元勇者の目覚め
目が覚めると、そこは知らない天井だった。
俺はカイト、勇者だった男だ。どうして"だった"なのかというと、俺は名前すら思い出せない仲間と共に魔王を討伐したからだ。
困ったのは俺がどこで生まれ、どこで育ち誰に魔王討伐を依頼されたのか分からないことだ。おまけに討伐した後どこに帰ってどこでどう過ごしたのかという記憶もない。あるのは場所も名前も分からない国へ帰らなければならないという使命感。
そもそもここはどこなんだ?見た感じ小屋のようだが。
断片的な記憶を辿っていくと、帰るべき地はスクルドの国から森を抜けた場所にあるようだ。その先は靄がかかって何も見えなくなる。
(とりあえずはスクルドを見つけないとな・・・)
といってもスクルドがどこにあるか分からない。まずは小屋を出てここがどこなのかを知らないことにはどうしようもないだろう。
そう思い起き上がって小屋の扉を開ける。
「うぉっ、さむっ」
外は冬だったらしく、外へ出た途端冷たい風が吹き付ける。外は雪が降っていた。
(凍え死ぬ前に暖かい上着を手に入れないとな)
小屋の中には金貨の詰まった革袋が入っており、数ヶ月は生活できる程度。果たして俺が持ち出したのか、それとも誰かが俺に持たせたのか。後者であれば、それは帰るべき地の人なのか。全てが謎に包まれている。
街道の近くに出ることができたので、街道に沿って歩いてみる。そうすればその内どこかの街へ辿り着くことができるだろう。
そう思い歩いていると街へ着いた。入国時に冒険者ライセンスなどの提示を求められるかもしれない。少なくとも俺の記憶にある頃はそうだった。
「いらっしゃい、ここはカンダルだよ」
そう言って道を開ける門番。
「ライセンスの提示はいいのか?」
「ん?ああ、それは10年くらい前の話だな。君、もしかして最近外に出てなかったのかい?」
何だって?10年前だって?もしそれが本当だとするならば、俺は10年以上眠っていたというのか?ならばなぜ生きているんだ?
という疑問を脳裏に浮かべ、冒険者ギルドを探す。地名を聞くならばそこが最適だろうと考えたからだ。
冒険者ギルドを見つけ、中へ入る。冬の昼過ぎということもあってか、ギルドの中は閑散としていた。
俺は受付に行き、受付嬢に事情を話す。
「いらっしゃいませ、いかがなされましたか?」
「すいません、スクルドっていうところへ行きたいんですが、場所を知りたくて」
「スクルドですね?少々お待ち下さい」
受付嬢は奥へ向かう。恐らく地図か何かを探しているのだろう、しばらくして戻ってきた彼女の手には地図が握られていた。
「お待たせしました、こちらがスクルド周辺の地図になります。ここカンダルを出ましたら街道を西に向かって、モントルで北に針路を変え、真っ直ぐ進むとスクルドです。良い旅を!」
「ありがとうございます、それでは」
教えてもらった通りに進む。1日に歩ける距離はたかが知れているので何日もかけて進む。道中で行く手を阻む魔物や野生動物を適度に狩りながら、集落でそれらを売り路銀を稼ぎながら。
そしてひたすら歩くこと数ヶ月。
「ここがスクルド・・・、この景色、見覚えがある」
ここで少し休んで、帰るべき地へと足を進めることにしよう。






