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第26話 ノヴァの復活

「お願いっ、殿下を(たす)けてっ!」


 涙ながらに懇願する女性の化け物。

 だがその奇跡をなす幼女の反応は俺に判断を問うものだった。


 正直俺の心中は複雑だ。

 その対象であるノヴァは、俺にとって大切な友人だった。

 だが俺を裏切り禁断の兵器をこの世界に再現させた存在でもある。

 それでも一応の大義はあった。

 それはその兵器による圧倒的武力を以て世の中を統一し、戦乱の時代を終らせ平和を築こうというものだ。

 但し武力行使が前提故に多くの者が血を流し、また多くの者達が不幸になることが避けられない。

 おそらくこれは必要悪なのだろう。

 だが、それでも戦争を終らせるための戦争だなんて認めたくない。あまりも矛盾する行為である。

 だいたい誰もがそんな考えだからこそいつまで経っても戦乱の世が終わらないんだ。

 戦争を終らせるために戦争を起こし、その戦争を止めるためにまた戦争をする。この繰り返しではいつまで経っても戦乱の世は終わるわけがない。あまりにも不毛だ。

 そんなわけで戦争による被害をただ大きくするだけになると考え、ノヴァ達への協力を断わった結果、俺は友人であるマイダスを喪い、その家族をも犠牲にしてしまった。

 ノヴァとしては苦渋の決断だったのかも知れないが、そんな大義を掲げたノヴァも実はただ都合のよいように利用されていただけで、今こんな形で死にかけているというのも皮肉な結果だ。


「ねえっ、いつまでも黙ってないで早くうんって言ってちょうだいっ!

 じゃないと殿下が、殿下が本当に死んでしまうっ!」


 女性の化け物が返事を急かしてくる。


 確かにノヴァは虫の息で、その命は正に風前の灯火と思われる。

 だが、こいつは俺にとってマイダスの仇のひとりでもある。

 でも、こいつにとって、それは本意でなかったのかも知れない。ハンザもそれらしいことを言っていたし…。

 いや、ハンザも裏切り者のひとりだけに、その言がどれだけ信用できることか…。


 俺が判断に迷う中、激しい轟音が鳴り響いた。


 崩れ落ちていく兵士達。

 知らぬうちに俺達の盾となっていたようで、その身体の全てがボロボロだ。…って…。


「こ、こいつらさっきの死霊兵かよっ⁈

 てことはこの化け物女は…」


 まさかこいつも死霊かよ。まさかそんなやつがノヴァ達を護ってたとは…。


「誰が化け物女よっ! さっきから黙っていれば失礼じゃないっ!

 …って、今はそれどころじゃないわね」


 確かにそうだ。驚きのあまりに忘れていたが……。


「ヤバっ! やつら、またあの槍を構えてやがるっ!」


 くそっ、ヤバいっ!

 馬鹿なことを言っている間に絶体絶命の大ピンチだっ!


「くっ、こんなところで見す見すと殺られるものですかっ!

 出でよっ、怨讐の亡者達よっ!

 今こそ汝らの復讐を果たせっ!」


 彼女の声に応じるかのように地面がもこもこと盛り上がり…。


「うおぉっ⁈」


 大地からボコっと飛び出す人の腕。それが次々と現れる。

 そしてそれらは腕だけでなく続けて頭が、胴体が、そして全身が現れた。

 死霊兵だ。

 どうやら彼女が死霊を操る術師だったらしい。

 それにしても全く心臓に悪い。暫くは悪夢に(うな)されそうだ。

 そんな怪奇極まるホラー現象に敵兵達にも動揺が走る。

 そこに死霊兵達が襲いかかる。


「これって、無理に俺達が協力しなくても、この子がいればそれで十分過ぎんじゃね?」


 死んでも死んでも甦る死霊兵達は、どう考えても反則的戦力だ。

 敵にとっては悪夢的存在に違いない。


「ここは私が支えるからっ!

 だからお願いっ! 早く殿下をっ!」


 化け物女…いや、死霊術師の女が再び俺に訴えてくる。いや、俺じゃなくって傍の幼女にか。


「私からもお願いしますっ!

 殿下は…、殿下は私達を庇って…」


 これまで恐る恐る俺達のことを窺っていたセーニャが彼女に続くように頭を下げた。


 そういうことか。

 確かにセーニャはノヴァに押し倒されるようにして倒れていた。つまりセーニャの言うことは事実ってことだ。

 ならば求めに応じなければならないだろう。この借りは返さなければ義理が立たない。


「頼む」


「うんっ、解った」


 俺の言葉に幼女はにっこり笑顔で頷いた。

 そして嬉々として駆け出して行くと、その小さな両手をノヴァの身体へと翳す。

 ノヴァの身体が淡く青い光が包み込む。

 その光は次第に眩しさを増していき、徐々に徐々にと薄れていく。

 そして光の収まったところで幼女はそっと手を下ろした。


「終わったよ」


 幼女がそう告げると同時にセーニャがノヴァへと抱き着いた。


「殿下ぁっ!」


 涙ながらにノヴァを抱きしめるセーニャ。

 するとノヴァが呻き声を上げた。


「うぐっ!

 な、なんだ?

 ん? セーニャ?

 いったいなんでそんな血塗れに…」


 間抜けな声を上げるノヴァ。

 こうして状況を把握できていないのは果たしてお約束なのだろうか。


「殿下っ、殿下っ、殿下ぁ~っ!」


 きっと安堵のせいだろう。セーニャがノヴァの胸の中で泣き(じゃく)る。


 なんだろう、どうにもなんか面白くない。


「おいっ! 今はどういう状況だっ⁈

 いったい戦況はどうなってるっ⁈」


 泣き着くセーニャを余所にノヴァが戦況を訊ねてきた。

 やはり痩せても枯れてもそこは王子ってことなのだろう。



「殿下っ! 無事快復なされたのですねっ!」


 死霊術師の女性がこちらへ振り返る。

 ノヴァの復活に気づいたようだ。


「快復?

 そう言えば、あの銃撃を受けたにしてはどういうわけか痛みが無い。

 いったい何が起きたのか知らないがこの状態はあまりに異常だ」


 ノヴァが不思議そうに首を傾げる。


 ヤバい。口止めを忘れてた。


「馬鹿っ、今はそれどころじゃないだろっ!

 今はこの窮地をどう逃れるか、それが一番の問題だっ!」


 取り敢えず一時凌ぎで誤魔化すが、今言ったことは事実である。


 見れば死霊術師の女は肩で息をし始めている。おそらく限界が近いのだろう。


 迫りくるマザックの兵士達。

 彼らの武装はあまりに凶悪。

 最悪の状況は近い。早い決断が必要だ。


「おやっ? いったいどんな手を使ったのか知りませんが、皆さんご無事だったようですね。

 ですが無駄な抵抗もこれまで。覚悟を決めていただきましょう」


 俺達の決断は遅過ぎた。

 いつの間にか俺達は囲まれており、マザックが勝ち誇り嘲笑(あざわら)う。


 マザックが高く手を上げた。

 兵達が銃槍を構える。


 くそっ、遂に天運も尽きたか。

 今度こそ絶体絶命だ。


 夜空に暗雲が立ち込める。

 そして天が落ちてくるかのような激しい轟音が鳴り響いた。

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