04. 恵みのおさかなを煮て食べる
「おさかなぁーッッッ!?」
ポトリーグは、喜びの絶叫をあげた。
それもそのはず……! すてきに見事な白たらが、天幕代わりの小舟すぐそこの地面に、横たわっていたのだから。
「何じゃああ、お前! 俺に食われるために、わざわざ陸を歩いて来たんかあああ」
いや、そんなわけがないだろう。しかし狂喜の腹ぺこ少年は、誰の突っ込みも聞いちゃいない。
それどころではない、寝床にしていた枯草をこんもりとかためて、火打ち石をぶっ叩く。着火!
鍋に昨日の残りの水を温めて、そこに小刀でぶつ切りにした魚の身を入れた。
「きゃっはー! うおう、こうしちゃいらんねぇっ。この隙にーっ」
足取り軽く、ポトリーグは海の方へとかけてゆく。滑ると危ないよ、気をつけて。
「昨日、この辺に見かけたような~。あったぁーッ」
飛沫あがる岩の間に、流れ着いていた肉厚の海藻がある。それを両手にぐりっとちぎり採ると、ポトリーグは鍋のもとへかけ戻った。
「トゥーレの兄さんたちが教えてくれた、≪らっこ寝床≫!!」
別の文化圏においては、こんぶと呼ばれるその海藻を、ポトリーグは小さくちぎって鍋に入れていった。
「ぐひひひ、うーまーそーうっっ」
あまり量を入れていなかったから、湯はふつふつとよく沸いて、たらの身をまっ白くして変えてゆく。そろそろいいのでは。
「ようーっし」
ポトリーグは大きな木匙の先に、たらの身をすくった。この木さじは、本当は調理用のものなのだけれど……まあその辺は気にしない。食前の祈り? ポトリーグはそれも忘れている。
はふはふーと息を吹きかけて、あぐうと口に含んだ。
沈黙。沈黙。ああ沈黙。
ポトリーグは涙目になって、噛んでいた。熱さと嬉しさ……うっまーい!!
口の中いっぱいに、魚の肉があるということで、人間はかくも幸せになれるのである。
その白たらは、海から来たばかり。あまりに新鮮で、生ぐささというものがみじんこほども感じられない。俺を食らえ! という魚の体あたり攻撃……そんな風に思えて、ポトリーグはひたすら食べた。もぐもぐ、ぺー。ぺーと言うのは、骨をはき出しているのである。
ポトリーグの両手にあまる程だったその白たらは、こうして少年の腹におさまった。こんぶを最後にぐにぐに噛みつつ、ポトリーグは満足である。
「はあ~、うまかったぁ。ありがとうようー、白たらぁー」
食前、神への祈りはすっ飛ばしたが。自分にくわれたおさかなへの感謝は忘れない。
『おいしかった?』
「うん!」
問われて素直に答えたが、一瞬のちにポトリーグはどきりとする。腰を浮かせた。
――は?? ……誰??
鍋と焚き火と自分、その周りをぐるりと見回してみたが……。誰もいない。と言うかここしばらく、人間を見ていないのだ。
「そら耳かよ」
きゅっと肩をすくめて、ポトリーグは座り直した。
『妙な食べ方、するのんな』
がばっ!!
櫂を両手に握りしめて、ポトリーグは立ち上がり、ぎいーんと周囲に眼光をとばす。
そら耳なんかじゃない。ポトリーグは確かに聞いたのだ……。低くてなよやかな、若い男性の声をッ!
『ああ、ええっと……。おどかすつもり、なかったのん』
ポトリーグの背後、小舟天幕の向こうには大きな岩々がある。それらは磯のほうに続いているが、上の平べったい部分に、何やら丸っこいものが動いた……。
「あああっ!? 昨日のあざらしでねえのか、お前ぇはッッ」




