【history boy】
神原たちのもとにある手紙が送られてきた。その手紙がきっかけとなっておこる、神原たちに降りかかる災難とは?
そして神原の過去とは?
騎士編スタートです。
『C†Bの皆様へお願いがあります。今、私の屋敷ではある奇怪な事件が起こっており、村の皆は“竜がお怒りになられた”といって私の話をききません。警察にも頼ってみましたが全く相手にされません。そこで警察の方々になんども話を聞いてもらい、あなた方であれば受けてくれるかも、といわれたので今回手紙を出させていただきました。私の屋敷はただ今ホテルとして営業しております。宿泊代、通行費などはこちらが負担いたしますのでどうか依頼をお受けください。恐怖の中で怯える私をお助けください。 ホテル〈青龍〉オーナー 伊達露宗』
第三話【history boy】
神原たちの元にある一通の手紙が来た。その内容は神原の好奇心をくすぐるもので即座に受けるといった答えがかえってくるようなものだった。
――依頼者宅
「本日はお越しいただき誠にありがとうございます。私がこのホテルのオーナーの伊達露宗と申します」
そういって依頼者である伊達露宗は頭を下げた。
遡ること数十分前、神原たちは指示された通行ルートでこのホテルにたどり着いた後、普通はチェックインなどをして部屋に荷物を預けるはずなのだが、神原たちと荷物は離れ離れになってしまった。正確には、神原たちと、荷物と五十嵐が、だが。
「いえいえ、礼には及びません。しかし、一つだけ、質問してもよろしいでしょうか?」
依頼人との受け答えは草加の役目となっていた。五十嵐は荷物番で、長谷川はホテルの散策、神原は草加の後ろで話を聞く。今回はこのスタイルでいくようだ。
「はい、なんでしょうか?」
「このホテルの名前はよく聞くので客足が多いと思っていましたが……今日は静かなので何かあったのかと思いまして」
「ああ、それはですね、実は私、C†Bの皆様だけでは心細くて私立探偵や、警察の方、各分野での天才と呼ばれる方をお呼びしています。そうですね……確か十二人ほどだったと思います」
「その方々の名簿を頂いても?」
「ええ、よろしいですよ。後ほど部屋へお持ちいたしますのでそれまでお部屋でおくつろぎください。今、係りのものを呼びますので」
「分かりました。ありがとうございます」
草加は深く頭を下げ、依頼人が部屋へ出て行くのを待った。ガタ、と音をたてて襖を閉める音を聞いたのを確認し、神原に話しかけた。
「それで、神原。どうだ?」
「……手慣れてる」
「は?」
「あの依頼主、警察とかに手慣れてる。……少し気分が悪い、外に出てる」
「あ、ああ……」
神原は部屋から出た後仲居さんに頼み、ホテルの裏庭のほうへ出ていた。
(……見たことある風景、嗅いだことのある匂い、そして何より、聞いたことある声……。ここは、なんだ?)
「気持ち悪い……」
そのとき、ガサ、と茂みのほうから音が聞こえた。神原はすぐに身構え、周りの様子を探った。そして神原の肩にポンと手をのせたのは時間にしてとても短い時間である。
「!」
「待て、待てって! 俺だよ俺、轟政司だっつーの!」
「轟……なんだ、トドロキか」
「なんだとはなんだ。あ、そーだ。今よ、ホールんとこに神原を名乗る女の子がきてるらしいぜ?」
神原の肩を叩いたのは轟政司という青年で年はおおよそ神原と同じぐらいだ。そんな彼と神原は高校時代のクラスメートで“犬猿の仲”と称されるほど仲が悪かった。面白いぐらいに意見が食い違うのである。だが、今は同じ職を持つものとして(神原に関しては副業)とりあえず仲を良くしているのだ。
「そう。それじゃあ、次あうときは黄泉の河で、ね」
「あいかわらず物騒だな……。ま、イイケド? ホールはここをでてまず左。暫らく真っ直ぐ進んで、右だ」
「お節介ありがと」
そして轟という男を去っていった。神原のポケットの中に一通の手紙を残して。
――ホテル青龍ホール
「だから、言ってんだろ! 私は“カミバラ”だっつーの!」
「お客様! 落ち着いてください!」
ホテル青龍のホールではカミバラを名乗る少し口のよくない女の子がオーナーである伊達露宗と対峙していた。
そこへちょうど居合わせた神原由悟は少し面倒臭そうにしながらもそこへ向かった。
神原が面倒臭そうにしたのには理由があった。一つは、自分を名乗る女の子と面識があること。そしてもう一つは、そこに轟政司の次に天敵である人物がいたからである。
「伊達さん、どうしたんですか?」
神原はあくまで笑顔でトラブルへ立ち向かった。
「ああ、“神原”さん。実はこの女の子が自分が“カミバラ”といいはじめまして……」
「なっ! 私はカミバラっていってるだろ! そこの男と一緒にするな!」
「はぁ……伊達さん、彼女はカミバラですよ。ただし、僕と漢字が違いますが。彼女は上原由佳。僕の上司にあたる警察でトップを争ったという上原さんの娘さんです」
「え、あの上原さんの? これは失礼しました。では招待状はお持ちですか?」
「招待状?」
女の上原がそう聞くと、神原由悟の目が少し光った。
「伊達さん、彼女はC†Bの一員なのですが、今回の事件においては危険すぎると思いまして留守番させていたんです。ほら、女の子ですし、世の中物騒でしょ? それが気に食わなかったようですね。彼女はこちらで預かるので仕事のほうにお戻りください」
「は、はぁ……」
「さ、行こう」
神原由悟は上原由佳の手をひき、伊達から与えられた本館より少し離れた別荘のほうへ向かった。
「どういうことだよっ! なんであんたがここにいるんだ!」
別荘にはすでに五十嵐がソファーでねていた。神原はそれを無視し、二階へと彼女を誘った。
「どうもこうもないよ。こっちは仕事で来てるんだ。邪魔されちゃ困る」
「そんなことじゃない! なんで私があんたのグループなんかに入んなきゃいけないんだよ!」
「あの場では仕方なかったんだ」
半狂乱になんて騒ぐ彼女に反して、神原は彼女の質問に冷静に答えた。どうやら彼女は彼、神原のことを嫌っているらしく、早くこの部屋でて行きたそうだが、神原が唯一の出口を塞いでいるのでそれはかなわずにいる。
「……っもういい……あんたと話してたらこっちが疲れる」
「そ。じゃあ次はこっちから質問。招待状がないのになんでこの場所がわかった?」
「それは……」
「脅迫文」
「!?」
「持ってるんでしょ、見せて」
神原は確信をもって彼女に言った。彼女が渋々出した紙には『父ト共ニ、同ジヨウニオマエヲ竜ガ喰ラウ』と書いてあった。
「……その手紙が2週間前ぐらいに来た。父と関連して、竜が関連するところはここしかなかった。ホテル青龍、またの名を蒼龍……父が追った最後の事件現場……」
「……君は常に僕、もしくは草加、五十嵐でも長谷川でもいい。C†Bのメンバーと共に行動して。何を言われても、僕たちの目の届く範囲にいて」
「は? なんでだよ」
「君はここで殺されたいの? なら別にいいけど」
そして神原は「この部屋にいればある程度の安全は保証するよ。この別荘ないであれば自由に行動してもいい」と言い残してこの部屋を出ていった。
‡ ‡
「おーい、由悟ー!」
「……」
「かくれんぼかー? よし、おじさんすぐに見つけるからなー」
まだ僕がC†Bという組織を作って間もないころ、僕にも父親のような存在がいた。父親代わりの男性の名は上原由貴といい、子持ちである。そんな理由で僕の面倒を見ていたが、一向に僕は彼になつこうとしなかった。今も彼から隠れるように本を読んでいた。僕がようやく物語のクライマックスを読もうとしたとき、みーつけたいう声が上から降ってきた。
「お前さぁ、別に俺になつかなくていいから話くらいはしようぜ?」
「……僕は誰とも仲良くするつもりはない」
「そんなこと言うなよ」
上原は少し困ったように笑った。迷惑と思うなら離れればいいのに。
「由悟、警察っていうのはチームワークが大切なんだ。つまり、コミュニケーションが取れない奴は警察にはなれない」
「別に。ただ僕は面白いことをしてたいだけだ。人間関係とかを考えるのは面白いと思わない」
僕はこのとき何を思っていたのかは覚えていない。ただ、このときの僕に対する彼の言葉が、顔が、ひどく鮮明に僕の頭に残っている。
「由悟、別に俺は自分の仕事に誇りを持っていなくたっていい。俺のことだって嫌いと思っていてもいい。ただな、ヒトの命を、ヒトの生死を“おもしろい”なんて、ゲーム扱いするな。もちろん、自分の命もだ。それだけは言っておく」
滅多に怒らない彼をこんなにも怒らせたのは僕だけじゃないだろうか。そう思うほどに彼はよく笑う人物だった。そして、別れの時が近づいていく。
彼が怒った日からちょうど一ヵ月後、彼と僕とは一緒の部屋にいて別のことをしていた。僕は読書に没頭し、彼は旅支度をしていた。
「どこいくの」
「ん? ああ、ちょっと北の方に用事があってな。ああ、そうだ。俺が帰ってこなかったらあと、よろしくな。何年かたって、俺のこと気になったら“青い一つ目の龍”のところへ行け」
「……興味がわいたらね。だいたい、殺しても死なないような人が何を言う」
「それもそうだな。じゃ、いってきます!」
それが彼との最後の会話だった。
‡ ‡
ホテル青龍はもともと蒼龍の棲む泉と言われていた。だが、今のオーナーはそれを無視し、そこにあった大きな池を埋め立て今のホテルを建てた。そこから何年後か、このホテルで不可解な死が相次いだ。その村に住む住民は龍のお怒りだ、天罰が下ったなどと言ってオーナーの話どころかそのホテルに泊まった客に対しても言った。そこでオーナーはこの村の歴史を調べようとするが、この村にそのうような書籍はなく、調べようがなかった。だから今回、神原達とその他の天才達を呼び、犯人を見つけてもらおうという考えだ。
と、オーナーは十五人の天才達プラス二名をこのホテルで一番の大きな部屋である“泉ノ間”という場所に集め、これまでのことを話した。
今この部屋にいるのは、警察、検察、私立探偵、大学教授、学者などと言った日本の中でも名高い天才達だ。その中にニートなどといった天才もいる。神原のことだ。お互いにお互いの顔を知っている中、神原の顔を知る者はC†Bと上原由佳、轟政司以外に居なかった。
「あー、オーナーさん? 誰ですか、そこにいる明らかにこの場に相応しくない人たちは」
検察の江藤心が神原達をさしてそう言った。
「ああ、こちらの方々は――」
「僕たちはC†Bのものですよ。江藤さん」
神原はオーナーの言葉を遮って言った。
「僕はC†Bのリーダーって言うんですかね、神原由悟です。で、こっちのオールバックが草加直人。そこのツンツンが五十嵐勇人で、そこのパソコン中毒生……じゃなくて中学生が長谷川森羅。でこっちの女の子が……由佳です。どうぞよろしく」
所謂営業スマイルというもので神原は彼らに紹介した。
「僕ハ、氷野真人っていうノ! 多分この中で一番年下だヨー!」
「私は探偵事務所を経営しております、阿部と申します。以後お見知りおきを……」
「そういえば伊達さん、僕が聞いた人数より一人、少ない気がしますが……どうしたんですか?」
「え? ああ、冨山様でしたら気分が優れないとかで部屋のほうにいらっしゃいますが」
「……冨山、冨山……由悟、冨山義正っていうヤツは確か……」
「――治せない病はないと豪語する天才外科医……伊達さん、案内して」
神原は何かを悟ったようにオーナーに案内を求めた。
このときから始まっていたのだ。ここホテル青龍――改め、蒼竜の棲む泉を軸にして起こる、呪いといわれた連続殺人劇が。
本当は一話で終わらそうとしたら、無理だったので何話かにわけて投稿することにしました。