表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
C†B  作者: 鶺鴒瑠李
2/4

【past boy】

今回は若気の至りのようなオハナシです。特に推理という推理はでてきません。

 昔、正確な数値で表すことはできないが、昔。僕がまだ“普通の”人間だったころの話だ。僕が才能を開花させたときの話をしよう。


 第二話【past boy】


 中学生の秋のことだ。僕らは受験を控え、死に物狂いで猛勉強した。というのは冗談で、普通に、願書を提出する準備や勉強をしていた。推薦組を除いて、だが。


 そんな忙しい時期に事件は起きた。


 誰が殺されたとか、誰が傷ついたとかではない。“消えた”のだ。ありえないものが。盗んだとしても特にメリットがないものが。真っ先に疑われたのはクラスメイトの紀伊だった。彼は生徒会に目をつけられているが、親のバックが恐くてみんな手が出せないらしい。それをいいことに彼はチャラチャラと音をならし登校していた。シルバーアクセサリーといわれるものを全身に纏っているようなものだ。しかし、彼はある程度のマナーはわきまえている。それをクラスメイトたちが知っているので彼をみんなでかばい、なくなったものをみんなで探した。

 僕はそれには参加しなかった。理由は時間の無駄であること、大人数で探しても効率が悪いこと、何より彼をかばって僕にメリットがないからだ。このころの僕はメリットデメリットで行動していた。その原因となった話は今はおいておくとする。

 しかし、今回の事件には興味があった。不思議な点はいくつかあるのに頭のいい生徒会のメンバーがそれに気がつかないということなどだ。犯人の目的は分かったし、盗まれた物の在り処も分かった。ただそれを証拠とする物的証拠がない。それを探すため僕は“ある場所”へ向かっていた。その部屋には「生徒会室」とかかれた小さな看板がある。この部屋は今回の事件の舞台だ。ここにあった金庫の鍵がなくなったのだ。その金庫の中身は職員の個人情報がつまったファイルの束だった。滅多なことがない限り使われることはないが、数十年分の個人情報が入っているので金庫に入れたいたらしい。その鍵は代替わりしたとき新生徒会長へ認証状と一緒に渡される。そしてその鍵には代わりがない。コピーできない特殊なものらしい。それの大きさは大体親指くらい。なくさないようにとキーホルダーと鈴がついている。

「……ああ、よく考えれば犯人は物的証拠を残すことができないのか。そうなると、犯人は一人だけになる……」

「神原? お前なんでこんなところいるんだよ。看板見えなかったのかよ」

「紀伊、か……。うん、決めた。僕が君の罪を晴らしてあげるよ」

「は? なんでだよ」

「たしか君の親は本のコレクターだよね? 僕読みたい本があるんだ。それをタダで、もしくは半額で売ってくれるなら君の罪を消してあげるよ」

「……てめーの読みたい本のタイトルは?」

「“就活のススメ”っていう本なんだけど。ある?」

「あー、たしか親父が持ってたって、そんなんでいいのかよ?!」

「先生に何か職をつけなさいといわれていてね。職業について知りたかったんだよ」

「そうかよ。その本でいいならタダでくれてやる。ただし、俺の疑いの目が消えてからだ」

「勿論だよ。よし、交渉成立。明日、楽しみにしてなよ」

「お、おう……」

 ほしかった本をタダでもらえるという条件つきで、僕は紀伊と交渉した。


 そして次の日の給食時間。

 僕たちのクラスは放送室から一番近い教室でよくクラスメイトがそこへ訪れ下級生から給食をカツアゲしていた。下級生に関しては涙目だったが、先輩と後輩の関係からか何もいえない。先生方もこのことを知っているのだろうが、下級生達が何も言わないため何も出来ないらしい。

 問題はそこではない。給食時間のある時間、各委員会からの連絡が入る。そこで彼らの昼休みを貰い、紀伊の疑いを晴らさなければいけないのだ。そして時間はやってきた。

「委員長からの連絡です」

 放送委員の滑舌のいい言葉が放送器具から流れた。これを合図に僕は動いた。大抵の委員長はこの放送を聞いた後に放送室へ向かう。僕のいる教室からその様子は確認できた。一番最初に放送しなければいけないのだ。委員会に属している者は自分の委員会の連絡が終わった後もう他の委員会の連絡に耳を傾けない。最初に連絡することで、全員の耳に放送を連絡することが出来る。そのことを知ってか、生徒会は最初に連絡するという暗黙のルールがあるようだ。

「三年の神原です。今日の昼休み、全校生徒は体育館に集まってください。繰り返します。今日の昼休み、全校生徒は体育館に集まってください。三年の神原からでした」

 三年という言葉を強調するだけで一、二年は必ず体育館へ集まる。三年に関しては普段目立たない行動をしている僕が何をするのかという好奇心から全員集まるだろう。先生方も同じ理由で集まってくれる。そうして舞台は整い、時間が来た。僕はたのんだ覚えはないのだが、放送委員からマイクを一つもらい、壇上へとあがった。

「こんにちは。今回皆さんを集めたのは先日、生徒会室の金庫の鍵がなくなった件についてです。今、僕のクラスは全員でその鍵を探しているところですが、僕は自分のやり方で鍵を見つけることが出来ました。しかし、今問題なのはそこではありません。問題なのは、犯人が『なんの目的で』『誰に向けて』『いつ、どのように』この犯行を行ったかということです。まずは犯人から突き止めましょう。生徒会の皆さんは僕のクラスメイトの紀伊君を犯人と見ました。しかし彼は犯人ではありません。まず、彼にはアリバイというものもあったし、彼はそんなことをする人間ではありません。信じられないかも知れませんが、みなさんは知っていますか? 彼はこの学校で皆勤賞候補であることとこの学校の図書室にある本のほとんどが彼の親からの寄付であること。それに、彼の親は大手の企業の社長です。金庫の中の個人情報がほしいならそれを見るより自分で調べたほうが早い。そもそも彼が先生方の個人情報を知ってメリットはない。これが彼が犯人ではない理由です」

「あの、それだけで理由になるのでしょうか? ただ単に彼が、紀伊先輩がみんなを困らせたいから、だからかも知れないじゃないですか」

 と後輩兼今回の犯人である生徒会役員生活委員長の黒道こくどうはやてが質問してきた。話をそらしたかったからか、どうしても紀伊を犯人にしたいからかどこか焦ったように質問をしてきた。しかし、それは想定内の質問だった。

「……犯人の目的は一つ。紀伊君をクラスから、学校から、孤立させることです。ある人物は、先生の次に遅く下校することが出来る。その人物はみんなが帰ったあと、一人学校に残り、時を待ち、鍵を奪った」

「なるほどなぁ……たしかにこれじゃあわからねぇわ。おい、神原持ってきたぞ」

「遅い。時間を稼ぐのは楽じゃないんだ。まあ、今紀伊君が持ってきたこの鍵が金庫の鍵」

「と、そこの委員長の鍵だ。今日、俺のカバンの中にコレを入れてこの事件を解決し俺を孤立させようとしたんだろ?」

「違う、僕はやってない! 大体、僕がそんなことして僕にどんなメリットが……」

「早すぎる否定は肯定を表しますよ。まあ、理由なんて簡単ですし、この犯行にはトリックすらない。物的証拠がなくてもあなたが犯人だと断定もできる」

 神原はそういった。このとき、誰が思っただろう。全て、神原の手の内のことだったと。黒道の返答も、紀伊の登場のタイミングも、全て神原の計算だった。

「もしその鍵が断定できる証拠だというのなら、その鍵が僕のだという証拠でも? 僕の家は生憎とカード式なんだよ」

「まさか。鍵で証拠になるなら全部紀伊君に任せますよ。証拠なら貴方が言ったじゃないですか」

「は?」

「ほら、えーっと……そう、『違う、僕はやっていない!』でしたっけ? 紀伊君はそこの委員長といったんですよ? 指もささなかった。何故金庫の鍵についているのが貴方のものだって分かったんですか?」

「……っ」

「もう終わりでいいですか? では、チェックメイトです」

 そうして小さな鍵の紛失事件は先生からの生徒指導のみで幕を閉めた。


 後日、神原は紀伊から就活のススメという本を貰おうとするが、断り、違う本を手に入れた。その本のタイトルは『つめチェスのススメ』という本だった。その本は今、静かにビジネスホテルのベッドに眠る神原の腕の中にある。


 ‡ ‡


 これが僕の才能が開花したときの話だ。その後、紀伊君とは高校で別れ、それ以降面識もなく、お互いにこの出来事は思い出として残っている。でも、噂に聞いた話では紀伊君はお父さんの会社は継がず、小さな店で店長として生活しているらしい。でも、それが本当かは分からないけどね。


いかがでしたでしょうか?


感想などをもらえると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ