118.生贄姫は平穏な毎日を所望する。
再び結婚してリーリエがアルカナ王国で暮らし始めてからの日々はあっと言う間に過ぎていき、本日2人は2回目の結婚式を迎えた。
1度目は再婚してすぐに、対外的に示すためにアルカナで。
そして本日は、ずっと前に約束したリーリエの希望を叶えるためだけの、ごくごく小規模な親しい身内と友人だけで行うガーデンパーティーをアシュレイ公爵領で行うのだ。
そして今現在、リーリエは純白のドレスに身を包み、テオドールを前にして萌え転がって愛でていた。
「はぁぁー。もう、私の最愛の推しのカッコいいが過ぎるんですけど、なんでこの世界カメラないんですかね? 一眼レフで写真撮りたい。スマホあれば絶対待受にするのに。テオ様の花婿姿レア過ぎる。もうずっと見てられる」
「普通、新郎が新婦のドレス姿見に行かないか? リィはなんでそんなアクティブなんだよ」
リーリエの奇行と奇天烈発言にはもうすっかり慣れて一切動じないテオドールは、衣装や化粧崩れないように大人しくしてろよと呆れながらそう言う。
「ふふっ、私が一番に見たかったんです。推しは鑑賞して愛でるに限る! 希望聞いてくださってありがとうございます。数年越しで叶うとは思っていませんでした。こんな風にどちらの領地も行き来できるようになったのは、旦那さまたちのおかげですね」
「リィも随分頑張ったろ。いつもありがとう」
こんな風にいつも当たり前に認めてくれて言葉にしてくれることが、どれくらい尊いことかテオドールは気づいているだろうかとリーリエは微笑む。
最愛の人のその一言だけで、きっとこれから先も頑張れると思うのだ。
「はぁ、旦那さまが今日も尊い。私今回のガーデンパーティー中客席から旦那さまのお姿を眺めてていいですか!?」
前回は半分以上お仕事だったので真面目に王弟妃やりましたし、と割と本気でテオドールにリーリエは尋ねる。
「リィに客席行かれると、何の会か分からないから勘弁してくれ。というより、何で客席?」
そもそもなんでそんなに距離が遠いんだと入口付近から近づいて来ないリーリエを側に呼ぶ。
「いや、ちょっと離れてる方が全体見られて構図的にいいっていうか、神々しくて近づき難いっていうか、もはや今日の目的テオ様鑑賞会っていうか」
最愛の推しが眩しいと騒ぐリーリエのそばまで歩いてきたテオドールは、
「そんなに見たいなら、一番近くで見ていればいいだろうが」
呆れた口調でそう言ってリーリエを抱き抱え上げ、
「俺の妻は本当に人の話を聞かない」
と楽しそうにそう言って笑った。
「最近、調子悪かったろ? 準備も忙しかったし、疲れてないか? とりあえず始まるまで座ってろ」
抱き抱えたリーリエを軽々と運び、テオドールはソファーに座らせる。
「気づかれていたことに驚きですが、大丈夫ですよ。別に病気とかではないので。どちらかというと、旦那さまの方が今日のために無理されたのでは?」
結婚してからテオドールの仕事量の多さに苦言を呈し、アルテミス公爵領の領地運営を請け負いながら全力で働き方改革に取り組ませたリーリエは、それでも休みがまだ少ないテオドールにそう尋ねる。
「リィが来てから随分楽になったけどな」
「個人的な目標は旦那さまに週休2日、残業なしの一日8時間労働、有給を定期的に取らせることですけどね」
「それは、かなり難しいな」
「ワークライフバランス大事ですよ。目標は高く持たないと」
旦那さまの体調管理も妻のお仕事ですからとリーリエはドヤっと胸を張る。
「それはおいおいの課題として、俺はいつまで"旦那さま"呼びなんだ? あと敬語もそろそろやめて欲しい」
とやや不満そうにテオドールは口にする。 リーリエは基本的に外ではテオドールを旦那さまと呼ぶが、他の親しい人物は愛称の上に敬称も無しなのでいつも不満を訴えていた。
その少し拗ねた顔が可愛いくてついこのままできてしまったが、今後のためにもそろそろ潮時かなとリーリエは内心でつぶやく。
「……そうですね。敬語は、もう癖のようなものなのでおいおいの課題として、これを機に改めましょうか。まずは呼び方から」
大好きな青と金の瞳を見つめて、
「テオ、いつもわがままを聞いてくれてありがとう」
とリーリエは幸せそうにそう言った。
「リィのはわがままとは言えないが、俺にできる事ならなんでも聞いてやる」
リーリエにテオと呼ばれた事で機嫌良さそうに笑うテオドールはそう言って妻を甘やかす。たまには嗜めて叱ってくれないと困りますよとリーリエは苦笑して、
「ああ、でも叶うなら、テオにはこれからはもっと家にいて欲しいんですよね」
忙しいのは知っているので、無理ない範囲でいいのですけれど、と願う。
「やっぱり、どこか悪いのか? スキル暴走しそうとか?」
心配そうにリーリエを覗き込む青と金の瞳にリーリエは、
「テオはホントに過保護な上に心配症ですね」
そう言ってクスクスと声を立てて笑った。
「リィに何かあったら、俺が困る。あとお義父さんたちに会わせる顔がないだろうが」
と、妻だけでなく妻の実家も大事にするテオドールは旦那さまとして本当に文句がつけられないくらいできた人だよなぁとリーリエは思う。
「んー病気ではなくて、嬉しい事なのですけど、体調不良はきっとこれから続くので、おうちに帰ったら教えてあげます」
疑問符を掲げる最愛の夫から蜂蜜色の髪を撫でられながら、リーリエはイタズラっぽく笑う。
家族というものが分からないっと言っていたテオドールもリーリエと関係を育んだことやアシュレイ公爵家への出入りを通して、家族のイメージがついただろう。
この事を告げたらテオドールはどんな顔をするのかなと想像して、翡翠色の瞳はワクワクと楽しそうな色に染まっていた。
時間ですよと声をかけられて、テオドールはリーリエをエスコートする。
その手を取りながらリーリエは、テオドールを見つめ、
「ねぇ、テオ。あなたは今幸せですか?」
自分の破滅エンド回避のために筋書きを変えたこの世界で、一番幸せであって欲しい人に尋ねる。
「そうだな。朝起きて挨拶を交わしたり、一緒に食事をしたり、今日あった事を話したり、たまに喧嘩をしたり、仲直りをしたりを繰り返しながら、リィが色々やらかす様を特等席で見れる毎日は、何にも代え難い。そんな日常を幸せと呼ぶのなら、俺はきっと今幸せなんだろう」
テオドールの答えに満足そうに頷いたリーリエは、リィは? と問われゆっくり歩きながら言葉を紡ぐ。
「私も同じです。そしてこれから先もあなたと送るそんな平穏な毎日を所望します」
まぁ、人数増える予定だけどというのは言葉にせず内心にとどめておく。
ああ、そうだ、言ってなかったとテオドールは思い出したようにリーリエの耳元で、
「俺の妻はいつも可愛いくて綺麗だが、今日はいつも以上に美しいな。ドレス似合ってる」
そう囁いて、綺麗に笑う。
「……ファンサが過ぎる」
完全に油断していたリーリエは最愛の推しの急なデレに完全にやられ、耳まで赤くした状態で入場するハメになった。
☆
昔々あるところにカナン王国とアルカナ王国という大陸続きの2つの国があった。
その2つの国はある時期からそれはそれは友好的にお互い支え合って発展していった。
そんな歴史の発展に大きく貢献したアルカナ王国の賢王ルイス・ミカリエ・アルカナの名は末代まで響き、その彼を支えて国の剣となった王弟殿下の存在も併せて伝えられている。
珍しい容姿をしていた王弟殿下の逸話はいくつも残っているが、愛妻家として有名で彼の傍らにはいつも楽しそうに笑う翡翠色の瞳をした魔術師の妻の存在があったという。
その魔術師はその生涯をかけて夫から言われた"好きにしろ"を拡大解釈しまくり、いつも楽しそうに無双して、夫を振り回し続け、そんな彼女を見て彼は幸せそうに笑っていたと伝えられている。
これは、かつて生贄姫と死神と呼ばれた、そんな2人の平凡でありふれた幸せに満ちた生涯の物語である。
ーFinー
あとがき。
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
期日未定で番外編とかちょこっとアップしようかなーと計画してますので、良ければそちらもぜひご覧ください。
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