表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕と「私」  作者: やみほたる
1/2

疲れ果てた「私」の慟哭

読み切りタイプの短め私小説を集めた作品です。不定期更新の予定です。

 何を考えているのか分からない。

 僕をみて、人は口々にこう言います。残念ながら僕はその問いに答えてあげることはできません。僕でも分からないからです。僕から離れていく人は何故か最期にかける同情でしょうか、縁を残しておこうと提案をくださいます。僕には何故それをするのかが理解できませんでした。情けは要りませんと伝えると決まって相手は唖然とするのです。僕が要らないから離れてゆくのではないのだとでもおっしゃるのでしょうか。僕にはどうやら表情が無いと人は言います。一生懸命笑っているはずですが、どうしてでしょう。口角を上げ、眉を下げ、肩を揺らし、口元に手を当て、声を上げ、時には下を向いてみせているというのに。話せば、壁があるように感じると怪訝な顔で人はおっしゃいます。僕がその先へ踏み込んだら怒るでしょうに。こんなことまで深掘りするなんて、と。何故独りでもいいと悲しいことを言うのだ、もっと頼ってくれ、なんて言葉が僕の頭上を飛び交います。実際僕が何某か頼み事を致しますと決まって迷惑だと眉を顰めて虫ケラのように追い払うのに。自分の意見を主張なさい、他人には分からぬのです、と僕の肩を乱暴に掴み、喚く方がいます。以前正直に申しましたらそれは君に似合わぬ意見だ、想定と違う、こちらが正しい受け答えだと冷笑をいただきましたが。


 ………人はかくも身勝手で、本当の「私」を拾ってはくれない。期待して、好かれようと縋っても、心の臓に深く刺さるような一撃をもってして「私」の息の根を止めにくる。


 ニンゲンが恐ろしいと思うのに、ニンゲンに愛されることに執着しなくなるのに、時間はかかりませんでした。


 それでもどこかで期待して、ほんの少しばかり開いた扉の隙間から覗いていますと、臆病な僕に漬け込もうと、この脆い部分を壊してしまえば簡単だと気づくニンゲンが必ずいるものです。完璧なまでの鎧から身体を半分ばかし引き摺り出されて、信じかけた柔いところに刃を突き刺され、血を流して頽れる様を嘲笑し、まるで救世主に見せかけるかのように甘い罠でもって手を差し伸べる、なんて輩が数多いらっしゃるものですから、僕の、「私」の心は疲弊していくばかりでございます。


 光芒の先の世界に想いを巡らすのに時間はかかりませんでした。


 誰ぞが困っている、と言われますと、僕は一握りの善意と、全てを覆い隠すような醜い慾に突き動かされて、助けに馳せ参じることが多々あります。一時の苦痛から逃れられた悦びのお溢れ、形骸化して意味のない「ありがとう」とともに向けられる笑顔が、まるで僕を、「私」を、必要としてもらえたように、一瞬だけでもこの世界に居ても良いと告げられたように感ぜられて。それが欲しいがために浅ましくも動くのです。


 後々冷たく罵倒されるとしても一時の赦しにすら飢えた「私」が出来上がるのに時間はかかりませんでした。


 僕は「私」を戒めるために、過去を見せます。そうして扉の外の世界へ逃げようとするのを引き留めます。お前を愛してくれる人などいない。お前を好いてくれる人などいない。お前には愛される資格がない。お前を認めてくれる人などいない。お前を裏切らない人などいない。お前が生きていることを赦してくれる人などいない。信じられるニンゲンなどこの世にはいないのだ。と言葉で作った特殊な枷と麻縄でもって、縛り上げ吊るし、鍵を締め、閉じ込めるのです。血塗れになって尚暴れる「私」を現実という名の棍棒で叩きのめして寝かしつけるのです。


 だから「私」が涙を枯らすのに時間はかかりませんでした。「私」の代わりに僕ができあがるのに時間など要りませんでした。


 そうしてその僕も、傷だらけで瀕死の状態に陥るまであと少しといったところでしょうか。

最近気温差が激しいために風邪を引きました。気候的気温差と人間関係的気温差のダブルパンチにより、ほたるはボロボロでございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ