その日、起きたこと
「駄目、私の魔法でも止められない!」
そう言って絶望の表情を浮かべるモニカ。
俺達は魔王を倒して祖国へ凱旋し、国に平和が訪れた。はずだった。
その日から突然、謎の死を遂げる国民が多発。何の前触れもなく死んでいく人々。
原因は既にケントが解析している。その原因は、どうやら魔王の呪いらしい。俺たちは魔王を討伐したが、魔王は死ぬ寸前に俺たちの国に呪いを振り撒いたようだ。それは"死"を与える呪いで、『恩恵』を持つ者に作用するということ。
どうやら魔王城になんでも願いを叶える秘宝があるとのことだが、今からでは遅すぎる。
『恩恵』とは、人が生まれながらにして世界から与えられるもので、例えば俺なら「勇」。エリは「治」、モニカは「聖」。ガスターには「力」、ケントは「知」など。俺が勇者なのは俺の恩恵が勇だったからだ。しかし俺は、今の俺には恩恵がない。何故だか知ることはできないし、ケントの知恵を持ってしても判明しなかったが、魔王を倒し凱旋した後、俺の恩恵は失われてしまった。
「もう、こうなったらカイト君だけでも逃げて!」
モニカは言う。
「んなこと出来る訳ないだろ!?」
「くそったれ、なんで俺は力しかない!?俺の力じゃこれを止められる訳ないだろ!?」
「あたしの恩恵でも救えないなんて・・・。カイト、覚悟を決めて。じゃないとあたし達、あんたの目の前で死ぬことになっちゃう」
「僕としてはそれは御免被りたい。僕の不様な死に様を心の許せる友の前で見せる訳には行かないのでね」
「お前ら・・・くそっ、なんで俺だけ恩恵が消えた!?何で俺だけが生き残ることになるんだ!」
「そんなの簡単だよ」
「え、エリ?」
「世界がカイトを望んでるのよ。カイトだけは生き残らないと駄目なの」
「な、何言って・・・」
その瞬間、俺の意識が朦朧とし始める。
「ごめんなさい、カイト君。あなたは何を言っても聞かないだろうから。こうするしかないのよ」
「な、んで・・・。待て、おまえら・・・」
そこで俺の意識は途絶えた。
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「やっと、眠ったわね、けほっ」
「ええ。もっと早くからやっておくべきでした。あとは、カイト君に天命維持の魔法を使って・・・。こうすれば、カイト君は眠ったままでも生き永らえることができる」
「モニカさん、しかしそれでは貴女の命が!」
「いいの、どうせみんな死ぬんですから。最後くらい、格好つけさせて下さいな」
「はっ、違えねぇ。俺は身体が丈夫だと思っていたが、そろそろガタがきてやがる」
「あとはカイト君を街の前に転移させて、待機している別の国の仲間に運んでもらうだけ」
彼らの目の前から昏睡したカイトが消える。
「あはは、いなくなっちゃった・・・。もう、限界、かも。眠くなってきちゃった」
「奇遇ですね、私もです」
「俺もだ。陛下は先に逝っちまってるぜ」
「僕たちは生命力の高い方ですからね。ですが、僕も限界のようです」
「みんな、最後は手、つなご?向こうでも会えるように」
「迷信に過ぎませんが、最期です、やりましょう」
「おう。それじゃ、今生の別れだな」
「はい。また、来世で」
そう言って彼らは息を引き取った。彼らは穏やかな表情で、眠っていた。