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第10話 噂の交換留学生について

 入学式から数日、噂の交換留学生の姿を拝む機会がないかと思っていたのだが、やはりそう簡単にはいかないようだ。

 う~ん、仮にも一国の王子なんだから、それなりに目立ってて、一目で解るとばかり思っていたんだけどなぁ。

 例えば目立つ格好をしていたり、変わった言動だったり、護衛とかのお供を連れていたりして、明らかに周囲から浮いているもんだとばかり思ってたんだけど、見た限りではそんなやつらは全くといってよいほどに見当たらない。


「まあ、仕方がないか、他にはなんの手掛かりも無いわけだし。

 せめて名前くらいでも解ってれば、結果も少しは変わっていたかも知れなかったのになあ…」


 まあ、そうは言っても相手は俺なんかには全く縁の無い雲の上の存在なんだし、とてもじゃないけどそんなこと知り得る機会なんて無いもんなあ。


「なんの話だ? それってもしかして女か?」


(ちげ)えよ。そんなんじゃなくってこの間言ってた例の交換留学生のことだよ」


「ちっ、なんだ、つまんねえな。せっかく冷やかしてやろうと思ってたのによ」


 全く、ノヴァのやつ。相談に乗ってくれるのかと思ってたのに、弄るのが目的だったのかよ。


「ああ、なんだそんなことか。

 しかし意外だな。仮にも君は騎士階級の家柄の子だろ、だったら公表はしてないにしてもその程度のことは耳に入ってると思ってたのに」


 ハンザが呆れたように応えてきた。

 でも納得だな。確かにうちは騎士の家柄なんだし、そういう話も耳にする機会もあるかも知れない。だからうちの人間に訊いてみれば良かったんだ。なんで気が付かなかったんだろう。


「いや、でも公表してないって今言わなかったか?

 なのになんでそんなことが解るんだよ?」


 納得のいく理由だと思ったけど、でも公表してないんじゃ知り得ることなんて無いじゃないか。


「はあ? それって本気で言ってんのか?

 全くめでてえ頭してやがるな。だいたい公表してないと言っても箝口令を()いてるわけじゃないんだし噂にくらいはなるもんだろ」


 ああ、確かに。世間(ひと)の口に戸は立てられぬって言うしな、そりゃあそういうこともあるわけか。


「ま、まあそんなことよりも、肝心のその交換留学生のことだけど、その言い分じゃ名前以外にもいろいろと解ってることが有るんだろ? さあ、隠さずに洗い(ざら)い吐きやがれっ」


 ノヴァの言を誤魔化すように俺は話を逸らしハンザを追及するように問い詰める。

 ふっ、まさかこんなところにこんな有益な情報源が有ったとはな。


「いや、そりゃあそれについては(やぶさ)かじゃないけど、吐けっていうのはないだろ。それじゃ僕が罪人か何かみたいじゃないか」


 あ……。


「ああ、いや、すまねえな。確かにその通りだ。

 いや、なんか気持ちが急いてしまってさ、それでついな」


 我ながらやらかしてしまったものだ。まさかこんなことで自制を失なって、友人にこんな扱いをしてしまうなんてな…。


「全く、仕様がないやつだな。

 とは言ってもそれも仕方がない話か。どうもケントにとってはその交換留学生ってのは尊敬する英雄的存在みたいだからな」


 はは、マイダスの言う通りだ。せっかくのフォローが呆れ混じりになるのも仕方がない。

 そしてこっちもマイダスの言う通り。なんてったって彼は我が国との平和ための(かすがい)となってくれている御方だ。そんな大人物をどうして崇めずにいられようか。


「はあ~ん? そんな御大層なもんじゃねえは思うんだけどなぁ…。

 だいたいだけどその交換留学生の王子ってのが、国の中でどのような立場かによって、政治的意味も変わってくるわけだろ。

 一応両国の友好のための交換留学って建前で、実質的には人質交換なわけだけど、でもその王子に人質としての価値がなければ、場合によっては争乱の火種にもなりかねない。

 例えばその王子がその国で変死した場合だが、その場合その隣国に負い目を負わせることができるし、それを開戦の口実にすることも可能だ。そんなわけで捨て駒として暗殺されることもあり得るだろう。特に王位継承争いに関わってたりすると、将来の禍根を断つという理由もあってその可能性もより高まるだろうな。

 で、そんな捨て駒王子だけれど、そんな事実上の国外追放を受け容れるってことは自国内に居ることが相当ヤバい状況ってことだろ。当人としては実質的な亡命だったりするわけで、隣国から再起を図ろうとするわけだ。しかもその隣国の王が野心家だったりすれば、その王子と共謀するってこともあり得るわけで…、解りやすく言えば自分の息の掛かった人物をその国の王位に据えることができるってわけだな。

 まあそんなわけで、両国友好とか言いながらお互いに水面下では暗闘が繰り広げているなんて可能性もあるわけだ。

 なっ、そんな連中が本当にお前の言うような立派な存在だと思うか?」


 むぅ…、確かにその可能性は無きにしもあらずだけど、だからってそれは穿ち過ぎってもんだろう。何事もそんな風に疑って掛かってちゃ、人を信じることができなくなるじゃないか。


「まあ、概ねノヴァの言う通りだろうね。いつどこの国だってこういう権力争いは決して避けられないだろうから。そしてそれはこの両国でも例外じゃなかったってことだね」


 ハンザがノヴァの意見に賛同する。

 こいつら、結局この前から考えが変わってないじゃないか。

 ただ、ノヴァの言い分は残念ながら説得力があるんだよなぁ…。


「まあ、お前らの言い分は解ったけど、でもやっぱり俺はそんな風に疑いたくはねえんだよ。

 だいたい人の世ってのはそうやってお互いに信頼し合うことで成り立っているんだし、お前らみたいなことばかり言ってたんじゃ、殺伐とした獣以下の世界になっちまうってんだ」


 それが信義ってもんだろう。俺はそれ信じたい。


「ああ、ケントの言う通りだ。

 確かに世の中綺麗事ばかりじゃないけれど、それでもそうあろうと努力する姿勢が大事なわけだしな。

 とはいえノヴァ達の言うこともまた真実。どちらの言うことも正しいし、そして正しくないともいえる。

 だったらそこは妥協案として、現実に疑わしいことがあってからってことでいいんじゃないか?

 まあ、後手に回ることにはなるけれど、そこは挽回すれば済む話だしな」


 仲裁に入るマイダス。その意見は理想と現実の妥協案。それは正に理に敵っていて否定のしどころが見当たらない。


「ああ、間違い無くそれは後手だな。

 でもまあ理想を追い求めることも人間として大切なことだし、妥協案としては妥当なとこか」

「うん。僕も人間性を疑われてまで、そんなことを言い張るつもりは無いしね。

 ただ、それでもやはり後手に回りたくはないし、ある程度の用心は必要かな」


 マイダスの意見にふたりも賛成のようだ。ただ、全面的というわけではなく、ハンザなどはそれらしいことを零している。当に妥協だな。


「まあそこは反対する理由は無いな。疑うことと用心することはまた別の話だし」


 一方でマイダスの方もふたりの言に異存は無いらしい。


 ……まあ、そういうこと……なら?

 なんか納得いったようないかないような…。


 これが妥協ってことなのだろうか。なんか複雑な気分だ。


 とはいえど、これは俺だけではなくノヴァやハンザも同じなのかも知れない。

 それじゃ仕方がないか。こいつらにだけ妥協を強いておいて俺だけがしないってわけにはいかないしな。

 まあ、そうはいっても持論を曲げる気は無いのだが。

 だから俺は不用意に他人を疑うような真似はしない。そんなことをすれば他人とは良好な関係を築けないからな。

 こいつらはきっとそこのところを解ってないのだろう。他人(ひと)は自身を映す鏡という言葉を知らないのだろうな。


「さて、それじゃ例の交換留学生の情報についての話だったよな」


 あ、そう言えば…。

 なぜかマイダスが話を切り出しているけど、そこはまあおいておくとして、本来俺が訊ねたことだったはずなのに…。

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