08. 俺の航海譚、第一踏!
「そいじゃあ、よう! 次に蛇のやつらを追っ払う時に、そのあとをつけていけば。俺はブレンダン修道院長たちとはぐれたあたりまで、たどり着けるんじゃねえのかぁッ?」
氷が地と化した、トゥーレの≪氷の海≫へ!!
『あー。それは、そうかもね?』
あざらし・うず雄が同調して、ひげを揺らした。
『けど、そうとう遠いと思うのん』
「いや、ひょっとしたら蛇なりに近道を知っているのかもしんねえぞ。うずっち、やつらはこの辺にしょっちゅう来るのか?」
『十日に一度は、どこそこの誰かがやられた、って悲しい話を聞くのん。今は特に、危ない季節だから』
蛇は寒いのが苦手らしく、暖かい季節しか襲撃してこないと言う。
「よううっし。ほんじゃあ、いっちょう蛇退治に出るとするかぁッ」
『げ。ポトリーグ、まさか蛇にむかってくのん?』
こくッ! 少年はそばかす満載の丸顔を、力強くたてに振った。
「何かすんのに、ただ待ってちゃあ勝ち目はねえ。向こうが油断してるうちに、こっちから余裕かまして打って出るんだ。仕事は追われるもんじゃねぇ! 俺らが追っかけて、こなすんじゃあッ」
子どもの言葉とは思えない老獪さ! うず雄は目をみはった。
『誰が言ったのん? それ』
「聖ローハンつう、むかしの偉いじいさんだッ」
・ ・ ・
陸の奥側には入れない、と言ううず雄に待っていてもらい、ポトリーグは再び森に入って泉の水を皮ぶくろにつめた。
それを鍋に煮たてて冷ましてから、携行用にするのである。
本当はこの辺のめんど臭い過程は省きたいのだが、なま水を飲む危険はどうしても避けなければならない。薬を持っていないポトリーグは、腹をくだして死んじまう、なんてまっぴらだ。
『火、ね~。ぬくくって、おもろーい。けど人間てのは、何でもこれを通してからでないと、食べられないのん?』
「ものによるな。果物とかなら、そのままいける。でも肉や魚はだめなんだ」
海藻焚き火のそばでびたんと横たわり、うず雄は珍しそうに火と鍋を見ている。
『このなべと言い、ふねと言いー。人間は、殻をいっぱい使うのんな』
「だなあ。特に鍋は、俺の担当っつうか~」
取っ手を両手に持ってゆすりながら、ポトリーグはうず雄に話した。
みなしごとして各地の親戚筋を転々として来たポトリーグだったが、最後の頼みの綱だった大おばが亡くなってしまい、途方に暮れた。厄介払いのように家を出されかけていたところを、たまたまめぐり会った修道院ご用聞きの商人が口をきいてくれて、厨房の雑用係になったのである。主に鍋を見張るので、なべ番。
聖なる生活とは無縁のポトリーグ少年だったが、近年人気急上昇中のシャナキール修道院には、各地からの修道士が修行に集まっており、満員御礼の状態であった。
莫大な食事のしたくをするにも、とにかく人手が足りない! と言うことで、ポトリーグは下っ端の雑用係としてこき使われていたのである。正式には、見習い修道士ですらなかった。
しかしとにかく、鍋の世話をすることでポトリーグは食いっぱぐれずに済んだのだ。ありがたや!
「ようっし、準備万端だ。行こうか、うずっち!」
ぬるくなった水を皮ぶくろに入れて、ポトリーグは小舟を持ち上げかついだ。
ぎざぎざした岩のなるべくない所をうず雄に案内してもらって、ポトリーグは打ち寄せる波の上に、慎重に舟を押し出す。
『行くどー』
先に水に浸かっていたうず雄が、ゆっくりと泳ぎ出した。輪っかに結んだもやい綱の端を頭にくぐらせ、小舟を引っぱる形である。
ポトリーグは舟の後ろの方に座り、櫂でぐうっと水を押し出す。
帆を立てない小さな舟は、ゆらーりと揺れながら波の上をすべり出した。
「大丈夫かあ、うずっちー? 重くねえか、苦しくねえかぁ」
『ぜんぜん平気。ポトリーグこそ、速すぎたら言うのん』
ぐうん、とうず雄は力強く進み始める。海面すぐのところを泳いでいるから、ポトリーグにもしっかり見えた。
陸の上ではぷよぷよしていたあざらしだが、何だか別のものみたいにうねる筋肉が、たくましい!
びゅうん、と顔に当たる風がどんどん強くなってゆく。
「うわ、すっげー! 次の島が、なんかもう近くなってきたっぽいぞ~!?」
まずは次の目的地。
うず雄の一族が住んでいると言う、ちょっと大きめの島を目指し、ふたりの航海が始まっていた。
「俺の航海譚、第一踏! うずっちの巌、完了ーッ」
『なに~? それー』




