第13話 やはり口は禍いの元
「まあそんなわけだ。所詮は俺の戯言ってわけだ、今回の話は忘れてくれ」
全ては俺の夢の産物、妄想に過ぎないってことでこの話は終わりだ。
「いや待てよっ。誰がこれで終わりと言った」
と思ったのだが…。
なんだよノヴァのやつ、納得したんじゃなかったのかよ。
「なんだよ、これ以上なんの話があるってんだよ?
もう話すことなんて無いと思うんだが」
正直本当に思い当たることなんて無いんだけどな。
「確かに夢の話だし、お前にとってはただの戯言なのかも知れないけど、でもその割には随分と具体的な夢みたいじゃねえか。
だったらそれって実現の可能性は高いんじゃねえか? しかも実用性は高そうだ。
そういうわけだ。取り敢えずその夢のイメージってのを詳しく訊かせてもらおうか」
ったあ~っ。
そうだった。そういえばこいつってこういうやつだった。
こいつの技術からの思いつきなんて言ったのが失敗だったか。すっかり好奇心に火をつけてしまったみたいだ。
…仕方ない。大人しく従うことにしよう。
「はあ……。解ったよ。こう言い出したからにはもう引くって気は無いんだろうからな。
ただひとつ約束してくれ。決して自身の護身に使うだけにすると。悪用は当然のこととして、他に拡めたりするのは厳禁だ。アレは本気でそこまでヤバい、そういう洒落にならない物なんだよ」
これが現実に使われるようになるとマジでヤバい。前世の歴史なんて欠片程度の聞き齧りでしか知らない俺だけどそれでもそれはよく解る。でなきゃお上が御禁制になんてするわけなんてないもんな。
というわけでノヴァの了承を取れたところで話を進めることに。いや、ノヴァだけでなく、この場にいる全員の了承を取ってだ。とにかくそこまでヤバい技術なのだから。
「じゃあ始めるけど、笑うなよ、あくまでも夢の中での話なんだから」
一応は前置きをしておく。怪訝しいと思うかも知れないが、しかしこれは重要だ。なんてったってこれは戯言であるって認識される程俺には都合が好いんだし、できれば話だけ終わってほしいってのが本音だ。まあ、ノヴァのことだし聞けば実際に試すことはまず間違いないだろうけど…。
「まず前提はノヴァの火薬の知識と技術があっての話だな。まあそれに関してはそれからの思いつきだって言ったことから解っているとは思うけど。
で、それがどんな物かって話だけど、ほら、ノヴァのアレって結構欠陥が有るだろ?
無駄に範囲が広いから味方を巻き込むし、火薬が水に濡れれば役に立たない。
夢の中のそれはそこが改善されてたんだよ」
「まあ所詮は奇術の類だしね。
正直それを実戦で用いようなんて物好きはノヴァくらいのものだろうね。
それをそんな風に妄想するってんだから君も相当な物好きだよ」
はは、ハンザのやつ、相変わらずの否定的だな。
まあ、物を知らないやつなんだからそれも仕方のない話だ。
「で、それはどんな風になんだ? 具体的イメージは有るんだろ?」
一方でノヴァは前置きで早くと続きを急かしてくる。まるで飴を前にした子供だな。
「なんか鉄製の筒を使ってたな。
ほら筒の中なら水の心配は要らないし、火の制御にしても筒から飛ばすなら結構違ってくるはずだろ?」
さすがに爆発で鉛玉を飛ばすとは言わない。あれはさすがに凶悪だ。仮に命は助かったとしても傷口が壊死して使い物にならなくなるっていうし、酷ければそれで死に至るともいう。
まあ、そんな技術が一朝一夕で再現できるとは思わないけど、それでもないとは言いきれない。かつて堺の職人達みたいな優れた技術者がいないとは限らないからな。
「うわぁ、鉄の筒か。
でもそれって結構重さがあるよね。それなら火矢でもいいんじゃない?
無理して火薬なんて使わなくても先端を油に浸せばいい話だし、コストとかも考えると実用的とは言えないんじゃない?」
再びハンザからの否定的な意見が。
なんだろう、俺もそんな風に思えてきた。
「ああ、なるほどな。鉄の砲の隊で鉄砲隊か。
でも、確かにそれならハンザじゃないけど弓隊で十分間に合いそうだよな」
マイダスもか。
まあ確かにふたりの言うとおりだろうな。
但し威力は桁違いなのだが。
そう、鉄砲の本当の恐ろしさってのは火薬によるその爆発の威力を活かして鉛玉を打つところにあるのだ。その威力はどんな弓弦の強い弓を用いても比べ物にならない。
「ふむ、なるほどどちらも一長一短だな。
基本的には弓の方が使い手は良さそうだ 。
だが鉄製の筒の安定した炎の制御も捨て難い。
う~ん、鉄製の筒を用いて炎を浴びせる。言うなら火炎放射器ってところか。
この場合燃料はやはり油が良いだろうな。
となると燃料はタンク等ってことになるだろうから特殊部隊での運用か…」
うおっ⁈ ノヴァのやつ、なんて物を考えやがるっ。今はまだイメージだけしか湧かないけれど、それでも随分とヤバそうだ。
「確かにそれは凄そうだけど、使う場面が限られそうってのも確かだな。少なくとも乱戦の最中に投入する物じゃないのは確かだ」
いやマイダス、お前、なにをそう平然と運用方法を考えてんだよ。
「あ、ならもういっそ大型兵器にしてしまえば良いんじゃない?
足下に車輪とか着けて移動できるようにすれば実戦でもいけそうだよね。
火を吐くドラゴンに因んで『火龍戦車』なんて言えば味方の士気も上がりそうだ」
おおい、ハンザ、お前もかよ⁈
日頃はなんだかんだで他人を非難してくれるくせに、今この中で一番興奮してんじゃないか。
「はは、やっぱり話してはみるもんだな。
よし、早速軍器監に話を持ってみよう」
はあっ⁈
「ちょっと待てよっ、それじゃ約束が違うだろっ!」
こいつ、俺の話を理解したんじゃなかったのかよ?
「なに言ってんだよ、それは鉄砲隊とかいうやつの話だろっ」
な、なんて屁理屈を言いやがるっ。
「ああ、それにこれは悪用なんかじゃなく国防のためっていうちゃんとした理由なんだから、約束に違っているわけじゃないだろ」
くそっ、ハンザもかよっ。
「いや、お前らそれはないだろ。それは明らかな詭弁じゃないかっ」
マイダスは俺の味方か。さすがはマイダス、助かるぜ。
「なにを綺麗事言ってるんだよ。こんなの大事の前の小事だろ。大義は小義に優先するんだよ」
「そうそう、それに君達も抑止力って言葉くらい知ってるだろ。
だいたい何事も力が有って初めて言えるってことは誰よりもケントが一番知っているはずだよ。死人は何も語れないってね」
突如部屋に使用人達が現れた。そして俺とマイダスはそいつらに取り押さえられることとなった。
くそっ、ノヴァのやつ、最初っからそのつもりだったなっ。覚えてやがれっ。




