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第24話 Fight or Flight

 今回のサブタイトル『Fight or Flight』の意味は『闘争か逃走か』となっております。

 いかにも洒落が利いたものですが、残念ながら作者のオリジナルの発想ではなく某TCGのカード名のパクリです。まあその場合正しい和訳は『闘争か逃亡か』なのですが…。

 これって本当によく考えられていますよね。

「あ、あいつはっ!」


 目の前で繰り広げられる戦闘の中、マイダスを殺した憎き仇マザックを目にした俺は思わずそれを声にした。

 だが当然ながらマザックは兵士達に護られており不意討ちを仕掛ける隙さえもない。それが怒りに震える俺に冷静さを取り戻させた。

 しかしそんな俺を見て、俺の娘を自称する幼女は殺意を漲らせ、その戦闘の最中へと繰り出した。

 そして、そこを容赦のない激しい爆発が襲い吹き飛ばした。


「あ…あの馬鹿…、だから待てって言ったのに…」


 俺は後悔に崩れ落ちた。

 いや、崩れ落ちかけていたのだが、激しい衝動が上回り気づけばその場を駆け出していた。

 逃げ出したのではなくその逆だ。俺も彼女の元へと走っているのだ。

 そして心を決めた。心に素直になった。

 この胸の内に湧き上がる衝動に、黒き怒りの炎に身を委ねると決めたのだ。

 どうせ俺は既に死んだ身だ、今さら何を恐れることはある。

 ならば死なば諸ともで、あいつらを道連れに死んでやるっ!


 そんな覚悟で飛び出した俺だが…。


「な…何が起きてんだ…?

 いや、別に怪訝しな話でもないか。

 あいつ、自分のこと女神とか言ってたし、少なくとも俺がこうして生き返ってるんだ、ならばこの状況も納得か」


 目の前では先ほどの爆発で吹き飛ばされたかに思われた幼女が狂笑を上げて駆け回っている。そしてその小さな腕を翳す度にその目の前の地面が爆ぜて飛ぶ。どうやらあの爆発はこいつの仕業だったらしい。


「く…、くそガキめ…、またも新手を呼び出したか。しかもなんという化け物だ。まだこんな力を残していたとは…」


 変わる戦況にマザックが顔を顰めた。

 しかし勢いが少し変わっただけで、未だ相手の優勢は変わらない。


「ええい、銃槍隊っ! あの化け物を撃ち殺せっ!」


 マザック配下の兵達がその前面に並び槍を水平に構えた。

 まずいっ、あれは鉄砲隊だっ!


「やめろーっ!」


 俺の叫びに応えるように銃弾の嵐が吹き荒れた。

 激しい弾幕が彼女を襲い、その小さな身体を吹き飛ばした。


 一時止まっていた足を再び全力で動かし倒れた彼女の元へと駆け出す。まず生存は絶望的だろうがそれでも安否を確かめられずにはいられない。


「おいっ、しっかりしろっ!

 これでもお前は女神なんだろっ⁈ こんなことで(くたば)ってんじゃねえよっ!」


 幼女を胸に抱きしめて、涙ながらに訴える。

 くそっ、また俺の目の前で知る者が死んで逝くってのかよ…。


 絶望的なこの状況に新手の兵達が寄せて来る。

 くっ……最早これまでかっ…。


  だがしかし、観念しかけた俺の目の前をその兵達は通り過ぎる。そして彼らの向かった先は…。


「な…? いったいこれは……?」


 彼らの向かって行く先は、先ほど幼女に銃撃を浴びせた兵達のいる場所。

 そして俺は思い出す。これは彼らとマザック達の戦闘であったということを。つまり俺達はただ乱入しただけの部外者だ。


「……ぃったぁ~っ。あいつらよくも……。

 ……って、……あれ? パパ?

 なに? 何がどうなってんの?

 私、なんでパパに抱きしめられてんの?」


 腕の中の幼女が素っ頓狂な声を上げた。


「はあっ⁈

 いや、今はそれよりも、お前、傷は…身体はなんともないのかっ⁈」


 驚きに幼女の両肩を掴み、そして激しく前後に揺らす。本来すべき行為ではないのだがそうせずにいられないのは人の性だ。


「へ? 身体?

 うん、少し汚れちゃったけど、だけど全然元気だよ」


 俺の心配を余所に幼女はけろりとして笑う。

 ああ、そういえばこいつってこんななりでも神だったもんな。


「全く無茶なことすんじゃねえよっ! 余計な心配させやがってっ!」


 幼女の振る舞いに怒りが湧く。

 いかにこいつが人外の神でも、やはり危険な真似は許せない。

 まあ実際は危険だなんてことはなく、俺の心配なんて余計なお世話なのだろうけど、それでもやはり話は別、それはそれでこれはこれだ。

 だが一番許せないのは、こんな幼子にあのような真似をさせた自分自身。

 ああ、己の無力さが恨めしい。


「ここは危険だ。こんな場所はさっさと抜け出そう」


 そう、今は俺の復讐を果たすことよりもこの子の安全が第一だ。ならば俺のするべきことはこの子を連れて早々にこの場から避難することだ。


「えっ? でも、あいつのことを放っておくの? パパを酷い目に遭わせたやつなんでしょ?」


 幼女が納得いかないと問い掛けてくるがそんなことなんてどうでもいい。


「馬鹿野郎っ! そんなことなんてどうでもいいっ! 今はお前のことが一番なんだよっ!

 幸いあいつらはお互いに殺り合ってるみたいだし今の内に脱出するぞっ!」


 守るべき存在に気づいた俺は急いでこの場を離れるべく幼女の手を取り走り出した。

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