第15話 ノブナガの野望
どうやらまたメンテナンスが行なわれるようです。
というわけで慌てての前倒しでの投稿です。本来ならば土曜日か次の日曜日の予定だったのに…。
くそっ、いったいどうなってるんだよ、今日は。
仲間内で交換留学生の話をしていたと思えばそこから鉄砲隊の話になり、ノヴァにその話を強要されたかと思えば今度は拉致られ、しかもそれを行なったノヴァはエンドリアの第一王子ノブナガ・ヴォーダン殿下だという。
もう頭の中が混乱して何が何だかわけが解らないってんだ。悪い夢なら醒めてくれ。
「さすがに気づくか。…って、こっちはまだ混乱してるみたいだな。
全くこいつはよく解らないやつだよな。
妙に物事に深い洞察を示すかと思えば、どうしようもなく他人にあっさりと騙される。
常識を知らないかと思えば、時に常識を越えた発想を示す。例えば今回みたいにな。
本当、よく他人のことを変人だなんて言ってくれたものだ。こいつの方が絶対に俺以上の変人じゃないか」
くっ……やっぱり夢じゃないのか。まるっきり醒める感じがない。
「しかしどういうつもりなんだ?
こうして俺達を拐ってきていったい何をしようってんだ?」
だというのに、俺がこんなに混乱しているってのに、なんでマイダスはこうも冷静でいられるんだよ?
やっぱりこれは夢だからなのか?
だったらいい加減醒めてくれ。冗談にしても質が悪過ぎだ。
「ああ、そうだった。それじゃ本題に入ろうか。
いや、その前に食事か。と言っても、悪いけどその場でってことになるけどな」
よし、チャンスだ。食事となれば拘束も解かれるだろうから、それに乗じて脱出だ。
……甘かった。やはりそれなりのことは考えるよな。
確かに食事ができるように両手両足が自由になった。但し足首の先は鎖で部屋の壁際に繋がれていてやはり逃走はおぼつかない。
ちっ、これじゃ脱出は無理か…。
「なんだよお前、肉類がダメなんじゃなかったのかよ」
渋々と出された食事にかぶりつく俺にノヴァが呆れたように言ってきた。
「なんだ? 気を遣ってくれるってのかよ? それならそうと言ってくれよ。そうすりゃ意に反してこんな物を喰う必要もなかったのにな」
そう言いつつも俺は手にした何かの肉に喰らいつく。
口にした以上俺に喰わないって選択は無い。それはこうして食糧となった生き物に対する冒涜だからな。まあ貧乏性ってのもあるのだけど…。
「貴様っ、何様のつもりだっ。俘虜 の分際で殿下に対して生意気なっ!」
髭の男が格子越しに怒鳴ってくる。
食台に椅子、そしてそれなりの食料。本来なら待遇は悪いとは言いきれるものではないがそれでも俺達は鎖で繋がれて檻の中。確かに虜囚だ。
「そうは言うけど、その俘虜に対してこの待遇ってことは、当然何かそれなりの思惑があるってことだろ?」
ははっ、マイダスのやつ随分と強気だな。
だが確かにマイダスの言うとおりだろう。おそらくはいろいろと俺から聞き出すことが目的だな。
くそっ、ノヴァのやつめ、そうは問屋が卸すものか。
「まあな。それじゃ本題に入ろうか。
って、そう警戒しなくても大丈夫だって、別に危害を加えようって気なんてねえんだから。友達だろ?」
「何言ってやがるっ。ダチにこんな扱いをするやつがどこの世界にいるってんだよっ!」
こいつ、どの口が言ってやがる。白々しいにも程があるってんだ。
「ああ、それについては悪いと思うけどそこはしょうがねえんだよ。なんてったってアレはそれだけの常識外れなもんだからな。お前だってそれは解ってるはずだろ?
で、そうなると当然そんな発想を持つお前も危険ってわけで、目の届く範囲で管理する必要が出てくるわけだ。
そんな理由でこうして世間から隔離させてもらったってわけだな」
くっ…、なるほどそういうことか…。
「おいっ、それだとハンザは…」
もしかするとという不安が頭を過った。
俺達が危険人物と看做されたってことは一緒にいたハンザだって無事で済んだとは限らない。特にあいつはこの技術の運用に前向きだったし、それが俺達と一緒にいないってことは…。
「ああ、ノヴァ達に取り込まれたってことだろうな」
へ? どういうことだ? 俺達って危険人物認定されて捕まったってんじゃなかったのか? ならばハンザだって同罪だろ?
「ああ、話ってのはそのことだよ。
まず最初にだが、マイダスの言うとおりハンザは無事だよ。現在は俺の配下として働いてもらっている」
ノヴァの言葉に取り敢えずは安堵する。
しかし、いったいどういうことだ? 危険人物と認定した者を配下に加えるだなんて。
「つまり俺達も同様に取り込んで、秘密で特殊兵器開発をさせようってことか」
「ま、そういうことだ」
はあっ⁈ ちょっとどういうことだよっ⁈
マイダスとノヴァのやり取りだがどうにも納得がいかない。
… いや、待てよ。そういえば以前に言っていたな、エンドリアの第一王子の政治的立場について。
友好国同士の親善が目的の交換留学。その対象となる留学生には両国の友好を深めるという役割もあるが、それを保証するための人質としての意味合いもある。
それはいい。両国の友好が保たれるならば何の問題もないわけだしな。
だが実際は政治に駆け引きはつきもので両陣営にそれぞれ思惑があるのが現実だ。
ではエンドリア側の思惑とは何か。
これもノヴァの言ってたことだが王位を繞る争いの可能性だ。対立王子の追放。もしくはその人物の亡命。どちらにしても国外に争乱の火種を置くことになるわけで…。
「…つまり俺達はお前の私兵の強化に利用されるってわけか。
ならば答えは決まってる。当然ながらお断わりだ」
冗談じゃない、要はこいつの私闘に使われるってことだろ。最悪戦争の道具にされるだけだ。どうして応じられるものか。
「貴様っ、ノブナガ王子に対して無礼なっ!」
俺の返答にノヴァよりも前に髭の男が激昂する。だが所詮は格子越しだ、何ら危害がないわけで精々が煩く喚くのが関の山。
…嘲り煽ってやれば多少の気が紛れるかと思ったがあまり意味がなさそうなのでやめた。せっかくの食事を台無しにされるのは御免だし。
「まあお前ならそう言うよな。一応は戦争の被害者だし」
髭の男を宥めつつノヴァが俺に返してきた。
何故だろう、その言葉に嘘はなさそうに思える。やはり一応はダチだからか?
「だがな、それで戦争はなくなるのか?
俺は戦争をない世の中を創りたいと思っている。これはそのための力だ。
まずはこの力とこの国の援助でエンドリアの王となり、いずれは世の中を統一する。これはそのための第一歩なんだ」
これがノヴァの目的…否、ノブナガ王子の野望ってわけか。いわゆる天下布武によるエンドリア統治による平和ってわけだ。
もしもそれが成されるならば確かに世の中から戦争はなくなるかも知れない。
果たしてどうするべきなのだろう。
俺はマイダスと顔を見合わせた。
※1『俘虜』とは、解りやすくいえば捕虜のことです。
ただ、人によっては捕まった時点では捕虜、収容された者を俘虜と言葉を使い分けをしたりするようです。
※この後書き等にある蘊蓄は、あくまでも作者の俄な知識と私見によるものであり、必ずしも正しいものであるとは限りません。ご注意ください。




