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世界一の大富豪が私たちの味方です!  作者: Project_FLORIA


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【アルカディア編】第2話

「「「「…………え?」」」」


美咲が叫んだ言葉の意味を、4人は一瞬理解できなかった。


時が止まったかのようだった。


「あ、アルカディア…?あのブランドのアルカディア…ですか?」


最初に沈黙を破ったのはカエデだった。


彼女の声は平静を装っているが、震えているようだった。


「は、はい!あのアルカディアです…!」


「……何かの間違いじゃ…?」


状況を疑うカエデに対して、美咲はスマートフォンの画面を見ながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「先ほど事務所に届いたメールを…読み上げますね。」



♦♦♦


KFGホールディングスより、FLORIAの皆様へ。


この度、当グループ傘下のハイファッションブランド『ARCADIAアルカディア』の新専属モデルとして、皆様を任命させていただきたく存じます。


お受けいただける場合、後日正式なご契約内容をお送りさせていただきます。


KFG

♦♦♦



――アルカディア。


その名前を知らない者は、ファッションに少しでも興味があれば、まずいない。


数多のブランドの中でも、最高峰に位置する、高級プレステージ・ブランド。


中でもブランドの華となる高級ドレスの値段は一般庶民には手が届かず、世界中のセレブたちが顧客リストに名を連ねる。



もちろん、FLORIAのメンバーたちも、その存在は知っている。


雑誌のページを眺めたことがあるだけの、遥か雲の上の、夢のまた夢のようなブランド。


着たことなど、もちろん一度もない。


しかし今、自分たちがその顔になると告げられた。


信じられない。

あまりにも話のスケールが大きすぎる。



「ちょっと待って…ついていけないよ…Kさんのおかげってことだよね…?」


「この前言ってた『応援する』って、こういうこと!?」


ソユンが混乱する中、サラは先日のKの言葉を思い出しつつ興奮している。


「でもなんで私たちなの…?Kさん、私たちのこと、まだそんなに――」


「そんなの決まってるじゃないですか!」


不安そうなソユンに、今まで黙っていたミジュが熱を帯びた声で言った。


「Kさんが私たちを選んでくれたってことですよ!私たちが『アルカディア』に相応しいって…!一目見てKさんが判断したんです!」


ミジュの瞳は確信に満ち、キラキラと輝いていた。



少女たちが三者三様な反応をしている中、今度は寮のインターホンが鳴り響いた。


「……あ!来たみたいですね」


美咲が我に返って思い出したかのようにモニターを確認し、解錠ボタンを押した。


「誰か来るんですか?」


カエデが尋ねる間もなく、玄関のドアが開く音がした。



「お疲れ様……ああもう、緊張で手が震えちゃったわ」


「「あ…お疲れ様です!」」


4人が声を揃えて挨拶する。


入ってきたのは、美咲の上司にあたるチーフマネージャーの女性だった。


普段は冷静沈着で、キリッとしたスーツを着こなす彼女が、今はまるで爆発物か、あるいは生まれたばかりの赤ん坊でも扱うかのように、慎重にその腕に抱えたものをリビングへと運び込んでくる。


「それは…?」


サラが疑問と期待を込めて尋ねる。


黒く重厚な光沢を放つ、4つのガーメントバッグだった。


普段彼女たちが衣装を入れているような、ペラペラの不織布ではない。


厚手のナイロンと革で補強され、それ自体が一つの鞄として成立するような、見るからに高級そうなカバー。


そして、その中央には、金の刺繍が刻まれていた。



『ARCADIA』



「さっきのメールと同時に、事務所にこれが届いたのよ…。美咲に先に説明に行ってもらって、私が車で運んできたの」


チーフはふぅ、と小さく息を吐きながら、4つのバッグをテーブルの上に並べた。


黒い塊が4つ。


たったそれだけなのに、リビングの空気が一瞬にして張り詰める。


部屋を埋め尽くすような物量ではない。


だが、その場に置かれているだけで周囲の空気を支配してしまう。


圧倒的な「本物」のオーラ。


つい数分前に聞き、まだ脳内で処理できていなかった情報が、逃れようのない物理的な現実となって彼女たちの目の前に鎮座していた。


「こ、これ……」


「開けてみて。それぞれのタグに、名前が書いてあるはずだから」


「夢…かな?」


サラが、自分の頬をつねりながら「痛っ」と呟いた。


「…開けてみましょうか」


カエデは、震える手で一番手前にあった重厚なガーメントバッグに近づいた。


ジッパーには、彼女の名前『Kaede』と記されたタグがついている。


ジッパーを開けると、中にあったのは、息を呑むほどに美しい、深紅のシルクのドレスだった。


滑らかな生地は、まるで月光を吸い込んだかのように、上品な光沢を放っている。


デザインは、シンプルでありながら、着る者の魅力を最大限に引き出すであろう、完璧なシルエット。


「わぁ…」


カエデは、恐る恐るそのドレスをハンガーから外し、自分の身体にあててみる。


まるで今目の前で彼女のために作られたかのように、寸分の狂いもなく、ぴったりだった。


「カエデさん、すごい!めっちゃ似合う!」


ミジュが嬉しそうに叫ぶ。


他のメンバーたちも、それぞれ、自分の名前が記されたバッグのファスナーを開けていく。


ソユンには、華奢な身体つきと、女性らしいラインを同時に引き立てる、天使の羽のように軽やかなパステルピンクのシフォンドレス。


サラには、172cmの長身と長い手足を活かした、鮮やかなブルーのパンツセットアップ。


そしてミジュには、フレッシュな魅力を際立たせる、少し丈の短い可愛らしいデザインのブラックドレス。


全て彼女たちの個性と魅力を完璧に理解した上で、選ばれている。


そして、その全てが世界最高峰のブランドの最新作。


一着で車が買えるほどの値段がついているであろう、至高の芸術品。


「これすごい…」


誰かが、か細い声で呟いた。


嬉しいという感情は、とうに通り越している。


そこにあったのは畏怖かもしれない。しかし。


「…ちょっと、着てみようよ!」


最初に我に返ったのは、サラだった。


「こんなのもらって着ないなんて失礼でしょ!」


その言葉を合図に、4人はそれぞれの部屋に駆け込み、ドレスに着替え始めた。



***



数分後。

リビングに再び集まった4人は、お互いの姿を見て、言葉を失った。



「「「「…………」」」」



「…やばい」


「私、今、最強かも…!」


ミジュが、鏡に映る自分の姿を見て呟く。


「ソユン、本当にお姫様みたい!」


「サラこそ!ハリウッド女優みたいだよ!」


「早く写真撮ろ!美咲さん、撮ってください!」


サラが美咲へスマートフォンを渡すと、4人の撮影会が始まった。


ドレスの裾を持ち上げてポーズをとったり、わざとモデルウォークをしてみたり。


さっきまでの畏怖はどこかへ消え、寮は再び彼女たちの賑やかな笑い声に包まれた。



カエデは、大はしゃぎで互いにスマホを向け合うメンバーたちの輪に加わりつつも、内心ではその現実離れした価値の重さに、足がすくむような思いだった。


手元の深紅のドレス。

その滑らかな生地は、指先が震えるほどに美しい。


(写真や雑誌で見るのとは全く違う…)


しかし、周囲の熱狂とは裏腹に、カエデの思考は冷静さを取り戻そうともがいていた。


(もちろん嬉しいけど…こんなもの、素直に受け取っていいのかしら…)



一方ソユンは、ふわふわしたドレスの裾を握りしめ、夢見心地だった。


(これ、Kさんが選んでくれたのかな…Kさんの匂いがするかも…)


彼女は、そっとドレスの胸元に顔をうずめ、一人で赤くなっていた。



ひとしきり熱狂する撮影会を終え、4人はドレスを汚さないようにと、元の私服へ着替えることにした。


「これ、しまう時も緊張するね…」


カエデが、ソファに置いたままになっていた自分のガーメントバッグを手に取ろうとした、その時だった。


指先に、不自然な硬さが触れる。


「…ん?」


ガーメントバッグの内ポケットに、何か入っていることに気づいた。


そこには、KFGのロゴが透かしで入った、小さな厚手の封筒が入っていた。


「手紙…?」


カエデだけではない。

ソユンも、サラも、ミジュも、それぞれのバッグの中から、同じ封筒を見つけた。


4人は顔を見合わせてから封を開ける。


中に入っていたのは、たった数行の、しかし高価な万年筆で書かれたであろう、力強くも美しい手書きのメッセージカードだった。



♦♦♦


FLORIAのみんなを『ARCADIA』の専属モデルとしてお迎えしたいと考えています。


君たちが持つ本物の輝き。


このブランドは、それを誰よりも美しく、世界へ届けるための新しい翼です。


CM撮影で、またお会いできるのを楽しみにしています。


K

♦♦♦



「「「「…………!」」」」



K本人からのメッセージ。

新しい翼。CM撮影。

そして、また会える。


4人の熱狂は、今度こそ、本当のパニックへと変わった。


「Kさんが直接…!?」

「うそ!CM撮影!?私たちCMなんて出たことないよ!?」

「Kさんも見に来るって!」

「どうしよう、早くメイクさんに言わないと!」

「今日からお菓子禁止ね!」

「いつも食べてないから!」


嬉しいという感情を通り越した、三度目の衝撃。


Kという名の底なし沼に、彼女たちの足はまた一歩、深く深く踏み入れたのだった。

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