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色欲で金満なアルケミスト  作者: あやたか。
3/5

二話 二重化



「本日のニュースをお知らせします。本日日本時間で午前1時38分頃、茨城県沖で震度3の地震がありました。この地震による津波の心配はありません。繰り返します。・・・」


 梓は昼飯を食べながら、最近頻繁に起こる地震のニュースを聞いていた。

 日本国民だったら、気にならないくらいだが、これが他に国で起こった場合、天変地異扱いされるぐらいだろう。


 「今回はダンジョン災害に詳しく、地震専門家でもある東京大学の山岸教授に来ていただきました。山岸教授お願いします。」


 「これね。ダンジョン災害と最近頻繁に起きてる地震に関係性があるかどうかが論点なのね。」

 「そ...そうなんですね。」


 「ダンジョン災害が起こる原因としてまあ、お偉いさんが色んな説を提唱してるらしいけど、僕が考えるに世界中の地脈が関係していると考えてるね。科学的根拠はないけど、もうダンジョンがファンタジーみたいなもんだからね。地脈が地層に影響を与えて地震を起こしているんじゃないかと思ってるよ。」


 「ということは、ダンジョンと地震に関連性があると?」

 「ダンジョンができて12年、今の人類の科学技術じゃまだ図り切れない代物なのよ。断言はできんけど、ダンジョンがこの地震に影響を与えてるとなるとマズイことになるね。」


 「と言いますと?」

 「今のところ、ダンジョン災害がひとまずは落ち着いている。しかしこれが第二のダンジョン災害の前触れだとしたらね。まあ怖いよね。しかぁし...」


 梓は昼飯を食べ終わり、ため息を吐きながら胡散臭い教授のお話を切った。

 午後から安田さんとダンジョンに潜る約束をしていたのだ。


 安田さんたちを待たせる訳にはいかないのだ。

 梓は素早く装備を着なおし、ダンジョンに向かった。


 ~~~~~~~


 旧東京理学研究所・・・星3


 今日行くことになったダンジョンは東京の大手研究所の成れ果てだ。

 スライムやゴーストなどの流体モンスターや霊体モンスターが主に出現するらしい。

 

 しかし、低レベルゆえ、簡単な魔法やアイテムで倒せるため、脱初心者した冒険者が主に活動拠点としているいわゆる中堅ダンジョンとされている。


 「そういえば今回の探索での方針ってどうなっているんですか」

 「今回のモンスターは物理攻撃が効きずらいため、赤城さんの「火魔法」メインで進んでいく。探索後半となるとMP切れが予想されるからな。俺らがその間に前衛を交代する感じで行きたいと思っている。異論はあるか?」


 全員が首を横に振り、安田さんの方針に賛成し、一同はダンジョンに向けて出発した。

 何体かモンスターを倒し、今回の探索に慣れ始め、一行に余裕が生まれてきたところに悲劇は起こった。


 突如ダンジョンがおびただしい音を上げ、振動を始めたのだった。

 モンスターの咆哮なんて比じゃないぐらいのダンジョンの雄叫びがその場に鳴り響いた。


 空間を割くようにダンジョンの地面、天井、壁に亀裂が凄まじい速度で走り始める。


 冒険者でも立っているので精一杯なほどの振動が梓含む一同を襲う。

 声を出す暇もないほどの速度で梓達は虚しく落下していった。


 ~~~~~~~


 事件が起こったのは、梓達がダンジョンに入って一時間後、世界中で突如訪れた。

 今後の教科書にも載るほどの大災厄、大災害、第二次ダンジョン災害が発生したのだ。


 そんな世界中が大混乱の中、ギルドに一通も報告が上がった。

 それはダンジョンがダンジョン化したというあまりにも不可解な報告だった。

 

 「ギルド長!報告によると東京都日本橋、旧東京理学研究所ダンジョンでダンジョン化が発生したようです。その他、日本中でダンジョン化が起こっていると報告も上がって来ています。」


 「人命救助が最優先だ。発生したダンジョン付近の隔離、閉鎖を各ダンジョンに通達しろ。」

 「了解です。各方面に伝達しておきます。」


 その後、各ギルドは冒険者の安全確保のため、一時的にダンジョンに入場するのを禁止し、新たに発生した世界中のダンジョンの警戒、及び周囲への立ち入り禁止を行った。


 「しっかし、東京理学研究所はもうダンジョン化を果たしているはずだ。どういうことだ?」


 「文字道理ダンジョンがダンジョン化したとの報告です。日本中、いや、世界規模でダンジョン化が発生したとの報告です。」


 「………」

 「これどうします?ギルド長」

 「ギルド庁に判断を仰ぐ。もう私の独断では決められない程の災害だ………」


 ~~~~~~~


 梓達が落下し、意識を取り戻し始めた頃


 梓は自分の無事を確認し、周囲の安全を確認しようと自分達が落ちてきたダンジョンの穴を見上げたが、そこにはもう何事もなかったようにダンジョンの床が再構築されていたのだ。


 「みんな無事か?」


 安田さんが全員の無事を確認するため、声を上げた。

 

 「みんな大丈夫そうです」

 「よし、装備の点検を始めろ」

 「「「はい」」」


 安田さんの指令によってメンバーは装備の確認を始めた。

 梓は荷物持ちゆえほかのメンバーより荷物が多いため、急ぎで装備を点検し始めた。


 先ほどの落下の衝撃によってポーション類は全部割れてしまっているようだ。

 ダンジョン内では回復スキル持ちがいないパーティーでは主にポーションで治療するのが通例だ。


 ポーションはスライムのドロップ品でダンジョンが出てきた当初は、100万ほどで取引されるほどのものだった。


 しかし、スライムは別に強くなく、ドロップ率も悪くないことから、冒険者がダンジョンに行く際、お守りと思えるほどの値段に今は落ち着いている。


 今回の探索にも万が一にと思って持ってきたポーションだったが、全部無駄になってしまった。

 そんな安くない代物なんだぞ!と思いながらも、割れてしまったものはしょうがないと諦めるしかなかった。


 みなが装備に夢中になっている時、中島さんの「索敵」スキルが警鐘を鳴らした。


 「みんな何か来る!」

 「「「!!!」」」


 周囲に冷気が漂い始め、身の毛のよだつような感覚に支配された。

 心がここから一刻でも早く逃げ出したいと叫びだしたが、尋常じゃない体の震えが行動を阻止してくる。


 悍ましい何かが、歪な鎖をゆっくりと引きずる音を立て近づいてくる。


 死を具現化したとでも言おうか、くたびれた黒いローブを羽織り、フードの下から見える白骨がカタカタと音を立て、死臭を含んだ妖気を漂わせている。


 そんな異様な空気感に耐えきれなくなった梓達は竦む足に自ら自傷し、無理やり意識を覚醒させ、震える体の呪縛から、自身を解き放たった。


 しかし、そんなメンバーの決死の覚悟もイレギュラーには無意味、実に無駄なあがきにしかならなかった。


 ひとたび瞬きする頃にはもう仲間の一人の首が奴の懐の中に存在したのだ。

 圧倒的な力の前には逃げ場など存在しない。


 「ひぃぃ………」


 視線をあわせただけで胃の中のものがむせ返って来るような威圧感が圧倒的なレベルの差を体に教え込んでくる。

 言葉を発した奴から殺されると圧迫された空気感が身を持って教えてくれる。


 すぐ殺してはつまらないと思ったのか、今度は一人ずつ、足を、腹を、腕を、そして首を、少しでも相手が苦しんで死ねるように試行錯誤しながら、一人また一人と中世ヨーロッパで行われた拷問を彷彿させるような光景が梓の前で無惨にも行われたのだった。


 そして梓にも自分の番がきたのだ。パーティーメンバーが皆殺しにされ、次は自分の番だと、もう自分しか残ってないのだと、奴の視線が梓の死を物語っていた。


 自らのなけなしの全ステータスを駆使し、悲鳴と嗚咽が混ざり合い、口の中から声にならないような叫びを出しながら梓はその場からの逃亡を試みた。


 だが、圧倒的レベルの差には何をしても無意味でしかない。


 自分が逃げ惑う姿が奴の好奇心をくすぐってしまったのだろうか、骸骨がカタカタと嬉しがるような音を立てその場に立ちすくしていた。


 歓喜しているととれるその行動に目を向けている時間は梓には一秒たりとも存在しなかった。

 一生分の運を使い果たしてもいいと無いに等しい希望にすがりながら、この場から一心不乱に逃げ始めたのだった。


 その瞬間、横腹に軽々しくふっ飛ばされるぐらいの衝撃と尋常じゃないほどの痛みが梓の体を駆け巡った。


「...……」


 ふっ飛ばされた梓はダンジョンの壁にぶつかり、内臓が押し潰される感覚を受け、血反吐を吐くことぐらいしかできなかった。


 ステータスに差がありすぎたのだ。梓の唯一誇れる防御力も無に等しいように奴の禍々しい鎌は梓の横腹を無慈悲にも切り裂いていったのだ。


どう考えても自身の傷を見るに致命傷であることには間違いない。内臓もいくつか潰れてしまっている。このまま行けば出血死間違いないだろう。


 自分のスキルが「忍耐力」じゃなかったら、今意識を繋ぎ止めることさえままならなかっただろう。


 「グゥッ………」


 意識が薄くなってきた。視界も白黒に反転し始め、世界から色が消え失せる。息もたえたえとなり、虫の息に違いなかった。


 後ろに倒れた梓は奴から少しでも離れるため、腹から滴る血を手で押さえ、梓は決死の覚悟で体を地面に引きずりながら、少しでもほんの少しでも逃げられるように匍匐前進し、奴から離れられるように逃げる。


 まだ諦めず、逃げ惑う獲物に奴は踊り喜ぶように身を奮い立たせて、歓喜した。

 名残おしそうに、それでいて楽しむように奴は鎌を振りかざした。


 「………せめて顔のいい女と...…」


  叶わぬ願望と未練を言い放ちながら、自分の悪運もやっと尽きたかと思ったその瞬間、幸運なのか、不幸なのか魔法陣の罠を踏み抜いた。

 見るも無残な自身の体が光を浴び始め、全身が光の泡となって消えだしたのだ。


 次の瞬間、鎌が梓の首に届くことはなかった。

 もうそこには梓の姿はなかったのだから。



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