一筋の希望に縋って
「っはぁっ!」
全て、思い出した。そうか、俺はあの後10年も眠っていたのか。
その後、俺は泣きに泣いた。仲間たちの亡骸の前で、声を出さずにただ涙を流し続けた。そのまま俺は数日の間、思い出に縋るように城から動かなかった。
そしてようやく整理がついてきた頃、記憶の中に一筋の希望を思い浮かべた。
--魔王城には、なんでも願いの叶う秘宝がある。
それはケントが言っていたことだが、もしそれが本当ならば。ここを、祖国をもとに戻せるかもしれない。俺は再び使命を感じ、がむしゃらに移動し始めた。
道中で何度か乗合馬車に乗せてもらい(速達便)、寝る間も惜しんで進み続け、一月もしないうちに魔王城へ辿り着いた。
「ああ・・・まさかここに再び来ることになるとは」
俺は魔王と闘った間へ進む。すると、そこには
「む?来客か?」
魔王が、いた。
「な、魔王、どうして生きて」
「!その顔、もしやカイトか!?貴様、生きていたのか!いや
待て、貴様からすれば儂がなぜ生きているのかという疑問になるのか」
魔王はかつての禍々しいオーラは無く、玉座でまったりしていた。
「そうだな、貴様に説明しておくべきだろう。貴様らと対峙した10年前、儂は本気の中の本気だった。貴様も記憶にあるだらう?今の儂の何倍もの大きさがある儂の姿を。それが本気だ。まあ、端的に言えば貴様らが倒したと思っていただろうが儂からすると力を半分くらい失った程度だ。ああ待て、貴様と闘おうなどという考えはないぞ?現に儂は侵略していない。そもそも貴様らと闘った時に儂の戦闘欲は全て消滅したようでな、今は内政にヒイコラ言っている状態だ」
よく分からないが、今の魔王は戦う気はないらしい。
「だが、お前の呪いのせいで俺の国は・・・」
「なに?呪いだと?・・・はて、記憶にないが。なんだ?・・・・・・・・・なにぃ!?バーサーク状態になっていた儂が彼の国に呪いを撒いただと!?馬鹿者!なぜもっと早く言わん!・・・なに?当時の儂のことだからと言わなかった?ぐぬぅ・・・」
魔王は側近から何か聞かされていた。その間に魔王の顔色は何色にも変わり、魔王の感情が何度も変わっていることを示していた。
「ぐぅぅ・・・すまん!カイト!儂の知らぬ間に大変なことを・・・!命を持って償わせてもらう!」
「待て待て待て!お前の意思でやったことじゃないんだろ!?それに、お前に聞きたいことがあるんだよ!」
「な、なんだ?」
「魔王、お前、願いの叶う秘宝を持っているんじゃないのか?」
「あ、あぁ。持っている。だがあれはまだ未完成で」
「くれ」
「な、ま、まさか貴様、それを使って国を復活させる気ではないだろうな?」
「そうだ。俺は秘宝を使って祖国を、あいつらを復活させる!」
「駄目だ、今の秘宝では駄目だ!あれば未完成だ、願いを叶えてはくれるが、使用者の天命を消費する。ましてや国そのものという大きな対象では、貴様の命が持たないぞ!」
「悪いな、魔王。もう心に決めてるんだ。最初から分かってたさ、そんなうまい話がある訳ないって。だがそれでも俺はやるよ」
「そうか・・・。では持っていけ。だが忠告しておく、貴様が死を賭して復活させた人は、それを喜べるかどうかは分からないぞ?」
「いいんだ、俺だけ生き残ってしまった。だったら俺がどうにかしてやるしかないだろう?」
「決意は、固いようだな。・・・忠告はした。後は貴様の好きなようにするといい」
俺は秘宝を手に入れ、急ぎリランカ王国へと戻った。