1.生贄姫は今日も旦那さまを愛でる。
2022.9.24 新規連載始めました!
異世界転生令嬢もの好きな方どうぞよろしくお願いします。
アルカナ王国首都ロゼリアの中心部からやや南東に位置する森の中に一際大きな古城が存在する。
その城の主人にして、この国の第3王子であるテオドール・アルテミス・アルカナの朝は、早い。
夜明け前には城の誰より早く起き、剣術、魔術の鍛錬を済ませ、魔物が巣食う森やその周辺に異常がないか見回りを行う。
結界が壊れていれば魔力を持って補修し、人に仇なす魔物が境界線を越えて現れれば、剣で以て討伐し、送り込まれた刺客を見つければ屋敷に踏み込む前に迎え撃つ。
それら全てを一人でこなすのが、彼の日課であった。
テオドールがいつもの日課をこなし、朝日が完全に昇りきった頃、突如空気がピリリと変わったのを感じとる。
ナニモノかが領域に侵入したのだ。
テオドールは意識を集中し、邪気の流れる方向へ走り出す。
『ァギァー』
耳を劈く咆哮と木々が薙ぎ倒される音に続き、激しく地面が揺れる。揺れる地面を危なげなく足を進め、目標を確認。
暴れているのは大型のベアだ。対象は1体。鋭い爪で大きく振りかぶり次々と木々を薙ぎ倒している。状況を把握したテオドールは容赦なく討伐対象に剣を振り翳す。
だが、その剣がベアに届く事はなかった。テオドールが剣をベアに突き立てるより早く、ベアは大きな音と共にその巨体を地面に横たわらせていた。
テオドールはため息をつきながら剣を納め、ベアに近づく。
ベアの脳天と心臓は何かで貫かれ、倒れた巨体の周りには血溜まりができており、確認するまでもなく、ベアは事切れていた。
大型ベアは的確に急所をつけば1人でも討伐可能な種ではある。だが、通常複数人で討伐する魔獣だ。
大型ベアを1人で討伐が行えるレベルは、テオドールのような騎士団所属で位持ちか一部の冒険者。つまりそれなりに腕の立つものでなければ難しい。
だが、このテオドールの所持する敷地内においては、テオドール以外では1人しかいない。
「………獲物を放置せず、出てきたらどうだ」
テオドールは大型ベアの後方に向かって話しかける。
「さすがでございます、旦那さま」
するとテオドールが声をかけた方から音も立てずに1人の女性が現れた。
柔らかい蜂蜜色の髪を後ろで1つにまとめ、凜とした姿勢で佇む彼女はいつもより軽装のドレスの裾を持ち上げ、淑女らしく完璧な微笑みと共にカーテシーを行い、テオドールにそう賛辞を述べる。
「……嫌味か? リーリエ」
テオドールが視線を逸らす事なくため息まじりにそう言うと、
「滅相もございません。本心ですわ!」
リーリエと呼ばれた彼女は元々大きな翡翠色の目をさらに大きくし、心外だとばかりに力強くそう言い切る。
「旦那さまは早朝より腕立て1000回、素振り1000回、基礎魔法詠唱省略の鍛錬に加え、ロードワークをこなされた後にこの距離を魔法の助力なしで駆け抜けたにもかかわらず、息一つ上がってませんし、私がベアを倒しきるまでに駆けつけられる速度といい、地面の揺れに動じることのない身体能力といい、的確に急所に向けて剣を振りかざす容赦ない判断力といい、どれをとっても称賛に値します!!」
「……見てきたかのように言い切るな」
リーリエがこの場で大型ベアと対峙するより前の出来事をあたかも見てきたかの如く語り、矢継ぎ早に讃えてくる彼女に若干引き気味になりながら言葉を返すテオドール。
そんな彼を見て、テオドールの気分を害してしまったのかと狼狽えるリーリエは、
「……申し訳ありません。魔道具の千里眼で少々旦那さまウォッチングをしておりました」
小さな声で俯いて謝罪をのべた。その姿はまるで叱られた子供のようで、とても大型ベアを1人で討伐した豪傑には見えない。
「構わん、好きにしろと言ったのは俺だ」
もともと華奢なリーリエがしゅんと小さくなってしまったことがなんとなく不憫に思え、テオドールは頭を撫でてやる。
やや乱暴な撫で方ではあったが、怒っていないことがわかったリーリエは顔をあげ、
「さすが旦那さま。懐が深うございます」
翡翠色の瞳に最愛の夫の姿を写した。そして言葉に出さず、心の中で叫ぶ。
今日もテオ様は本当にかっこいい、と。
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