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第3話 惨禍

 再び数年が経った。今では俺も6歳。

 なんかここじゃ数え年ってんじゃなく、生まれた日を0歳と数えて、毎年その生まれた日ごとに年齢を足していくらしい。


 で、ここで改めて自己紹介。

 俺の名前はケントリウス・アンダーウッド。6歳。

 父、トルキシアス・アンダーウッドと母、ネーナとの間に生まれた次男である。

 次男ってんだから、当然兄が存在する。

 彼の名は、セントリウス。年齢は11歳。文武に長けた強く優しいとても頼りになる兄で、両親や周囲からもその将来を矚望(しょくぼう)されている俺の自慢だ。


 いや、兄よりもここは父親の話をするべきだよな。

 父、トルキシアスはこの町の治安を護る衛士を勤める立派な男だ。そんな父だから当然兄も、将来は父と共にこの町を護ることを夢としている。


 う~ん、俺はどうするかな。やはり男も兄のように父の背中を追うことになるのだろうか。別に不満があるわけじゃないけど、他にもいろいろな選択肢だってあるからな。陰から兄を支えられるような、そんな生き方だってあると思う。大好きな兄の勇姿のためなら、俺はその影に徹するのだってありだろう。

 いや、そりゃあ兄の隣に並び立つってのにも憧れはあるけど、でも世の中ってのはそんなに甘くはないからなあ。密かに陰から支える存在だって必要なはずだ。うん、やっぱり俺はそっちかな。人には分ってものがあるのだ。高望みはしないに限る。


 って、父親の話だったんだよな。話が横道に逸れてしまった。

 まあ、とにかくそんな危険な仕事柄をしている父だから、当然それなりに高給取りでもある。お陰で我が家はそれなりに良い暮らしをさせてもらってるわけだ。まあ、清廉潔白な父だけに、地位を傘に着て袖の下を貰ってる汚い奴らみたいにはいかないけど。


          ▼


 とある日の日中のことだった。

 父が我が家に戻って来た。……血(まみ)れになって。


「ネーナっ! 子ども達を連れて逃げろっ!」


 それが父の最後の言葉だった。

 背後から迫って来ていた兵士二人のうち一人に剣で貫かれあえない最期を遂げてしまったのだ。


「いやーっ!」


 死の恐怖か、それとも愛する夫を失った絶望ゆえか、悲鳴を上げる俺の母。


「くっ! ケントっ、母さんを連れて逃げろっ!」


 そんな様子を見せられて、何もしないような兄じゃない。当然俺達を庇って、奴らの前へと躍り出る。

 そんな兄の勇姿ではあったが、哀しいかなそれは蟷螂の斧に過ぎなくって、もう一人の兵士によって袈裟懸けに一刀のもとに斬り捨てられ…。


「へへっ、トルキシアスの女房か。実は前から狙ってたんだよなぁ」


 な? なんだとっ⁈

 つまりこいつは父さん達の顔見知りかっ⁈


「くそっ、外道がっ!」


 こうなればもう仕方がない。せめて俺が一矢報いて母さんを…。


「ぐはっ!」


 くぅっ…。俺はあっさりと蹴飛ばされてしまった。

 悔しいことに身体が動いてくれない。


「いやーっ! やーっ!」


 俺の目の前で兵士達二人に乱暴され、嬲られ捲る母さん。


 くそっ、またしてもか…。俺はまた、誰も守れずに

終わるのか…。



 突如目の前の男の頭部が爆ぜた。

 周囲に鮮血が飛び散った。

 母さんに乗っかかっていた男だ。

 そのさまはまるでスイカの砕けて飛び散った後の……なんて生易しいものじゃないな。

 周囲一面はみな真っ赤。

 床も壁も、母さんも。先ほどあえない最期を遂げた父さんと兄さんの亡骸も。

 そして俺をも深紅に染めた。まるで頭から全身にペンキでも被ったかのように…。

 いや、月並みな表現だけど、まさか自分が実際に体験することになると、他になんて言えばいいのか…。


「な…、なにが起こった?」


 それは俺が訊きたい。

 でも、こんな都合の良い話も無い。

 これはきっと天罰だ。兄さん達の無念が天に届いたんだ。

 いや、違う。天に届いたんじゃなくって、その怨みが呪いとなって奴を襲ったんだ。


「は、ははは…、はははははは……」


 なんだよ。兄さん達はこんなになってまで…。

 それに対して俺は……。


「くそっ、気味が悪い笑い方をするなっ!」


 生き残りの一太刀が俺を襲う。

 そして俺も兄さんと同じく袈裟斬りに両断された。


 薄れゆく意識に思う。

 いや、誓う。俺も兄さん達と共に怨霊となってこいつを呪い殺してやるっ!


 俺の一念が通じたのか、それとも兄さん達の仕業だろうか、こいつも全身が爆ぜた。

 ふ…、これで俺も安心して死ねる。

 いや、本当のところは母さんのことが気になるのだが、残念なことに俺には最早そんな力は残ってない。


 ああ、いやだ。やっぱり俺は死にたくない。

 いや、死ぬのが怖いってわけじゃない。

 ただ、結局は兄さん達の期待に背いてしまったからなぁ…。


「俺、きっとあの世で散々叱られることになるんだろうな。ごめん、兄さん、父さん」


          ▼


「あ~あ、やっぱりこっちでもこうなるんだ。

 でも、これで終わりなんて無いよね。

 ほらっ、起きてよ、パパ」











         ▼


 目が覚めた。

 あれは夢だったのだろうか。

 だとすると縁起でもない悪夢だ。


「目が覚めたか。気分はどうだ?

 どこか痛むところは無いか?

 調子の悪いとこは?」


 ベッドで目覚めたばかりの俺は、見知らぬ男に声をかけられた。

 って、え?


 ここは俺の見知らぬ場所。少なくとも俺の家じゃない。


「なにがあったか覚えているか?」


 いや、いったいなんだ?

 それになんで俺はこんなところに?


 事態がまるで解らないため、俺は当然首を横に振った。


「そうか……。いいか、よく聞け」


 そう言うと男は語り始めた。

 なんでもこの町はこの国と隣国との戦争に捲き込まれ、そして攻め込まれたと言うのだ。

 で、この町の人間のいくらかが敵側に内通し、そして多大な被害が出たと言う。

 俺の家族もその被害者で父と兄はそれで亡くなったってことらしい。

 幸い俺と母は生き延びて保護を受けたと言うのだが……。


「残念ながら、お前の母親はあの時のショックで…、ああ…、まあ正気を失ってしまってな…。

 医者の言うにはまず元通りってのは難しいらしい。

 こう言っちゃなんだが、あんな不幸なありさまだからな、反ってこの方が良かったのかも知れんな」


 くそっ、どうやらあれは夢ってわけじゃなかったらしい。いや、いっそこれも悪い夢であってほしいのだが…。


「冗談……ってわけじゃ……ないんですね。

 は、ははは、なんだよそれっ」


 不覚にも俺はその場で泣き出してしまった。

 くそっ、情けない。

 俺はあの場でなにもできなかったのだから。


「で、それでだが、お前の親族ってのは残念ながらあの一件でほぼ全滅。生き残ったのはお前と母親だけってみたいでな。

 母親は修道院で引き取るそうだが、しかしお前が傍にいるとなると…」


「ああ、症状が悪化するってわけですね」


 くぅ……、 解ってはいてもこうして言葉にするのは(つら)い。


「まあ、そう言うことだ。

 で、それでお前のことだが、俺のところで引き取ろうと思うのだが、どうだ?」


 むぅ…。そんなことを言われても選択肢なんて無いんだろ。所詮は俺は6歳児だ。ひとりで暮らすなんてできるわけがない。

 そりゃあ孤児院なんてのもあるんだろうけど、そこもきっと俺みたいな奴でいっぱいだろう。そうなると引き取り手があれば喜んでそこに引き渡すのにきまってるんだから結果は同じ。


「解りました。お世話になります」


 こうして俺は、この人物の下に引き取られることとなったのだった。

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