一話 チュートリアル
〜そして今にいたる〜
旧池袋駅ダンジョン・・・星2
今回行くことになったダンジョンは旧池袋駅だ。建物が全体的に広く戦いやすく、モンスターのレベルも低いことから低ランク冒険者から好まれる稼ぎ場となっていた。
12年前、ここは数多くの人が通う駅だった。通勤ラッシュの最中ダンジョン災害が起こり、数多くの人々をダンジョンは飲み込んだらしい。
今は建物全体が自然に蝕まれ、廃都市を彷彿させる外見となっている。
「安田さん!今回は俺を雇ってくれてありがとうございます。」
「いーよいーよ。そんなかしこまんないで。冒険者同士助け合わないとね。」
安田さんのパーティは最近東京に移籍してきたパーティだ。
リーダーの安田さんはスキル「強靭」を持っており、一般の冒険者より身体能力が高いらしい。
そのため、普通の人は持つこともできなさそうなバトルアックスを装備している。
他のメンバーは「索敵」を持つ中島さん、「火魔法」を持つ赤城さんと言った感じで中々バランスの取れたパーティとなっていた。
地方の冒険者ギルドで活動してきたみたいだが、最近になって都市の方のダンジョンにも挑戦してみたくなったらしい。
そんなこんなで東京のギルドで腫れ物扱いされている俺でもパーティに参加させてくれた恩人のような存在だ。
こんな機会滅多にないだろう。
安田さんさえ良ければ今後もパーティに参加させていただきたいぐらいだ。
そう考えをめぐらせながら梓は安田に話しかけた。
「今回行くダンジョンのメインモンスターはゴブリンやコボルトですよね。」
「おおよそそんなところでしょう。ですが、地下鉄方面となると話が変わってきますがね。」
そんな話をしながらダンジョンの入り口であるディメンションゲート、略してゲートに冒険者ライセンスをかざして通過する。
ダンジョンにゲート以外で帰還する方法はない。あるとしてもレアスキルである「転移」で帰還するしか、今の所無いとされている。
「しっかしなんでこんなに広いのに弱いモンスターしか湧かないんすかね。」
「専門家が言うには、広い分モンスターの湧く量が多くなってるから、一体一体の強さは抑えめなんじゃないかという説が定説されてるみたいだよ。あくまで説だがね。」
梓はほ〜んと納得のいった顔を浮かべ、ゲートの中に入って行った。
「さあ、ここからは戦場だから気を引き締めて行くよ」
「「「はい!」」」
安田さんの呼びかけによってパーティの士気を高め、一同はダンジョンの探索に赴いた。
ここでダンジョンについての補足を入れよう。ダンジョン災害に巻き込まれた建物はそのまま建物ごとダンジョン化してしまう。
ダンジョン化した建物からは、モンスターが湧くようになる。そのモンスターを倒し、魔石を手に入れることによって、冒険者は生計を立てている。
世の中には公務員の冒険者だったり、ダンジョンで手に入れた名声や社会的地位を利用し、テレビ出演して生計を立てているものもいるらしい。
俺は興味ないしそんなものになれる気がしないので、ここでは割愛するが。
しかし、冒険者はこれだけで生計を立てているわけではない。
こんなモンスターを倒すだけの作業みたいなのは、バーサーカーだけがしてればいいと俺は思ってる。
じゃあ何故人類は危ないダンジョンに踏み入れるのか?それは、ダンジョンの奥には人類には解析・再現不可能な遺物や秘宝、スクロールと言った価値をつけることさえ難しい財宝が眠っているからだ。
実際にダンジョンの奥地で遺物を見つけ、一生遊んで暮らせるほどの金を手に入れたやつもいる。
ダンジョンはそんな夢と希望が詰まったところだ。だから皆ダンジョンに潜る。
これが冒険者の実態だ。とか言う俺もその中の一人になるためにここまで来たわけだが。
そんな事を考えてた矢先、パーティの先頭を歩いてる安田さんがふと足を止めた。
「モンスターが2体・・・来るぞみんな!」
「「「!!!」」」
「索敵」を常時展開していた中島さんが皆に伝えた瞬間、皆戦闘体制に移った。
「索敵」・・・自身を中心に半径10メートル以内にいる生物の位置をマークできる。
ダンジョンではふとした気の緩みが自らの死につながる。
モンスターはダンジョンに入ってきた冒険者を自分たちのナワバリに入ってきた敵と思っているらしく、積極的に冒険者に対して、攻撃を行ってくる。
そのため、気の緩みがパーティを危険に晒すわけだ。
ダンジョンでは毎年一万人が亡くなっている。
よく多いのが高校生を卒業し、ダンジョンに夢見る青年達だ。高校でパーティを作り、その流れでダンジョンに行き、二度と帰ってこないなんて話はざらだ。
現れたのはランク2のモンスターのゴブリンだった。
緑色の皮膚で80センチ程の子供のような見た目をしているモンスターであり、ダンジョン内ではスライムの次に弱いとされているが、大抵、複数で行動するため、初心者がよく手こずる相手である。
こんな子供を相手にするようなモンスターだが、腐ってもモンスター。
性格は極度のクズであり、毒が塗ってある短剣で冒険者を襲ってくる。
「安田さん!!」
「あいよっと」
グチャグチャとグロテスクな音を上げ、安田さんのバトルアックスは血飛沫と断末魔を上げながら散るゴブリンを切り裂いた。
カランコロンと音を立ててその場に残ったのはランク2の魔石だった。
ランク2の魔石は1個500円ほどの価値があり、一般の冒険者は一日に30個ほど集められるため、日給1万5千円ほど。
ただし俺の場合、効率が悪すぎて15体ほどしか倒せないがな。
あれ?これって日雇いのバイトと同じぐらいの給料じゃねなどとこの五年間何度も思ったことか。
ダンジョンにはまだ遺物や秘宝といった夢があるからと納得させるようなことを自身に言い聞かせ、梓はため息を吐いてしまった。
パーティを組むとなると分ける分取り分が少なくなるが、安全かつ、大量にモンスターを倒せるため、大多数の人がパーティーを組むらしい。
俺は冒険者になって五年間で片手で数えられるほどしかパーティーを組んだことがない。
自身が今回パーティーに参加できたことを安堵しながら、梓は黒い霧となって霧散したゴブリンの中にあった魔石をバックパックに入れた。
これが荷物持ちの自分の仕事である。
自分にモンスターをすぐに倒せるような力がないのはもうわかりきっている、その分ニーズに合った方法で冒険をお手伝いする。
例えば荷物持ちだったり、ギルドの受付嬢などが当てはまるだろう。
「しっかし、荷物持ちばっかりしてたら経験値がたまらないよなぁ」
と梓は名残惜しそうに小声で言った。
モンスターを倒した際の経験値はパーティーに分配されるようになっており、モンスターを倒すのにどれだけ貢献したかによって、経験値が分配されるようになっている。
そのため、荷物持ちの梓には何一つ経験値が入ってこない。
パワーレベリングを行うような金も人望もないため、経験値は自身でコツコツ貯めていくしか無いのだ。
特にこれといった問題が起きることもなく、今日の探索は終わりを告げた。
魔石達をギルドの受付嬢に渡し、集計してもらい、換金するまでが荷物持ちである俺の仕事だ。
10分ほど待ち、集計が終わった様子の受付嬢に声をかけられた。
「今回の探索結果は、ランク2の魔石が94個、ランク1の遺物が4つとなりますので、8万7千円となります。」
「すいません。量が多くて。ありがとうございます。」
「いえいえ、これが仕事ですから。またの探検をお待ちしております」
と恋愛経験ゼロの梓は受付嬢と少しだけでも話せたことに歓喜し、パーティの元に戻り、報酬を四等分し、その場で今日は解散となった。