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第28話 結局世界は世知辛い

 槍に亡きマイダスの魂を乗せマザックの心臓を貫いたランゼ。だがそれで終わりではなかった。


「槍に宿りし魂魄よっ、この者より全てを奪えっ!

 今より汝こそがこの者なりっ!」


 そのまま彼女は言葉を続ける。


「『換骨奪胎』‼」


 そして締めの言葉を放った。


 その言葉に応じるように槍の全体が淡い紫色に輝いた。

 そしてその光は槍からマザックの心臓へと注ぎ込まれるように向かっていき、入れ換わるようにその体内から暗く濃い灰色の何かを追い出した。


「滅っ!」


 透かさず彼女がそれに手を翳し、気合いの言葉を発すると、それは飛び散るようにして消えていった。


 ランゼがマザックから槍を抜くと、その(きず)は徐々に塞がっていき…。


 むっくりとマザックが上体を起こした。

 だがそれは彼女の使役する死霊兵という感じではなく…。


「…ん……んんん……。ここは……?」


 言葉を発したマザックに警戒する。

 この女、殺したんじゃなかったのかっ⁈


「…いや、違うな。記憶がある。どうやら俺はこの男として生き返ったらしい」


 ……ってことは…。


「ええ、そのとおりよ。

 一度死んだあなたはその男の肉体を奪って生き返ったの」


 ランゼがマザックに説明する。


 そう、間違いない。

 こいつは体こそマザックだが、中身は死んだマイダスだっ!

 つまりマイダスはマザックとして生き返ったんだっ!


 なんとも嬉しい話である……が、同時に微妙な話でもある。

 というのも…。


「マイダスがこうして生き返ったのは嬉しいけど、これってどうにかならないのか?

 このままじゃ誰もこいつがマイダスだと解らないだろ?」


 というわけだ。同じ生き返らせるなら、見た目もそれに合わせるべきだろ。


「馬鹿言わないでよ。

 だいたいこの術は霊とその器となる生きた人間がいて初めて可能となる禁術なんだからそう都合好くいかないのよっ」


「相手の骨肉を奪って入れ換わる。だから換骨奪胎。要するに死者と生者の魂魄の入れ換えによる(よみがえ)りってわけだね」


 幼女がランゼの言葉を補足する。

 なるほど解りやすい説明だが、でも換骨奪胎ってそういう意味の言葉だっけ? 確か他人のやることを自分流に真似するって意味だったはずだけど…。


「なんにしても、一度死んだ身の人間がこうして生き返ったんだから、それ以上を望むなんて贅沢よ」


 いや、確かにそのとおりなんだけど、でも俺も死んで蘇った身であるだけにどうしてもなぁ…。

 まあ、死霊術師と神との差ってことか。


 取り敢えずはこれで一安心。

 セーニャとノヴァの関係は気になるが、あの時ノヴァがセーニャを庇って倒れてたことを考えれば、セーニャのことはこいつに委せても大丈夫だろう。

 なんか異様に親しげだったのは気に入らないが…。


「さて、それじゃ俺達は行くとするか」


 俺は連れの幼女に声を掛けた。

 今の俺は死んだことになっているらしいので、これ以上こいつらに関わらない方が良いだろう。

 これ以上厄介事に捲き込まれたくはないからな。

 ノヴァのやつが考えを変えるとは思えないし、ならば変に関わって前みたいな余計なボロを出すのは避けたい。


「いや、待ってくれ。

 お前らには世話になったことだし、何も大したことはできないがそれでも何か礼をしたい」


 ノヴァが俺達を呼び止める。

 だが俺にはそれに応じる気は無い。


「今回のことはただの偶然だって。だから気にしなくっても構わねえよ。

 ただどうしてもって言うんなら…」


 セーニャのことを頼むって言おうと思ったがやめておこう。下手に弱みを見せるとろくなことにはならなそうだ。


「うん、俺達のことは詮索せずに忘れてくれればそれでいいって」


 うん、それがいい。そうしてもらうのが一番だ。


「じゃ、そういうことで。あばよっ」


 そう告げると俺は連れの幼女の手に取り、この場を急いで走り去った。


          ▼


「ねえパパ、あれで本当に良かったの?」


 幼女が俺に問い掛けてきた。


「ああ、あれで構わねえって。

 だいたい俺って死んだことになっていて、今の俺は前世の姿、あいつらにとっては面識の無い他人だろ。前みたいな付き合いなんてできねえよ。

 それに変に関わってこれ以上厄介事に捲き込まれれるのも御免だしな。

 実際あいつらはお前の異能(ちから)を目にしているわけだし、いいように利用されるのが見え見えだ」


「え~、でもああいうのって私だけじゃないよね?」


 俺の返答に幼女は納得がいかないと首を傾げた。


「あん? ああ、あのランゼとかいう死霊術師のことか。

 ありゃあ例外だろ。

 だいたいあんなのがその辺にうようよしてるようなら、俺もあんなことになってねえよ。

 鉄砲隊なんて余計な口を滑らせたお陰で本当、酷い目に遭ったぜ」


「あ~、あれってパパの仕業だったんだ…」


 俺のぼやきに幼女も何があったか察したようだ。


「ああ、前世の知識も良し悪しだな。口は禍の元ってのを嫌って程思い知らされたわ」


 そうは言ってみたところで、後悔先に立たずなんだが。

 まあ、それでもセーニャは無事(たす)かったし、マイダスも一応生き返った。それがせめてもの救いだな。


「で、実際のところ、さっき言ってたランゼみたいなやつって、こっちじゃ結構いたりすんの?

 正直言って俺はお前以外じゃああいうの初めてなんだけど」


 これは是非とも訊いておきたいところだ。


「さあ? どうなのかな?

 でも、一人見かけたんだから、周りに100人くらいいても不思議はないかも」


「はあっ⁈ 冗談だろっ⁈

 全く、勘弁してくれよ。ゴキブリとかじゃないんだから」


 本当、それって悪夢だろ。それじゃゴキブリと同じだ。


「ま、まあでもそういうことならば、鉄砲に関しちゃそこまで気にすることもないか。確かにヤバいっちゃヤバいんだけど、それはそいつらと同じだしな」


 いや、金と材料さえあれば揃えることが可能なこっちの方がヤバい気がするけど、普通のやつがああいうやつらに対抗する手段と考えれば許容できないこともないか…。

 俺の知る常識は通じなくとも良識くらいは守りたい。


 ああしかし、こうしてみると結局のところ、どこの世界も世知辛いってことなんだなぁ…。

※作中にある蘊蓄は、あくまでも作者の(にわか)な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。

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