者の口を閉ざさしても時間の問題だ。何かしらの“噂”が広がってしまう……可能ならばそうなる前に異界人を捕らえる。最悪、他国の手に渡らなければいいがな」

「生死は?」

「生け捕りを優先。殺すのは最後の手段だ。あの力はあまりに有用過ぎる。単純な話、あの力があれば侵略戦争が随分と楽になる……巨兵団を擁するガイザーグも、ラバール帝国のタルタロス要塞でさえ打ち砕けるかも知れん」

「あっははははは! 確かに父さんの言うとおりだ。あの破壊力がどこまで作用するか知らないけど儀式場の結界破れるくらいなら、その二つは多分壊せるね!」


 陽気に、幼子のようにライオットが笑う。仕草は無邪気なれど、発言は邪悪すぎる。

 ガイザーグ皇国の擁する巨兵団は無双の名を欲しい侭にする伝説のゴーレム兵団。ラバール帝国のタルタロス要塞は建国以来一度も破れた事の無い鉄壁の要塞である。この二つを打ち砕けるという事は……侵略の目途が立ってしまう事と同意。

 そして、その事実を王も、兄も、弟も理解している。今回の召喚の行く末は国の岐路であると。

 ……私達に王族に捜索任務をかせる訳だ。こんな事を、無闇矢鱈と広める訳にはいかない。間諜の恐れもあるが、問題は貴族達だ。もしも彼らが異界人を捕らえたら、反逆の可能性が出てきてしまう。それほどの力を、逃げ出した異界人は持っている。

 我が国は貪欲な者が多い。王族も貴族も、皆等しく実力主義。血筋や家柄も考慮には入れるが、最終的に決めるのはその能力。下級貴族から成り上がった者が多いのも我が国の特徴だ。

 間違いなく、異界人の女性は劇薬となる。国を活かすか殺すか、その領域の。


「それじゃ、早速事に当たらせてもらっていいかな父さん。考えたら楽しくなってきた。一筋縄ではいかない相手だし色々策を講じないとね……貴族達や他国にばれないように進めるのは大変そうだぁ」

「露見はするな。まあ、異界人の髪の色の事もある為、ばれるのはやはり時間の問題かも知れんが」

「だから、そんなタマじゃないってあの女。髪の毛くらいどうにかして誤魔化すと思うよ? くっくっく、どうやって逃げるのかなぁ、どこに逃げるのかなぁ……狩りは久し振りだから胸が躍るよ」

「……“壊す”なよライオット。異界の女性は国の大事なのだからな」

「……ふん、解ってるさ。クルセイド兄さんに言われるまでも無いよ」


 睨み合う、兄と弟。冷静な兄と、奔放な弟は時折このように反発し合う。

 特に、今回の反発は大きいものとなるだろう。求める者が異界のモノ。途方も無い力を持つ、見目麗しい黒髪の女性を求めて――血が流れるかも知れない。

 憂鬱な気持ちになる。異界の女性を巡って、兄弟が血を流す未来を思うと……気が滅入る。

 会議はその後すぐに終了したが、私の気が晴れる事は無かった。

 王が席を立ち、弟ライオットも足早に去っていく。残っているのは私と兄上のみ。


「――気が乗らないか? レイゼルス」

「……ええ、異界より召喚した女性を国の王族が追い回すなど……私は気分が悪くなるだけですよ」

「……お前は相変わらず優しすぎる。いや、甘すぎるといった方がいいか。能力や才覚は俺達以上のものも持っているというのに……お前に王の資質は無いな」

「……欲しい訳でもありませんからね。私は国の一助になれればそれでいい」

「まったく、部下として見ればお前ほど優秀な者は居ないのだがな……だが、そんなお前も異界人の捜索自体は反対しなかったな。何か思うところでもあるのか?」

「いえ。ただ、いずれにせよ保護は必要と思ったので。何も知らぬ異界の女性が歩き回るには、この世界は危険でありましょう?」

「成る程。それは確かに。まあ、あれほどの力を持った者だ。平原の魔物程度なら敵では無いと思うが」

「……“森”に逃げ込んでいたとしたら……どうでしょう……?」

「……ふむ、そうか。異界人はこの世界の常識を知らぬのだな……ならば有り得るか……? だが“森”にまで捜索の手を伸ばす訳にはいかんぞ。あそこに手を出せばこの国が滅びる」

「ええ。ですから今は……その問題の女性が“森”に逃げ込んでいないのを祈るだけです」


 我が国の傍にある広大な“森”。もしも女性があそこに逃げていたら厄介極まりない。

 流石の王も弟も、あの“森”にまで足を踏み入れない。踏み入れられない。

 今は、まだ。


「だが、あの異界人の動きは俺も間近で見た。あれは機転の利く女だ。危険を感じればすぐにでも“森”を出る。ライオットの言葉ではないが、そう簡単に終る女ではないだろう」

「……初見にしては、随分と評価なさってますね兄上」

「ああ。俺は彼女を妾にする気は無いが、駒としては間違いなく有望だ。少し礼儀と立場を教え込んでやるだけで充分使える者となるだろう」

「そう、ですか……」

「……俺は不満より先に不思議に思う。何故お前はそのような感情を持つ? お前は俺と同じ教育を受けた。違いなど皆無に近い。能力に差が出るのは解るが――何故そんな“感性”を持つのか不思議でならない」


 気を落ち込ませている私を案じるように兄上は言う。

 ……だが、兄上に私の気持ちが解る筈が無い。私には地球の、日本で過ごした記憶があるのだ。そこで培った価値観があるのだ。それは王族の価値観とは決して混ざらないものである。

 だから私は異端となっている。能力や才はあれど、王族としては落ちこぼれの異端として。

 まあ、その才覚とて、生前の記憶を元にしたイカサマ染みた代物なのだが。


「……もしもお前が異界人を捕らえたら、誰よりも先に俺に知らせろ。父やライオットよりも先にだ。俺ならば少なくとも異界人を悪いようにはしない。あの二人に渡すよりは良いだろう」

「……考えておきましょう」

「ふっ、その意固地なところだけは王族を思わせるな。容易に他者に任せない。己が目測し思考し判断する。その一点は、やはりお前は俺の弟なのだと思わせる」

「……」

「だがな、それだけでは護れる者も護れんぞ。お前は誰かの上に立つ人間ではない。誰かの下で動く人間だ。……俺の下で動けレイゼルス。それが何より、お前の力を活かす場になる」


 そして、兄上もまた金の髪を靡かせて卓を離れ去って行く。

 残ったのは私ただ一人。無力感だけを感じる私だけだった。

 それでも、動かずにはいられない。異界人の捜索もそうだが、仕事はそれだけではない。私達王位継承者には国の財政に関わる領地をそれぞれ一つずつ預かっている。最も大きな交易は王が受け持っているが、鉱山や塩田などの重要な領地は王位継承者に任せられている。

 私が預かっているクレナス伯爵領もその一つ。銀山のあるあそこの領地運営も私の仕事だ。



 動かねばならない。無力感があろうとなかろうと――立ち止まる事は許されていないのだから。



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