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鍋聖人ポトリーグの異界イムラヴァ航海譚  作者: 門戸
第一踏 ≪うず雄の巌≫
4/7

04. 恵みのおさかなを煮て食べる

「おさかなぁーッッッ!?」



 ポトリーグは、喜びの絶叫をあげた。


 それもそのはず……! すてきに見事な白たらが、天幕テント代わりの小舟カラハすぐそこの地面に、横たわっていたのだから。



「何じゃああ、お前! 俺に食われるために、わざわざ陸を歩いて来たんかあああ」



 いや、そんなわけがないだろう。しかし狂喜の腹ぺこ少年は、誰の突っ込みも聞いちゃいない。


 それどころではない、寝床にしていた枯草をこんもりとかためて、火打ち石をぶっ叩く。着火!


 鍋に昨日の残りの水を温めて、そこに小刀でぶつ切りにした魚の身を入れた。



「きゃっはー! うおう、こうしちゃいらんねぇっ。この隙にーっ」



 足取り軽く、ポトリーグは海の方へとかけてゆく。滑ると危ないよ、気をつけて。



「昨日、この辺に見かけたような~。あったぁーッ」



 飛沫あがる岩の間に、流れ着いていた肉厚の海藻がある。それを両手にぐりっとちぎり採ると、ポトリーグは鍋のもとへかけ戻った。



「トゥーレの兄さんたちが教えてくれた、≪らっこ寝床≫!!」



 別の文化圏においては、こんぶと呼ばれるその海藻を、ポトリーグは小さくちぎって鍋に入れていった。



「ぐひひひ、うーまーそーうっっ」



 あまり量を入れていなかったから、湯はふつふつとよく沸いて、たらの身をまっ白くして変えてゆく。そろそろいいのでは。



「ようーっし」



 ポトリーグは大きな木匙きさじの先に、たらの身をすくった。この木さじは、本当は調理用のものなのだけれど……まあその辺は気にしない。食前の祈り? ポトリーグはそれも忘れている。


 はふはふーと息を吹きかけて、あぐうと口に含んだ。


 沈黙。沈黙。ああ沈黙。


 ポトリーグは涙目になって、噛んでいた。熱さと嬉しさ……うっまーい!!


 口の中いっぱいに、魚の肉があるということで、人間はかくも幸せになれるのである。


 その白たらは、海から来たばかり。あまりに新鮮で、生ぐささというものがみじんこほども感じられない。俺を食らえ! という魚の体あたり攻撃……そんな風に思えて、ポトリーグはひたすら食べた。もぐもぐ、ぺー。ぺーと言うのは、骨をはき出しているのである。


 ポトリーグの両手にあまる程だったその白たらは、こうして少年の腹におさまった。こんぶを最後にぐにぐに噛みつつ、ポトリーグは満足である。



「はあ~、うまかったぁ。ありがとうようー、白たらぁー」



 食前、神への祈りはすっ飛ばしたが。自分にくわれたおさかなへの感謝は忘れない。



『おいしかった?』


「うん!」



 問われて素直に答えたが、一瞬のちにポトリーグはどきりとする。腰を浮かせた。



――は?? ……誰??



 鍋と焚き火と自分、その周りをぐるりと見回してみたが……。誰もいない。と言うかここしばらく、人間を見ていないのだ。



「そら耳かよ」



 きゅっと肩をすくめて、ポトリーグは座り直した。



『妙な食べ方、するのんな』



 がばっ!!


 櫂を両手に握りしめて、ポトリーグは立ち上がり、ぎいーんと周囲に眼光がんをとばす。


 そら耳なんかじゃない。ポトリーグは確かに聞いたのだ……。低くてなよやか・・・・な、若い男性の声をッ!



『ああ、ええっと……。おどかすつもり、なかったのん』



 ポトリーグの背後、小舟天幕の向こうには大きな岩々がある。それらは磯のほうに続いているが、上の平べったい部分に、何やら丸っこいものが動いた……。



「あああっ!? 昨日のあざらしでねえのか、おぇはッッ」



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