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第17話 差し入れ

 翌朝……多分翌朝。

 いや、だって窓一つ無い部屋の中なんだし正確な時間なんて解んないって。だからこれは寝てた俺達の目覚めた時の感覚だ。


「あ~、腹減ったなぁ…」


 とまあ要するに腹の虫による感覚だな。


「はは、思ったよりも元気そうじゃないか」


 掛けられた声に振り向いてみれば…。


「ハ…ハンザっ!」


 格子の向こうに居たのはハンザだった。その後ろには従者らしき二人の男を伴っている。


「てめえ、裏切り者がなんの用でぬけぬけと現れやがったっ!」


「ぬけぬけととは失礼なことを言ってくれるね、せっかく君達のことを心配してやって来たってのに。もう少しお互いの立場ってのをよく考えて喋れないものかな?」


 くっ、なにが立場だ。ハンザのやつ、見下したことを言ってくれやがる。


「まあいいか。

 ほら、差し入れだよ」


 ハンザの言葉に従い従者の二人が格子扉を開け中に入って来る。

 ああ、食事か。

 食台の上にはパンとスープ。スープに入っているのは野菜類だけで肉類は欠片も無さそうだ。取り敢えずそこは一安心……って…。

 くっ…、マイダスのやつ、噴き出し哂いを(こら)えてやがる。


 従者達が格子の外に出て施錠を終えたところでハンザが話し掛けてきた。


「さて、これで僕の用は済んだわけだけど、せっかくだから一つ忠告しておくよ。一応は友人だからね」


「忠告?」


 なんだそれは。今さら何を言うってんだ。


「ああ、忠告だよ。

 今回の話だけど素直にきいといた方が身のためだよ。せっかく殿下が王子という立場でなく友人のノヴァとして頼んでいるんだからね」


「どういう意味だっ⁈」


 立ち去ろうとするハンザの台詞に不穏さを感じて問い(ただ)す。


「そのまんまさ。でも従うなら早めの方がいいよ。誰もが殿下みたいってわけじゃないからね。中には功を焦る者もいないとも限らないし。

 じゃ、忠告はしたよ」


「ま、待てよっ、どういう意味だっ⁈」


 再び問い糾してみるもハンザは言うべきことは言ったという感じで背を向けた。

 結果俺達は格子越しにその姿を見送ることしかできないのだった。




「くそっ、ハンザのやつ、言うだけ言ったら無視して行きやがった。

 あれって絶対恫喝だよな」


 去り際のハンザが残した言葉に俺は不安を募らせた。


「かも知れないが、忠告ってのも強ち全くの嘘ではないだろうな」


「あ? どういうことだ?」


 忠告? あれは恫喝以外の何物でもないだろ?

 マイダスのやつ、何をわけ解らないこと言ってるんだ?


「昨日も言ったとおりさ。

 今のところノヴァは穏便に…というにはなんだけど、それでも話し合いで俺達を仲間に加えようとしているわけだ。それは今の甘い待遇を見てのとおりだ」


「どこがだよ」


「いいから聞けって。

 で、ノヴァはそのつもりでもその配下は解らない。例えば昨日のマザックってのなんかがその典型だろう。ああいう上ヘ阿諛追従をする者は、ときに過ぎたる忖度故に暴走し結果として主の意に背くことも少なくないからな」


「ああ確かに。

 …って、ちょっと待てよっ、それってつまり」


「ああ、だから忠告なんだろう。

 とはいえあいつらの要求を呑めない以上、今はノヴァの良心と統率力に期待するしかないだろうな」


 くそっ、なんてことだ。いったいどうすりゃいいんだよ…。


          ▼


 それから数日が何事もなく過ぎ、俺達の心配が杞憂だったかと思い始めた頃にそれは起きた。


「ちっ、肉入りかよ。最近無かったから俺の好みに合わせてくれたものと思ってたのに」


 いつものように用意された朝食のスープは少し大きめな肉入りだった。


「ああ、それかね。最近ちょっと変わった物が手に入ったもんでね、そのお裾分けだよ。

 君はともかくそこの彼には馴染みが深いんじゃないかな」


 久しぶりに顔を見せた髭の男、マザックだったかが笑いながら応えた。


「どういうつもりだ? まさか毒でも入っているんじゃ……」


 訝しむマイダス。確かに怪しい。


「ふっ、心配しなくともそんなことなどはしないよ。殿下の目的はあくまでもそなたらを配下に加えることだからな。

 正直拷問なり何なりで吐かせてしまえば手っ取り早いものを。全く殿下ともあろう者がなんとも甘いものだ」


 なるほどそれもそのとおりか。ノヴァの目的はあくまでも俺達を仲間にすることというなら殺そうわけにもいかないからな。


「なるほど、それなら安心か。それじゃありがたくいただかせてもらうとしよう」


 早速スープに手を着けるマイダス。

 なお、俺は食わない。相性が悪いので後でマイダスに分けてやろう。


 しかし、マイダスに馴染みの深い物か…。

 いったい何の肉だろう?


「おっ、思ったよりも美味いな。馴染みの深い肉って話だが何の肉だろう? 食った覚えのない味だが…」


 へぇ…、マイダスの食ったことのない物か。でもマイダスの馴染みの深い物なんだよな…。


「お前、ひょっとして味覚音痴か? 馴染み深いってのが本当なら日頃からよく食ってる物のはずだろ?」


「いや、まあそう言われると反論はできないが、どうにも覚えがないんだよな」


「はは、なら味覚音痴決定だな」


 顰め面のマイダスをさらに揶揄してやると前言に反して言い訳が返ってきた。


「いや、でも変わった物って言ってただろ。だったらいくら馴染みがあるって言っても日常的な物とは限らないわけでそれなら可怪しな話じゃないはずだ」


 ああなるほど、何かの行事等の時の食い物か。それならば解らないでもない…のか? でも、それならばそれで却って記憶に残りそうな気もするんだけどな…。


「さて、君達にも喜んでもらえたことだし、ここらで何の肉か説明させてもらおうか」


 笑いながら告げる髭の男の説明は、あまりにも信じられないものだった。

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