第5話 知己を得る
気付けば前回の投稿から一月近く。ヤバいと慌てての投稿です。
ただ、最近は事情があって投稿が難しい状態なため次がいつになるかは未定です。
俺がジロンサーヴァの家に引き取られてから7度目の春を迎えた。この国と隣国との戦争はまだ続いているらしいど、現在のところは小康状態みたいで、少なくともこの町は平穏を保てている。この町を守る義父達騎士のお陰だ。
その義父セラータだけど、この7年の間に騎士団団長として一つの団を任せられるようになったいた。
本人は対した功績も無く、それどころか7年前の惨劇を防げなかったと恥じ入り、辞退を申し出ていたらしいけど、それは誰であっても同じであり、その責任を問うならばそれこそ自分であると領主様。
いかに義父が同族の人間とはいえ意外だ。
俺の知る限りお偉いさんってのは、とかく過ちがあれば他人に責任を転嫁し、配下が手柄を挙げれば、それは自分の指示あってのことだと、その功績を奪っていくろくでなしばかりだったのに。
そんな中で12歳の俺は明日ひとつの節目を迎える。
この国の12歳だが、18歳までの間は準成人として扱われる。
大人ではないが子どもでもないその中間。大人となるための準備期間ということらしい。
その6年間は学校教育の義務が課せられる。
そのお陰だろう、この国の民は教育レベルが高く、前世のように読み書きのできない大人なんてのは存在しない。それどころか簡単な計算ならば、算盤無しにやってのける程だ。
そんなところに明日からは俺も通うことになる。
本来ならば冗談じゃないと言いたいところだが、今世の俺は前世と違う。死んだ実の両親に、そして育ての両親、双方ともにそれなりにいい家柄で、お陰で俺は幼い頃からいろいろと教え受けいるのだ。だから結構自信がある。
元来はそういうことの嫌いだった俺がそんなことを言えるのも、今は亡き兄さんが一緒だったお陰だ。優秀な兄だっただけに生きていれば学校でも頭角を表していたはずで、そんな兄に俺もいろいろと教えを受けることもできただろう。
でも、その兄さんはもういない。
「……兄さん。俺、兄さんの分も絶対にがんばってみせるから」
見上げた空は亡き兄さんの笑顔の如く、晴れて澄み渡り、そして俺を照らしていた。
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翌日、義母や義弟、義妹達、ジロンサーヴァ家のみんなに見送られ学校へと向かう。
残念ながら義父はもう家を出ていないけど、出掛けに声を掛けてもらえている。その言葉は温かく、実の息子である義弟に掛けるものと変わらない、そんな優しさに溢れた言葉だった。
それは見送ってくれている義母や義弟妹達も同様で、俺を本当の家族として受け入れてくれている。
もちろんそれは俺も同じ。彼らは亡き家族と同じように大事な存在となっている。
そう、彼らと俺は今じゃ本当の家族同然、否、本当にお互いに家族として受け入れ合っているのだ。
「ああ、なんか涙が出てきた」
感傷に耽ていたせいだ。
でも、あの日のことと今の幸せを思うとどうしても涙脆くなってしまう。
「おいおい、なんだよお前。入学に感極まって泣き出すとか今時珍しいやつだな」
校門前で声を掛けてきたのは、俺よりも一回りはでかい男だった。新品の制服を身に纏っているところからして俺と同じ新入生だろう。
「違えよ。ちょっと昔を振り返って感傷的になってただけだよ」
参ったな、こんなところを見られるなんて。
「なんだよ、その歳でそんな年寄りみたいなこと言って。俺達の人生、まだこれからだろう」
ちっ、くそめ。お気楽な返事をしやがって。
せっかくの気分が台無しだ。
「うっせーな。んなこと解ってるよ。
それでも人にはそれぞれいろいろな事情ってのがあるんだ。知らねえやつが余計な口出しすんじゃねえ」
悪気が無いのは解っているが、それでもやっぱり腹が立つ。思わずこんな言葉で返してしまった。
「まあ、それもそうか。悪かったな。
でも、なにがあったかは知らないけど、いつまでもくよくよしてちゃ始まらないぞ」
あれ? 怒っていないのか?
こいつ、案外いいやつだな。謝ってくるとは思わなかった。
「ああ、そうだな。過去も大事だけどそれで未来を疎かにしてちゃ意味無いもんな。
悪かったな、せっかく心配してくれたってのに」
そうなると先程の言葉も、素直に好意と理解できた。なのでこちらの無礼な態度を謝る。
「いや、構わないさ。お前の言う通り人にはいろいろと事情があるし、俺も無神経だった」
はは、本当にいいやつだ。
こいつとは仲好くやっていきたいな。
「ああ、そうだ。せっかくこうして声を掛けてもらったわけだし自己紹介くらいしないとな」
縁ある相手。それも好意的に接してくれた相手に名乗らないのは無礼だろう。
「俺はケントリウス・トルキソン・ジロンサーヴァ。ジロンサーヴァ家の養子だ。
7年前の一件で身寄りの無くしてしまったんだけど、幸いにもジロンサーヴァに養子として引き取ってもらえてな。今じゃ家族の一員として手厚く接してもらえている。お陰でこうして学校にも通わせてもらえてるってわけだ。
で、さっきのあれだけど……、まあ、そのことを思ってたらついな。お陰で恥ずかしいところを見られてしまったってわけだ。できれば見なかったことにほしい」
本来ならば、お控えなすって…といきたいところだったけど、ここでは流儀が違うってことでこんな紹介となってしまった。
俺の名前の『トルキソン』だが、これは亡き父の名前『トルキシアス』を受け継いでのもので『トルキシアスの息子』って意味だ。前世でも侍とかが名前を受け継いだり、名前の一部をもらったりとかしてたのと似ている。俺の場合は父のことを忘れないため、否、父が生きていたことの証というそんな理由だ。できれば兄さんの名前も残したかったけど、さすがにその手の名前までは無いらしい。
おっと、そうだ、俺のことばかり言っててもしょうがない。
彼の名前はマイダス・トルシエ。こんな名前だけどジロンサーヴァ家と同じ騎士の家の次男らしい。
黄金を生み出す者か…。
どちらかというと商人の名前のイメージだ。まあ、次男だからってことだろう。
そんなマイダスだからか、騎士って家柄に囚われることはなく余計なプライドとかとは無縁そうだ。俺が養子だといって見下した態度をとるなどといった様子もない。
「それじゃ、これからよろしくな」
自己紹介と伴にこんな風に接してくる程に人の好い男マイダス。
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
当然俺も友好的な返事を返す。
入学に際しこうした知己を得ることができたのは僥倖だ。
これもきっと亡き家族達が見守ってくれているからに違いない。
「それじゃ行こうか」
穏やかな日射しと春風の中、俺達は校門を潜った。