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むかしむかし、あるところに可哀想な女の子が住んでいました。
女の子にはお父さんとお母さんがいましたが、ふたりはいつも仕事で忙しく、女の子は一人ぼっちでした。
それでも、お父さんとお母さんは優しかったので、たまのお休みには女の子はたくさん遊んでもらえました。
だから女の子は、独りで家の掃除をしたり、ご飯の支度をしたり、お買い物に行ったりするのを頑張れたのです。
もちろん、女の子は子供ですから、学校でお勉強もしています。
時間が足りなくて、お友達ともなかなか遊べません。
大変でしたが、女の子はまったくの不幸というわけではありませんでした。
女の子が頑張っていることは、誰もが知っていることだったからです。
ところがある日、お父さんとお母さんが仲たがいをして、お父さんとは離れて暮らすことになってしまいます。
まあ、ちょっと面倒くさい人だったので、女の子はそれほどショックではありませんでしたけど。
代わりにやってきた新しいお父さんも少し……というか、かなりの変わりものでしたが、連れ子がいたので女の子にはおねえさんができました。
女の子は一人っ子だったので、ずっときょうだいが欲しかったのです。
しかも、そのおねえさんはとても美人で気立てがよく、優しい人でした。
女の子は毎日のようにおねえさんの部屋を訪ね、遊んでもらいました。
おねえさんは家事も手伝ってくれたので、女の子はお友達と遊べる日も増えました。
ですが、そんなしあわせな日々は長くは続きませんでした。
おねえさんは急に人が変わったようになってしまったのです。
黒くて美しかった髪は染められ、スカートは恐ろしいほど短くなり、家にもあまり寄り付かなくなりました。
まるで、魔法や呪いを掛けられたかのような変わりようです。
女の子は悲しくなりました。
また一人ぼっちの日々に逆戻りです。
いったい誰がおねえさんに呪いを掛けたのだろう。
呪いを掛けたのは悪い魔女に違いない。女の子はそう思いました。
……そう思っていたのですが、本当は魔女の仕業ではありませんでした。
女の子も本当は気が付いていましたが、気づかないふりをしていました。
たくさんある家事の中に、ゴミ捨てというものがあります。
家じゅうのゴミ箱からゴミを回収してまとめて、外に捨てるのです。
もちろん、おねえさんの部屋の中のゴミも捨てます。
そのゴミの中に、あってはいけないものを見つけていたからです。
そう、おねえさんに呪いを魔女ではなく……。
乱暴な音を立てて、扉が開いた。
ノックもなく、在不在を確かめる声掛けもなく。
陽菜が立ち上がると肘が日記帳に当たり、それは床に落ちた。
使いこんでいたせいか重たいせいか、落ちた衝撃で日記帳はばらけ、いくつかのページが床を滑った。
散ったページから視線を上げると、継父が立っていた。
彼は顔面にいつものヒキガエルの笑顔を張りつけ、陽菜の部屋へと踏み込んできた。
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