後悔買取店 ―その後悔、三十二万円です―
後悔を売買できるようになった世界の、ある一日の話です。
少し不穏な短編ですが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。
「その後悔、三十二万円ですね」
男は泣いていた。
だが、査定額を聞いた途端、涙が止まった。
「……そんなに?」
「強い後悔ですから」
俺はタブレットを返した。
画面には、後悔に結びついた記憶が残っている。
病院の廊下。
閉じた手術室。
母親から最後に届いたメッセージ。
――たまには帰ってきなさい。
既読をつけた。
返さなかった。
三ヶ月後、母親は死んだ。
「こちらにサインを」
男は鼻をすすり、署名した。
査定機の透明なカバーが下りる。
低い駆動音。
七秒。
男が瞬きをした。
「あれ」
自分の頬に触れる。
「俺、なんで泣いてたんでしたっけ」
珍しい反応ではない。
「お母様の件です」
「ああ」
男は画面を見た。
母親のメッセージが、まだそこにある。
「そうでしたね」
それだけだった。
三十二万円の入金を確認すると、男は二度頭を下げ、店を出ていった。
自動ドアの向こうで透明な傘を開く。
外は朝から雨だった。
これが俺の仕事だ。
正式には《感情資産取引士》。
世間では、後悔屋と呼ばれている。
二〇四一年、記憶と感情を切り離す技術が実用化された。
最初に扱われたのは恐怖だった。
事故や犯罪の記憶を残したまま、身体を震わせる恐怖だけを除く。
次に幸福が商品になった。
結婚式。
初めて子供を抱いた日。
亡くなった祖父と釣りをした午後。
金に困れば、幸福を売る人間もいる。
そして、最も大きな市場になったのが後悔だった。
後悔は役に立つ。
会社を潰した経営者。
部下を追い詰めた上司。
子供との関係を壊した親。
彼らの後悔を移植された人間は、似た状況で強い忌避反応を示す。
他人の失敗を、失敗せずに学べる。
企業研修。医療。教育。スポーツ。
後悔は今や、資産だった。
俺は十二年、この仕事をしている。
客が売る。
会社が買う。
別の誰かが使う。
俺は値段をつける。
善悪について考えるのは、ずいぶん前にやめた。
ただし、一つだけ例外がある。
《特級後悔》。
端末にその四文字が出たら、査定を中止する。
客に触れない。
詳しい事情を聞かない。
警察へ通報する。
理由は知らない。
新人の頃、研修で尋ねたことがある。
講師は資料から目も上げず、
「知る必要はありません」
と答えた。
十二年間、一度も見なかった。
だから、その存在自体をほとんど忘れていた。
その日の午後七時二十三分までは。
少女が入ってきた。
高校生くらいに見えた。
濡れた黒髪。
紺色の制服。
白い靴下は雨を吸って、足首まで灰色になっている。
右手に透明な傘。
左手にはコンビニの袋。
「後悔、売れますか」
「未成年は保護者の同意が必要です」
「十八です」
学生証を差し出す。
久住絵麻。
十八歳。
「どんな後悔ですか」
「先に測ってください」
「内容を伺わないと――」
「測れば出るから」
妙な言い方だった。
簡易査定を開始する。
通常なら二秒。
三秒。
五秒。
端末の画面が暗い赤に変わった。
警告音。
《解析停止》
《資産由来異常》
その下に、
《特級後悔》
俺はカウンター下の緊急ボタンへ手を伸ばした。
「押さない方がいいですよ」
指が止まる。
「規則です」
「知ってます」
「なら――」
「その後悔の中にいる人」
少女が俺を見る。
「あなたですから」
*
「俺を知ってる?」
「知ってます」
「どこで会った」
「会ったことはないです」
「じゃあ、どうして」
絵麻は答えず、店内を見回した。
白いカウンター。
査定機。
ウォーターサーバー。
壁には本部指定のポスター。
《後悔を手放して、明日へ》
絵麻はそれを見て言った。
「これ、嫌い」
「何が」
「このコピー」
「本部に言ってくれ」
絵麻の眉がわずかに動いた。
「……やっぱり言うんだ」
「何を」
「同じこと」
胸の奥に、小さな棘が刺さった。
「前にも俺が言った?」
「だから、会ったことはないって」
絵麻はコンビニの袋から黒いケースを取り出した。
旧式の感情媒体。
「これを買いました」
カウンターへ置く。
値札が残っていた。
《判断失敗/対児童》
二百六十四万円。
正規流通コード。
販売元。
うちの会社。
「どこで手に入れた」
「公式オークション」
「特級資産が一般市場に出るわけない」
「買った時は特級じゃなかった」
「どういう意味だ」
「私に入れてから、そうなった」
俺は顔を上げた。
「移植したのか」
「はい」
「自分で?」
「正規のクリニックで」
二百六十四万円払って、見知らぬ人間の後悔を自分に入れる。
「何のために」
「知りたかったから」
「何を」
絵麻はケースを指で押した。
「番号、調べてください」
端末に入力する。
商品は実在した。
販売済み。
購入者――久住絵麻。
生成日は七年前。
二〇三四年十一月十九日。
日付を見た瞬間、何かが引っかかった。
絵麻は俺の顔を見ていた。
「久住湊」
名前が記憶を連れてきた。
三歳男児。
浴槽内で溺死。
母親は在宅勤務中、数分間浴室を離れていた。
大きく報道された事件だった。
「……あの事件か」
絵麻の表情が変わる。
「今の言い方」
「何が」
「さっきの人と同じ」
「さっき?」
「お母さんに返信しなかった人」
店の外から見ていたらしい。
「『ああ、そうでしたね』って」
俺をじっと見る。
「同じ顔してた」
背中を汗が伝った。
「私は湊の姉です」
*
母親の名前は久住明日香。
湊が死んだあと逮捕され、今も服役しているという。
「来月、出てきます」
「そうか」
口にした瞬間、さっきの男の顔が浮かんだ。
――そうでしたね。
「その後悔は」
俺は黒いケースを指した。
「誰のものだ」
絵麻は俺を見た。
「あなた」
笑いそうになった。
「俺はこんなの売ってない」
「そう?」
「売れば覚えてる」
後悔を売っても、出来事の記憶は残る。
処置を受けた事実も。
だから分かる。
俺は――
絵麻がカウンターの下へ手を伸ばした。
反射的に身体が固まる。
指先は、緊急通報ボタンの横にある小さな傷をなぞった。
「ここ」
言った。
「前は銀色のテープ貼ってましたよね」
心臓が強く打った。
「……なぜ知ってる」
「知らない」
「今、言っただろ」
「だから困ってるんです」
絵麻は自分のこめかみを押さえた。
「私じゃない記憶がある」
「……」
「昨日、コンビニで缶コーヒー買いました」
「それが?」
「ブラック」
「普通だろ」
「私、コーヒー嫌いなんです」
笑った。
目は笑っていなかった。
「なのに、飲んだら懐かしかった」
俺は何も言えない。
「右手の親指で、缶のへこみ押す癖も」
言われて自分の手を見る。
親指がカウンターの縁を押していた。
絵麻が同じ動きをした。
「これも、あなたでしょ」
*
媒体を査定機に入れた。
十一秒かけて読み込む。
画面に記憶が映った。
七年前。
この店。
内装だけが少し違う。
カウンターの向こうには、若い俺。
目の前に一人の女。
久住明日香。
覚えている客だった。
息子を風呂に入れていた。
仕事の電話が鳴った。
一分だけのつもりで浴室を離れた。
戻ると、三歳の息子が湯船で滑っていた。
その時は助かった。
だが、それ以来、明日香は子供を風呂に入れられなくなった。
眠れない。
湯の音で吐く。
息子を見ると、湯船に沈んだ姿が浮かぶ。
『これ、取れますか』
画面の中で明日香が尋ねた。
若い俺が答える。
『取れます。ただ、この後悔には再発防止に関わる反応が含まれています』
『簡単に言ってください』
『同じことを、もう一度やる可能性が上がります』
明日香はしばらく黙った。
『それでもいいです』
端末には、
《買取非推奨》
と赤く表示されている。
若い俺は一度、
『当店では買い取れません』
と断った。
ここまでは覚えている。
明日香は泣いた。
何度も頼んだ。
最後は怒鳴って帰った。
俺はあの日、客を守った。
ずっとそう思っていた。
映像は続く。
閉店後。
店長の河本がバックヤードから出てくる。
『何で落としたの』
『再発リスク高いんで』
『この資産、本部が欲しがってる』
『無理ですよ』
『今期の育児領域、数字きついの知ってるよね』
俺は黙っている。
河本が言った。
『四十八でどう?』
『何がです』
『査定額。二十五じゃ客も迷うだろ。四十八なら戻ってくる』
知らない。
そう思った。
だが、映像を見ているうちに、記憶が輪郭を持ち始めた。
俺は知っている。
ずっと知っていた。
どうでもいい出来事として、残っていただけだ。
画面の中の俺が言った。
『六十なら来ますよ』
絵麻が息を呑んだ。
河本が笑う。
『強気だね』
『このタイプは金じゃないです。自分を罰したいんですよ。高い方が納得する』
翌朝。
俺から明日香へ電話している。
『昨日の査定ですが、再評価で六十万円まで出せることになりました』
長い沈黙。
『ただ、リスクについては――』
そこで、本来読むべき説明を飛ばした。
『もちろん、絶対に同じ事故が起きるわけではありません』
声が、少しだけ柔らかくなる。
明日香は店に戻った。
六十万円。
後悔は売られた。
八ヶ月後。
久住湊は死んだ。
同じ浴槽で。
母親が仕事のメールを返している間に。
再生を止めた。
「続き」
絵麻が言った。
「もういい」
「最後まで」
「知ってる」
「知らない」
「知ってる!」
声が店に響いた。
絵麻は黙った。
俺の手が震えている。
怒っているのか。
怖いのか。
分からなかった。
再生する。
事件の三日後。
閉店後の店。
一人で座っている俺。
机には、開けていない缶コーヒー。
ブラック。
若い俺は泣いていた。
鼻水も拭かず、
同じ言葉を繰り返している。
『俺が売った』
『俺が売った』
『俺が売った』
翌日。
人事との面談。
『辞めます』
『まず休職を』
『辞めます』
『榊さん、これはあなた一人の責任ではありません』
若い俺が笑う。
『六十万にしたの、俺です』
相手は黙った。
『説明飛ばしたのも』
数日後。
感情処置室。
俺が椅子に座っている。
《社員感情衛生プログラム》
技師が確認する。
『久住湊死亡事案に関する後悔、罪悪感、自己嫌悪。この三項目で間違いありませんか』
『はい』
『処置後も事実記憶は残ります』
『はい』
『判断傾向に影響する可能性があります』
『はい』
『本当に希望しますか』
若い俺が顔を上げた。
『明日から普通に働けるんですよね』
『多くの場合は』
『じゃあ、お願いします』
そこで映像は終わった。
*
「私、あなたのこと嫌いです」
絵麻が言った。
「そうだろうな」
「その言い方も嫌い」
俺は黙った。
「七年間、母が怪物になったと思ってた」
刑務所で面会しても、明日香は湊のことを覚えている。
死んだ日も。
葬式も。
裁判も。
全部。
でも泣かない。
後悔しない。
「『かわいそうだったね』って言うんですよ」
絵麻の爪が掌に食い込んでいる。
「自分の子なのに」
黒いケースを見る。
「だから探した」
「この後悔を?」
「事件に関係するやつを、片っ端から」
裁判記録。
感情資産の流通履歴。
裏で売られる番号。
二年かかったという。
「あなたのだって知らずに買った」
「二百六十四万も?」
「弟が死んだ理由が分かるなら」
少し間を置いた。
「安いと思った」
移植してから三ヶ月。
最初は夢だけだった。
知らない店。
缶コーヒー。
査定端末。
そのうち、自分のものではない記憶が昼間にも浮かぶようになった。
「最近」
絵麻が言った。
「湊の顔を思い出そうとすると、あなたの記憶が先に出る」
俺は何も言えなかった。
「私、湊の笑い方忘れかけてるんです」
初めて声が崩れた。
「なのに河本って人の笑い方は分かる」
俺の背中が冷える。
「特級って、何なんですか」
答えられない。
絵麻が笑う。
「社員なのに知らないんだ」
端末に警告詳細の表示が出ていた。
原所有者確認済み。
閲覧権限解除。
押す。
《特級感情資産》
《高密度人格結合を検出》
《移植先に原所有者の記憶・判断傾向・嗜好等が定着する恐れがあります》
その下。
《処置選択》
二つ。
《原所有者へ再統合》
《現所有者へ定着》
原所有者へ戻せば、絵麻から俺の感情と周辺記憶は除かれる。
侵食は止まる。
俺には七年前の後悔が戻る。
ただし、長期間分離されていた強い感情の再統合には重い副作用がある。
抑うつ。
解離。
自傷。
自殺企図。
もう一つ。
現所有者への定着。
現在の混乱は収まる。
代わりに、俺の記憶や判断傾向の一部が、絵麻の人格として固定される。
「選んで」
絵麻が言った。
俺は画面から目を離さない。
「お前が決めることじゃないのか」
「決められないから来たんです」
「俺に?」
「あなたの後悔だから」
「今はお前の身体にある」
「だから何」
声が荒くなった。
「私に決めろって?」
「……」
「あなたになりかけてる私に?」
言葉が出なかった。
絵麻が立ち上がる。
「最近」
涙を拭わずに続けた。
「母のこと、許してもいい気がする時がある」
「それは――」
「違う」
俺を見る。
「私じゃない」
その顔を見て、初めて怖くなった。
後悔を売る。
苦しみをなくす。
俺はずっと、そう考えていた。
だが売ったものは、消えるわけじゃない。
誰かの中へ行く。
十二年働いていて、そんな当たり前のことを考えたことがなかった。
*
「戻して」
絵麻が言った。
「返してください」
画面の《原所有者へ再統合》を指差す。
俺は指を置いた。
本人認証。
あとは押すだけ。
俺の後悔を戻せば、絵麻から俺が消える。
俺は七年前に戻る。
泣く。
吐く。
眠れなくなる。
死ぬかもしれない。
それでも、それが当然だと思った。
指に力を入れる。
店のドアが開いた。
「すみません」
さっきの男だった。
母親への後悔を三十二万円で売った男。
「忘れ物したみたいで」
傘立てを見る。
透明な傘が一本残っている。
「あった」
柄には、小さな白いシール。
丸い字で、
《たかし》
と書いてある。
「それ」
思わず聞いた。
「お母さんのですか」
男は傘を見た。
「ああ、たぶん」
「たぶん?」
「母の家から持ってきたんで」
笑う。
「捨ててもいいんですけど、まだ使えるから」
男は会釈して出ていった。
ドアが閉まった。
絵麻は何も言わない。
俺の指は、まだ実行ボタンの上にある。
「……ああなるのが嫌なんですか」
「分からない」
「怖いんでしょ」
「怖い」
「じゃあ、私に残す?」
答えられない。
どちらを選んでも、誰かの中から何かが失われる。
「少し待ってくれ」
「何を」
俺は社内記録を開いた。
七年前の久住明日香案件。
承認ログ。
査定額変更――榊。
リスク説明省略――榊。
感情処置履歴。
さらに、
処置後の資産利用記録。
俺の後悔は会社所有になり、その後市場へ流れていた。
売上。
三百十六万円。
俺が手放したものは、そのあとも金を稼いでいた。
「何してるんですか」
「残す」
「何を」
「記録」
俺は証拠を外部監査機関と警察へ送った。
続けて供述書を開く。
《私は査定額を変更し、再発リスクを把握した上で販売を促進した》
絵麻が画面を見た。
「後悔、戻ってないのに」
「ああ」
「罪悪感もないんでしょ」
「たぶん」
「じゃあ、何で」
手が止まった。
責任。
償い。
正しさ。
いくつか言葉が浮かんだ。
どれも今の自分が口にすると、借り物に聞こえた。
「記録を見る限り」
言った。
「俺がやった」
それだけで十分だった。
署名する。
送信。
そのまま緊急通報ボタンを押した。
シャッターがゆっくり下り始める。
絵麻が目を見開いた。
「何してんの」
「逃げられないようにした」
「私も出られないんだけど」
「あ」
考えていなかった。
「……悪い」
「ほんと最悪」
絵麻が少し笑った。
俺も、つられて笑いそうになった。
その瞬間だった。
絵麻が左手で口を覆う。
顔から血の気が引く。
「どうした」
「コーヒー」
「何?」
「飲みたい」
涙が頬を伝った。
「私、コーヒー嫌いなのに」
侵食が進んでいる。
時間がない。
俺は画面を見る。
二つの選択肢。
戻す。
残す。
絵麻が言った。
「返して」
震えていた。
「私、湊のことまで、あなたの記憶で思い出したくない」
それでも押せなかった。
怖かった。
死ぬことより。
七年前の自分に戻ることが。
自分が何をしたのか、本当に分かってしまうことが。
「榊さん」
絵麻が言った。
「お願い」
その呼び方で気づいた。
俺は名乗っていない。
絵麻も、そのことに気づいたらしい。
口元を押さえる。
「……今の」
「俺の記憶だ」
指を動かした。
《原所有者へ再統合》
押した。
*
最初は、何も起こらなかった。
絵麻が椅子から崩れ落ちる。
立ち上がろうとした。
その時、
匂いがした。
濡れた子供の髪。
湯気。
安い浴室用洗剤。
久住明日香。
六十万円。
自分の声。
――このタイプは金じゃないです。
胸の奥で何かが潰れた。
息が入らない。
膝をつく。
胃の中のものを吐いた。
ほとんど何も出なかった。
映像が止まらない。
湊。
写真でしか知らない子供。
浴槽。
承認ボタン。
ニュース。
母親。
少女。
七年間。
全部が同じところにつながる。
「俺が」
声が勝手に出る。
「俺が――」
肩を掴まれた。
絵麻だった。
「言わなくていい」
泣いていた。
「でも」
「それ、もう知ってるから」
俺は床に座ったまま息をする。
苦しい。
死にたい。
今すぐ、この感情をもう一度売りたかった。
査定機が目の前にある。
俺なら動かせる。
絵麻が視線に気づいた。
二人で査定機を見る。
しばらく、何も言わなかった。
俺は手を伸ばした。
電源ボタンを押す。
画面が黒くなった。
*
警察を待つ間、絵麻がコンビニ袋を開けた。
「プリン食べます?」
「……今?」
「二個あるから」
断ろうとした。
口の中が酸っぱかった。
一つ受け取る。
絵麻が蓋を剥がした。
「湊、これ嫌いだったんです」
「プリン?」
「下の黒いところ」
カラメル。
「苦いって。上だけ食べて、毎回私に押しつけてきた」
スプーンで底まで掘る。
「事件の記事とか、裁判記録とか。何百ページも読んだけど」
一口食べた。
「こういうこと、一個も書いてなかった」
俺もプリンを食べる。
甘い。
底まで掘る。
カラメルは、思ったより苦かった。
「苦いな」
絵麻がこちらを見る。
「だから言ったじゃん」
外でサイレンが近づいていた。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
あなたなら、後悔を売りますか。
感想をいただけたら嬉しいです。




