オリエンテーションと《賢者》
授業が終了したことを告げる鐘が鳴ると生徒たちは一斉に次の授業へと向かい出した。
「リリア。ご一緒させてくださいませっ」
わたしの元にもフィオナが笑顔で寄ってくる。
「うん。もちろんだよ」
二人で並び、次の授業へ向かう。
二次元目は、大講堂で行われる。
学園の制度説明と今後の指針を示す「オリエンテーション」だ。
重厚な扉が閉ざされ、壇上に現れたのは白髪の学園長だった。
「ようこそ、グランアテールへ。諸君は選ばれし者である。しかし__ここから先は、選ばれ続けた者のみが残る世界だ」
静まり返る講堂。
「本学は、帝国内最高位称号である《賢者》を授かりし者を輩出した学び舎である」
ざわり、と空気が揺れた。
(賢者……)
フィオナが小声で囁く。
「現在は帝国に二人だけ、と聞いておりますわ。政治にも関与できる存在だとか……」
隣のアリスが目を丸くする。
「えっ、魔法使いなのに政治に口出せるの?」
学園長は続ける。
「賢者は、王に従う立場ではない。王と並び、帝国の理を示す存在だ」
王と並ぶ。
その言葉の重みが、胸に落ちる。
「現在、賢者は二名。空席が一つある」
空席。
たった一つの席。
誰も声を上げない。だが、確かに空気が変わった。
「選定条件は二つ」
学園長の声が静かに響く。
「一つ、グランアテールにおいて最高成績を修めること」
生徒たちの視線が、無意識に掲示板の成績順位を思い出す。
「そして一つ、次期国王の承認を得ること」
その瞬間、講堂の前列に座る上級生――ユリウス殿下へと視線が集まった。
殿下は静かに座している。何も語らない。
(最高成績……そして、次期国王の承認)
遠い。
あまりにも遠い話だ。
けれど。
王と並び、帝国の理を示す存在。
その響きは、不思議と胸を震わせた。
力を誇るのではない。
誰かを従えるのでもない。
ただ、正しきを示す者。
(……面白そうね)
思わず、心の奥で小さく呟く。
今のわたしには、まだ届かない。
けれど__
『リリア・アーデル嬢の答辞は、実に見事だった。帝国が求める"賢者"の志を最もよく表していたと、私は感じたがね』
入学式の後、ユリウス殿下が放った言葉が脳裏に蘇る。
(もし、いつか……)
その席に座れるほどの実力と覚悟を持てたなら。
学園長の声が締めくくる。
「諸君の中から、新たな賢者が生まれることを期待している」
講堂に拍手が広がる。
わたしは静かに手を叩きながら、胸の奥に芽生えた小さな憧れを大切に抱いた。
まだ、誰にも言わない。
けれど確かに__
わたしは、あの席を少しだけ、見つめてしまったのだった。
グランアテールは帝国内でかなりの権力を持った学園の様ですね。
《賢者》という存在を知ったリリアはこの後どうなるのか……
読者の皆様と共に見守っていければ幸いです。




