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第29話 大団円?

 ノブナガ邸での一件は国家簒奪を企てたノブナガを王命を受けたマザック・オナラブルが鎮圧したという形で処理された。

 この件で首謀者であるエンドリア国第一王子ノブナガ・ヴォーダン、その側室セーニャ・ヴォーダン、婚約者ランゼ・モリヤ、その他家人の全てが死亡したと報告されている。

 また事件の際、屋敷は焼失、地下牢よりケント・ジロンサーヴァの死体も発見されており、先のジロンサーヴァ家の謀反事件との関与が疑われている。

 但し、ジロンサーヴァ家の本家であるバーチュリバー家は両件との関与を否定。その確固たる物証が見つかっていないため、その容疑は晴れ無罪を認められている。

 なお、この件についてエンドリア国は関与を否定、ノブナガ王子の独断として王籍からの廃除が決定された。

 これにより第二王子であるノブユキ王子が王位継承の最有力候補と目されることとなったことから、巷では彼によるライバル追い落としの陰謀論が陰で囁かれるようになっている。


 そして、事件から半年余りの月日が過ぎた。


          ▼


「お~、よしよし。

 しかしトールもミーナも随分と大きくなったものだな。なぁ、ミーナ」


 少年が赤子を抱きあやす少女に声を掛けた。

 そんな少年の腕の中にも女の赤ん坊がひとり。余程彼に懐いているのだろうキャッキャと笑顔を浮かべている。


「こらっ、ノヴァっ! ミーナに汚ない顔を近づけるなっ!」


 髭の中年が少年を怒鳴る。

 彼の名はマザック・オナラブル。先のノブナガ事件の功労者だが、今は親馬鹿な父親に過ぎない。


 少年ノヴァは彼の息子だ。但し血の繋がりの無い養子である。

 ここではノヴァと呼ばれているが正しくはノービスという名前だ。名前の意味は『新参者』。出自が孤児ということもあって改名させられたものと思われる。ノヴァというのはそんな彼を気遣って親しき者が呼ぶ名前なのである。


「もうっ、あなたったら。そんな大きな声を上げたらせっかく寝ついたトールが起きるじゃないですか」


 少女がマザックを窘める。

 少女の名はマルティナ。歳は11歳であるがほんの数日前にトールとミーナの双子を出産したばかりのマザックの側室である。

 但しこの子らは夫との子ではない。

 この年に寡婦なったばかりのところを理由あって今の夫に引き取られ、そして今日に至っている。


「はははっ、君もすっかり父親だね。てか親馬鹿振りが過ぎるんじゃない?」


「るせえ、ハンザっ。

 悔しかったらお前も嫁のひとりでももらってから言え」


 マザックはこう言い返しているが、しかし相手は13歳の子供である。

 彼の名はハンザ・バートリー。この若さだが軍器監にて新兵器の開発に(たずさ)わったホープだ。

 そんな彼もノブナガ事件では埋伏の毒として活躍しており、マザックとはその縁で親しく付き合っている。


「君と一緒にしないでくれよ。いかに思春期だとはいえ僕は君みたいな獣とは違うんだから」


 その親しさ故だろう。歳の差の割にはこんなことだって遠慮なく指摘する。

 どう見ても彼の言うことが正しい。中年男と乙女というには幼い少女の組み合わせの方が明らかにどうかしているのだ。一応この国では認められてはいるが、実際にそんな子供とことに及ぶ者はまずいない。つまり彼の言うとおり、ここでも倫理的に嫌われる行為なのである。


「ははははっ、確かにハンザの言うとおりだ。年の端もいかない女に手を出すやつなんてマザックかお前くらいだもんなっ」


 ノヴァがハンザに続く。

 但しこちらは非難するというよりも揶揄して笑うのが目的だ。

 こちらも義父に対して遠慮が無い。親子関係が巧くいっている証拠だろう。


「失礼なことを言うなっ!

 俺が好きなのはマルティナであって年端のいかない女じゃないっ!」


 マザックが必死に反論するが、この狼狽振りでは本音かどうかは怪しい。


「もうっ、あなたったらっ」


 それでもマルティナはまんざらでもないようで赤くなってもじもじとしている。

 なんとも乙女らしい反応ではあるが相手が相手だけに見る側は反応に戸惑うだろう。


「もうっ、殿下ったら、新妻を揶揄(からか)うなんて悪趣味ですよ」


 ただ、ツッコミを入れるならやはり対象は彼女であるよりもノヴァだろう。

 その者が女性ならば余計にそうだ。女性同士共感があるのだから当然である。


「あら、もしかすると羨ましいんじゃなくって?

 だったら私も負けてられませんわ」


 ただ、いくら共感したからといってもこの台詞はどうだろう。

 なお、負けてられないからといって起こす行動については触れないのがマナーというものである。


 ノヴァにこんなツッコミとボケをかましたこのふたり、彼女達はノヴァの側室と婚約者だ。

 側室の名はセーニャ。ノヴァの一つ下の12歳。

 婚約者の名はランゼ・モリヤ。ノヴァと 同じ歳の13歳。

 つまりノヴァもマザックと同じである。

 但しこちらは子供を作っているわけでないので倫理的に一切問題は無い。


 こんな和気藹々の彼らだが、裏には複雑で表沙汰にできない事情を抱えており、それは

先のノブナガ国家簒奪未遂事件とその前のトルシエ・ジロンサーヴァ謀反未遂事件が関わっている。


 ノブナガ国家簒奪未遂事件の顛末については既に先に述べているが、その真相は違っていて実態はノブナガ王子の開発していた新兵器を怖れた国による謀殺である。つまりノブナガの国家簒奪は冤罪だったのだ。


 王命を受けたマザックは、まずトルシエ、ジロンサーヴァの両家に謀反の嫌疑を掛け一家を処刑。

 続けてノブナガの側室となったジロンサーヴァ家の娘の引き渡し要求に託つけ、エンドリア王子ノブナガを家人諸とも殺害し屋敷を焼き払った。

 …と、王には報告されている。

 だが実際は、マザックはノブナガ達との戦闘で敗北。その際マイダス復活の依り代とされており、今のマザックの中身は当人でなくマイダスとなっている。

 そしてそのマイダスはノブナガと共謀。屋敷を焼き家人達の死を偽装し、作戦の成功を王に報告した。


 この件で生き残った者達のその後は次のとおりだ。

 ノブナガは身寄りの無い孤児を装いノービスとしてマザックの養子となり、その婚約者であるランゼ、ノブナガに側室として庇護されていたセーニャと共にオナラブル家の新たな別屋敷にて暮らしている。

 ノブナガに仕えていた家人達は極一部がノブナガ同様に名を偽って同屋敷で働いており、それ以外の者は密かに国外へと逃がされた。

 なお、この屋敷の主人はノブナガ改めノービスではなくマザックが新たに迎えた側室マルティナだ。

 このマルティナという女性だが、実はマイダスの正妻だった少女である。

 彼女はトルシエ家の家人達が殺害された時に義妹ミノアと共に囚われていたが、ミノアの自死の報せを知ったハンザにより密かに匿われ、その魔の手を逃れていたのだった。

 仇敵マザックの側室という形ではあるが再び夫マイダスと夫婦となった彼女だが、世間からそれを認められたのは彼女自身の幼さと、そしてマザックの趣味の悪さのお陰だった。故にマイダスとしては複雑な心境に違いない。

 複雑な心境といえば、マルティナもまた同様だ。いかに中身がマイダスといえどその体は仇敵であるマザックのものだ。そんなふたりの間から新たに生まれてくる子は果たしてどういう存在なのか、考えるだけでも複雑だろう。再婚時にトールとミーナを宿していたことがふたりにとって救いだったといえるかも知れない。


 以上がノブナガ事件の顛末である。

 果たしてこれが大団円といえる結末なのか、それはその後の彼らが決めていくことである。

 ここまでのご愛読、ありがとうございました。一応今回で完結です。

 なんだか微妙な終わり方になってしまったのは、主人公に常識よりも良識を優先させるようにしたせいなんでしょうか?

 回収できてない伏線があるため気が向けば続きを書くかも知れません。その時はまたよろしくお願いいたします。



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