元勇者の帰郷
スクルドで休息をとり、いよいよ目的地へ向かう。ここからどれだけ進めば良いのか分からないが、進むしかない。
次第に脳裏に記憶が戻ってくる。
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『カイト、あんた夢とかあるの?』
『夢?そうだな、田舎にちょいと大きめな屋敷買って畑とか作って暮らすとかだな』
『欲がねぇな、カイトは』
『ははっ、争いの種は蒔きたくないんでね。俺が蒔くのは野菜の種だけでいいっての』
『上手いこと言ったつもりか?このぉ』
『そういう■■■は?』
『あたし?あたしは・・・。・・・・・・とけ、結婚すること、かな』
『?誰だって?』
『う、うっさい!』
『えぇ・・・』
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懐かしい気もするが、名前が出てこない。顔は少し分かるが、未だに名前が分からない。
色々と懐かしい記憶が蘇りながら進むと、ついに街が見えてくる。しかしそれは廃墟になっており、俺の記憶にある荘厳で絢爛な街の様子は全く残っていなかった。
「何でだ?こんなボロボロになって・・・」
俺はとにかく入らねばと崩れた門をくぐる。
「この酒場、懐かしいな」
大通りに面した酒場を見つけた。ここはあの頃俺達が通っていたところだ。
「っ、マスター!?」
カウンターの向こうに見慣れた帽子と服が見え、慌てて駆け寄る。
--マスターは、白骨化していた。
「何が起こっている?」
例え10年の時が経っていたとしても、この街--リランカ王国が崩壊することはないはずだ。ましてや人々がまるでその一瞬でその天命を失うなど、ありえない。
いや待て、逆ならばどうだ?人々が一瞬にして天命を失った、それもこの国全ての人々が逃げる間もなく、生活の風景を残したまま天命を失ったとすれば、10年程度で国そのものが崩壊するのではないか?確かに、この国はスクルドの隣とは言え、複雑に入り組んだ森林と急流の河川がその間を阻んでいる。
それでも人が誰もやって来ないことはあるだろうか?例えば盗賊であったり、浮浪者であったり。
--そしてその問いは、国の中心にある王城で判明することになる。
「懐かしいな。と言っても俺の記憶では魔王討伐の後報告しに来たところで途切れているけれど」
城内を、記憶を頼りに進む。目的地は、謁見の間、国王陛下が王家以外の民と顔を合わせる場。
「この階段を上がれば・・・・・・・・・」
階段を上がり見えてきた空間に呆然とする。そこには王座に座ったままの国王・王妃両陛下、その間に倒れる王子殿下。彼らを護衛するかのように周囲に倒れている文官や官吏達。
--そして、今ようやく思い出した、忘れてはならない仲間たち。
彼らは皆骨と化してはいたが、身につけていた衣類は残っていて。特に仲間たちは、俺が最後に記憶している彼らの衣類と同じものを身につけていたので、見間違えるはずも無かった。
「ああ・・・み、みんな・・・」
俺の足は勝手に走り出し、彼らのもとへ。
「エリ、モニカ・・・お前ら、どうして・・・。ガスター、お前、身体は誰よりも強かっただろうが。ケント、お前の知恵なら、こうなる結末は変えられたんじゃないのか?」
その瞬間、俺の頭に鋭い痛みが!
「ぐぁっ、ガァァッ!」
頭痛の中で浮かぶは、失われていた記憶。あの日の記憶--。