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世界一の大富豪が私たちの味方です!  作者: Project_FLORIA


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【アルカディア編】第1話

日本時間、午後10時。

FLORIAのライブが熱狂のうちに幕を閉じ、Kが「アルカディア」の専属モデルへの起用をアンナに命じた、まさにその瞬間。


地球の反対側、アメリカ合衆国ニューヨーク州マンハッタン。


時差により、現地時間は午前9時を迎えていた。


世界経済の中心地にそびえ立つ、漆黒の超高層ビル「The Spire of KFG」。


|KFG《Kフィナンシャルグループ》の本社であるそのビルは、天を突くような鋭利なデザインが特徴で、KFGの象徴とも言える存在だ。


世界中から選び抜かれたエリート集団が世界の富を動かす、巨大な頭脳そのものだった。


「アルカディア」ブランド戦略本部のオフィスも、出社してきた社員たちで活気づき始める。


チーフ・ストラテジストの『ダニエル・ミラー』も、淹れたてのコーヒーを片手に、自席のハイスペックPCを起動させた。


彼は、数ヶ月前に外部からヘッドハンティングされてきた、30代のエリートだった。


彼の頭の中では、「アルカディア」の顔として長年君臨するドイツのスーパーモデル、『クラウディア・シュナイダー』を起用した、今後数年間の壮大なグローバル戦略が完璧に描き上がっている。


クラウディアとアルカディアは切っても切れない。


彼女の圧倒的なカリスマこそが、このプレステージ・ブランドを支えているのだ。


(さて、今日は先に会議資料を作ってから――)


彼が思考を巡らせながらルーティーンでメールの受信トレイを開いた瞬間、全ての動作が止まった。


一通のメールが、受信トレイの最上部に「最重要」のフラグと共に表示されている。


差出人は、会長秘書室。


彼が秘書室からのメールを見たのは入社以来初めてのことだった。



♦♦♦

件名:最重要・確定事項


「アルカディア」現行モデルとの契約を即時解除し、

「FLORIA」を新専属モデルとして起用。予算不問でCM制作準備を開始。


会長第一秘書 アンナ・如月

♦♦♦



「……は?」


ダニエルの頭は、真っ白になった。


現行モデル…クラウディアを契約解除?


何を言っている?


それに代わりとなるのが…FLORIA…?


聞いたこともない。


彼はうまく思考ができない状態のまま、インターネットで検索してみる。


(日本のK-POPアイドル…か?それほどの知名度でもないようだが…)


(これは何かの間違いだ。あるいは、会長が何か勘違いをされている。こんなことが許されるわけがない…!)


ダニエルの怒りは最もだった。


ビジネスの常識、いや、道理そのものに反する命令だった。


「冗談じゃない…!」


思わず絞り出すように低く悪態をついた。


若さと自らの能力への自信から、ダニエルは息巻いた。


彼は内線で「秘書室」の番号を叩こうとした、その時。


「ダニエル君、来ていたか。ちょうどよかった。」


ダニエルが振り返ると、ブランド戦略本部で役員待遇の次長を務める『ロバート・サリバン』が立っていた。


彼はKがトップに就任するずっと前から、この会社にいるベテランの役員だ。


「ロバート次長…!あのメール見られましたか!いくら会長のご命令とはいえ、これはあまりに――」


ロバートは、ダニエルの言葉を遮った。


「落ち着けダニエル君。これは決定事項だ。そこを考えるフェーズはすでに終わっている。」


「いや、こんな無茶な要請…それにこれだと違約金の問題も…!」


「数十億かそこらの違約金、会長にとっては少し高いコーヒーを買うようなものだ。今我々が心配すべきなのは金じゃない。いつFLORIAのCM撮影を開始できるかだ。」


「…っ!」


「今日中に契約解除の連絡と、CM企画のチーム編成をよろしく頼む。」


そう言って足早にロバートは去っていった。


広大なフロアの空気が、一瞬にして凍りついた。


周囲の同僚たちの無機質なタイピングの音だけが響いている。


***


ダニエルは一度席についた。


まだKFGへ転職してきて数ヶ月だったが、この期間アルカディアのために最前線で戦ってきた。


クラウディア・シュナイダーとも顔を合わせた。


事務所側ともブランドの未来について理解させるために何度も話し合っている。


それはここにいるチームメンバーも同じだ。


彼らもみな、自分と同じ無念の想いを抱えながら黙っているのだ。


現場での血のにじむ努力と熱意を伝えれば考え直させられるかもしれない。


いや、そうでなくてはならない。


有り余る想いと勢いで、秘書室直通の内線を繋いだ。


しかし、彼はこのKFGにおける掟を全く理解できていなかった。


***


「はい、秘書室です」


内線の先から、アンナではない、女性秘書の冷静な声が返ってきた。


「突然申し訳ございません、私アルカディア戦略本部の、ダニエル・ミラーと申します」


ダニエルは、必死に、そして早口で捲し立てた。


「先ほど会長秘書のアンナさんよりお送りいただいた、FLORIAというグループを専属モデルに起用するという件ですが、どうか、ご再考いただけないでしょうか。

ブランドイメージの毀損、クラウディア側との違約金、そして何より、我々現場のチームが築き上げてきたグローバル戦略との整合性が…」


電話の向こうで、秘書は静かに彼の熱意溢れる言葉を聞いていた。


そして彼が一通り話し終わった、数秒の沈黙の後、どこまでも冷たい声で告げた。


「ダニエル・ミラー様。本件は、会長が全てをご理解の上で、決定されたこととお聞きしております」


「しかし!それでは、このブランドが――」


「ブランドの未来も、全ては会長のお考えの中にあります」


「か、会長は現場の状況をご存知なので――」


「KFGにおいて、K会長の決定が覆ることはございません。それでは」


通話は一方的に、無慈悲に切られた。


(ありえない…こんなことが、あってたまるか…)


ダニエルは、受話器を握りしめたまま、呆然と立ち尽くす。


***


その数分後。


役員用の執務室に戻って仕事を再開していたロバートのPCに、一通のメッセージが届いた。


差出人はアンナ。内容はたった一言。


「ダニエル・ミラー、会長のご意向を理解できていないとの報告。処理してください」


秘書室からアンナへ、死刑宣告となる報告があがっていた。


ロバートは、そのメッセージを一瞥すると、深い深い溜息をついた。


そして、ゆっくりと立ち上がり、再びダニエルのいるフロアへと向かった。


まだ苛立ちを隠せないダニエルのもとへ足音もなく近づくと、背後からロバートが告げる。


「…余計なことをしたな、ダニエル君」


「ろ、ロバート次長…!?」


そして絶対的な響きをもって、宣告する。


「ダニエル君。本日付けで、異動が決まった」


「………え?」


「KFGスイス・チューリッヒ支社だ。アルプスの空気は美味いぞ。まあ、ここと比べると、随分と退屈な場所だろう。簡単な雑務を担当してもらうらしいからな」


「なっ…!さ、左遷ですか?こんな理不尽なことが―」


「理不尽?」


ロバートは憐憫のような表情を浮かべた。


「ルールは守らなくちゃいけない。それはこのKFGにおいても同じことだ。ここにはここのルールがある。冷静な判断ができない男に、この本部を任せるわけにはいかない。それだけのことだ」


その言葉が、最後の引き金だった。


ダニエルのエリートとしてのプライドも、自信も、未来も、全てがこの瞬間に崩れ去った。


しかし、次の瞬間にはオフィスの誰もが、彼のことなど最初から存在しなかったかのように、自分の仕事に没頭し始めた。


KFGにおける絶対的ルール。


それに不用意に近づきすぎた一人のエリートは、こうして誰にも看取られることなく資本主義の最前線から消えていった。



※※※



その数日後、日本。

Kとの衝撃的な出会いから、数日が経過していた。


FLORIAのメンバーが寝泊まりしている事務所管轄の寮では、まだ夢見心地の熱気に包まれていた。


彼女たちの間では、今でもKという男の存在が、秘密の合言葉のように囁かれ続けている。


そんな中、新たな衝撃が何の前触れもなく飛び込んできた。


大型ライブ後、次なるステージへ向けて再開されたレッスンを終え、ラウンジで汗を拭いていた彼女たちのもとに、マネージャーの美咲が、見たこともない驚きの面持ちで駆け込んできたのだ。



「み、みんな!大変!大変なことになった!」



その手には、スマートフォンが握られている。


「ど、どうしたんですか?」


ソユンが不安そうな顔で立ち上がって問いかける。


カエデも、サラも、ミジュも、少し顔をこわばらせる。


美咲は震える手で画面をスクロールさせながら、まるで信じられない、といった様子で叫んだ。



「はぁ…はぁ…今、本社から連絡があったの…!アルカディア…!」


「あの世界的ブランドのアルカディアの専属モデルにみんなが選ばれたって…!」



「「「「…………え?」」」」



まるで、部屋の時が止まったかのようだった。

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