1.異世界召喚
「――――成功したぞ!!」
もやがかかったような声がだんだんとはっきりと聞こえてくる。目を凝らしてみれば煙のようなものに囲まれた俺の周りを取り囲むのは、手前に白いローブを着たやつら、その奥にきらびやかなドレスとスーツで着飾ったやつら、そしてその奥の壇上に一番豪華な椅子に座った男女。
何度も見てきた、そして何度も読んできた場面。
――これが噂の異世界召喚か
そこそこのオタクである俺は、不思議と冷静にこの状況に立ち会うことができた。だってこの場合、俺が巻き込まれた側か、それとも正しく召喚された場合によって立ち回りを変えなければいけない。まず大事なのは現状確認、そう思って振り向いた瞬間俺は絶望した。
「なにこれ、煙いんですけど?つかここどこ?」
座り込んでいた俺の目の前には金髪の髪を緩く巻き黒いレザージャケットに黒のスキニーパンツをはき、濃ゆい化粧を施した、所謂ギャルが立っていた。
この時点で俺は悟った。俺巻き込まれた側だ。同時に二人召喚されるのってあんま見たこと無いし、相手ギャルだし。召喚されたときって大体みんな座ってるのに、相手立ってるし。俺座り込んじゃってるのに、相手立ってるし。なんか負けた気するし、その上ギャルだし。
つまるところキャラ格差がある。ありすぎる。よって俺は巻き込まれた、これは間違いない。客観的に見てそうなんだ。冷静であれ俺。
……無理だ、こっからは主観で行かせていただく。
「お前マジふざけんなよ!!!」
「え?あきじゃ~ん!なんでここいんの?」
俺の存在に気付いてなかったなこの野郎。俺に気付いた瞬間、さっきまでのきつめな態度を解いたギャルが、俺に手を差し伸べて立たせようとしてくる。俺はその手を取って立ち上がりそのままギャルに詰め寄る。
「なんでかなんてしらねぇよ!!てかお前のせいだろ絶対!マジでお前と一緒にいるとろくなことにならねぇ!」
「あきちゃんキれすぎだって!まだウチが悪いって決まったわけじゃないっしょ?」
「い~やお前のせいだね、お前といるとおこる大体のことはお前のせいだ」
へらへらと笑いながらこの女は俺をたしなめようとする。大体こいつのせいでどれだけ俺が迷惑を……!
「あきちゃんいったん状況整理しよう!」
両頬をパしりと挟まれ俺のイラつきを一時的に止めてきた。もっともらしいことを言うこいつを見て、確かにそれはそうだと思い。二人で床に座り込み、状況整理を始める。
「一旦うちらは日本出身」
「そこはどうでもいい。俺らは今夜飯を食いに行く予定だった」
「あきちゃんが好きそうなご飯屋さん見つけたからいこ~ってウチが誘って、新宿集合」
「お前が遅刻してきて、そのまま薄気味悪い路地裏を進んでいった」
「小言多いよあきちゃん。んで、なんかナビが変なことになったからノリで進んで行ったら、到着ってナビが言ったからその扉開けて……そっからの記憶ないわ」
「俺もそこまでしか記憶ねぇな」
状況確認はできた、つまり、あの路地裏の店がトリガーってことか?帰る方法があるタイプの召喚だといいんだが……
「ちょっと待ておまえ、あの時適当に進んで行ったのか?あん時俺道確認したよな?」
「あああ!いったんその話はおいとこ?ね?ほらあっちの人もなんか言いたそうにしてるし!」
「お前がちゃんと道歩いてたらこんなことになってなかっただろうが!結局お前のせいじゃねぇか!」
「あきちゃんあきちゃん聞いて聞いて?」
焦り散らかすこいつに一発見舞ってやりたいとこをぐっと抑えて、頭にチョップをしておく。俺が殴ったら見た目が悪すぎる。だが何もしないのは俺の気持ちが収まらない。
「痛い!あきちゃんのチョップ痛み残るやつだからほんと無理!」
「お前が悪い!」
「うるさい!てかずっとそこの人話したそうにしてるから!」
「あ?!」
「ひぃっ!!」
こいつに切れた勢いのまま、指さしたほうを振り向けば、30代後半の使用人みたいな見た目の奴と、紫色のローブを着た70代ぐらいのやつが並んで立っていた。30代ぐらいのやつはいかにも人畜無害そうな見た目をしていて、紫ローブは恰幅の言い狸親父みたいな見た目をしていた。キレた勢いのままそいつらのほうを向いたからか、そいつらはびくりと肩を震わせてしまった。申し訳ない。
「あ…あの、よろしいでしょうか?」
使用人みたいなほうが恐る恐る声をかけてきた。俺ら二人は座った話を聞くのもあれだしと、立ち上がって話を聞く姿勢をとった。
「今回、我々が勇者様と聖女様をお呼びしたのは、魔王国軍の進行を止めていただきたいからでございます。」
「待て待て待て」
「はい?どうなさいました?」
今こいつはなんていった?勇者に聖女だと?恐る恐る隣に目をやるとキラキラの目でこちらを見ているギャルがいた。やめろ、そのカラコンとツケマでバッチバチの目でこっち見るんじゃねぇ、圧がすげぇんだ。
つまるところ、俺ら二人ともを呼ぶ召喚だったわけだ。読みが外れた。
「つまり、俺とこいつが勇者と聖女だと?」
「それについてはわたくしから」
紫ローブが前に出てきた。爺みたいな爺だと思って狸親父と称したが、声が明らかに女のそれだった。じじいみたいなばばあだったらしい。心の中でだが謝らせていただく。ごめんなさい。多分隣のギャルも同じこと思ってるから二人分まとめて謝らせてほしい。
やめろ馬鹿、ちらちらこっち見て、え?みたいな顔するんじゃねぇ。ばれるだろうが。
「――ということです、ご理解いただけたでしょうか?」
じじいかばばあかで悩んで謝っているすきに紫ローブが話した内容はこうだ。
この国の隣には魔王の収める魔王国が存在し、その国の魔物たちがこの国にたびたび加害を行っており、国民を苦しめている。近年、魔物たちの凶暴化が進んでおり、ついには死者を出したという。
そして領土拡大のため魔王軍がその凶暴化した魔物たちを引き連れてこの国に攻め込もうとしている情報が入ってきたのだという。魔物を殺すすべをこの国は所持していなかった。よってこの国に伝わる勇者聖女伝説を頼りに俺たちを召喚し、魔王と魔物たちを撲滅、もしくは鎮静してほしいということだった。
なにも変なことではない、異世界物であるあるの導入だ。だが、隣を見れば悩んだ顔のギャルがいた。
「どうした?」
「ん~なんかな~」
「わかった、ちょっと待ってろ」
「おけ」
こいつにさんざん振り回されてきたからわかってしまう。こいつの勘はよく当たる。そしてこいつの考えがまとまっていないうちはしゃべらせないほうが吉だ。さて、どうやって時間を稼ぐかと考えていた時。一番奥にいた男がゆっくりと歩いてこちらにやってきた。その男が歩けば人が割れ道ができ、視界が開けた。その男は3歩後ろに女を連れ、俺らの目の前で止まった。
「突然のことで申し訳ないとは思っている。だがどうかわれらの願いを聞いてはくれないだろうか」
ひげを生やした50代ぐらいのその男は断られるとはまるで思っていないような様子でそう告げた。隣のギャルはその男ではなく、その後ろの割れた人たちを見ていつもの様子で。
「えっぐ、モーセじゃん」
「それ伝わるのたぶん俺だけだからやめて」
「…?もーせ?」
国王と思わしき男は疑問を顔に浮かべてギャルのほうを見た。ギャルは男に目を向けることなく、後ろの女に目をやってそのまままた考え込んでしまった。これが始まったらもうこいつの考えがまとまるまで特に俺がやることはない。唯一あるとすれば、さっきも言ったように時間を稼ぐくらいだ。
「国王様、で合っていますか?」
「うむ、勇者殿。その通りだ」
「では、差し出がましいのですが、わたくし共に1つ部屋を与えてはくれませんか?正直常識外れの事態に混乱しているのです。同郷の者同士語らいながら心を休めたいのです。今日の答えは、また明日でもよろしいでしょうか」
「だが、ことは――」
「明日でも、よろしいでしょうか?」
声量、眼圧、気迫あとはほんの少しの威嚇。意外とこれで時間は稼げる。
日本人お得意の「持ち帰って検討します」を本当の意味でやってやるって言ってんだ。少しは感謝しろ。
「165あるウチが10センチヒールはいても勝てない身長で、ガタイもそこそこいい男で、なおかつそんなクズ男みたいな恰好した男に詰められるのってそこそこ怖いと思うけどね」
「うるせぇ、お前のとなり歩くならこのくらいしないと、同伴かレンタル彼女って思われんだよつまりお前のせい」
「マジ、あきちゃんマブすぎる」




