八木
「おっしゃ行くで!」
「あのバカ⋯」
俺の腰を叩いたあと走る八木を視界の端で捉える。
なぜ人のために命を捨てれる。俺なら真っ先に逃げることを考えるし、追い詰められれば田中さんのように自殺だって普通だ。
マプ男やほかの調査員だってどう死んだかなんて分からない。
源さんや八木の方がおかしいんだ。
顔を突合せて言葉を交わせば見捨てられない。そんな甘い考えで生き残れるわけないだろ。
源さんが俺を突き飛ばした後の顔が脳裏に浮かぶ。俺のせいで死んだ源さんはどこか誇らしげなのに悲しい顔をしていた。
(もっと恨んでくれれば!)
楽になれたのに。人を助けるヤツらは自分が死ぬ事よりも人を優先する。ダンジョンに来てまでそれをやるやつらは顕著だ。
現に今も1人バカなやつが死にに行ってる。
自分より年下のバカに危険な役目を押し付けて傍観するなんて源さんに顔向けできない。
視界の端に捉えていた八木から照準を動かし上を向く。斧の嵐のなかでも狙いやすい無防備な頭がある。
頭は人間のもので2つか3つ分くらいだ。この距離なら十分当てられる。
タララララララッ
数発の弾丸が頭に向かう。角に2発弾かれ2発は壁に、もう2発が頭と目の付近に着弾した。
「ブモァ!?」
「ナイス勇!」
斧の嵐が止み痛みで顔を抑え、蹲る。その隙に八木はミノタウロスに肉薄し顔に張り付いた。
「⋯はぁ!?」
「ゼロ距離で喰らえばもっと暴れて壁壊してくれるやろ⋯くらえや!」
キィィイイイイイイン!
耳栓の方を向ける暇もなく破裂した音爆弾が俺をもぐらつかせる。
当然ミノタウロスと八木も相当なダメージで、お互いにぐらぐらと頭を揺らしている。
「八木!」
「お、おぉ」
「ちっ、バカが!」
頭に張り付いたまま意識を飛ばしている八木を引き剥がそうと1歩足を進めようとした時、ミノタウロスはなりふり構わず近づいていた八木を迎撃しようと無意識で斧を振り回した。
ガァン! ドゴォ! ギィン!
壁や柱を手当り次第吹き飛ばす斧の嵐の再会は八木を振り回した。
その勢いでミノタウロスの視界をさえぎっていた八木の体が少し浮き、八木を認識した途端ミノタウロスは壁に向かって頭ごと叩きつける。
ガァン! ガァン! ガァン!
「ぶはっ! うっ! ぐっ!」
一発目の衝撃で正気に戻った八木は離れかけた体を無理やり貼り付け、ミノタウロスの角をがっしりと掴んだ。
「何やってんだ八木! 離れろ!」
「あっ! っ! ⋯!」
だんだん声も出せずに血と空気を吐き出すようになった八木はそれでも手を離さない。
銃を撃とうにも暴れ回るミノタウロス相手に正確に狙う技量は俺になく、時折頭を左右に振り回すせいで八木が俺の方に血を飛ばす。
「違う、狙えないんじゃない⋯八木を撃つのが怖いのか⋯」
人を撃つたったそれだけの事実が俺の指をかたまらせた。
ガァン! ガァン! ビシィ!
「!?」
「よぶやぐが⋯がふっ⋯」
八木が何度も叩きつけられた鉱石の壁に光がさす。怪しい鉱石の輝きに満ちた構内に細く赤い太陽の光が入り込んだ。
「いざみ⋯ぞど」
死にかけの八木をまだ壁に叩きつけようとする。もう⋯やめてくれ⋯。誰か、討伐隊いるんだろう。助けてくれ。
「討伐隊ィ! その男は今回の調査の結果を持っている!」
だから死なせてはいけないと大声で叫ぶ。俺は助けられない、なら今壁の目の前にいる他人に賭けるしかない。
頭を叩きつけようとして八木の手はとうとう滑り離れた。ミノタウロスが亀裂に向かって頭突きをしようとした瞬間。
壁から何かが突き出しミノタウロスの頭に刺さる。
サクッ⋯ガゴォン! ガゴォン! ガゴォン!
ミノタウロスの動きが止まる。その直後に頭突きの音とはまた違う衝撃音が鳴り響いた。3度揺れたミノタウロスの巨体は直後倒れ込み、ピクリとも動かなくなる。
同じように倒れて動かない八木を剣で刺しながら攻撃の主は声を発す。
「こいつを医療班に渡して死なせないで」
「はっ!」
その一声で俺は助かったとようやく一息つくことができた。




