トラップ
「もっと丁寧に扱えよ⋯」
「やばい代物やから簡単にピンガ抜けんようになってる。お手玉しても大丈夫だと思うわ」
「そんなものを投げるな」
八木もやばさは自覚しているのか安全ピンはしっかりしているようだ。お手製の安全ピンを信用しているようでひとつを手の上でひょいひょい投げている。
「それでその音爆弾でどうする気だ。戦いながら耳なんて塞げないぞ」
「耳栓するのも2匹おるなら危ないしな、これは全部トラップに使おうかと思うわ」
「ワイヤーか」
「そゆこっちゃ、まともに戦えば牛共もダンジョンを傷つけんやろ。三半規管奪ってから壁際で戦って上手いこと壁に当てようや」
どこぞのハンターゲームみたいな感覚だが言ってることは間違っていないだろう。ダンジョンの主が大技とかでやむを得ずダンジョンを破壊するならまだしも、敵への攻撃で壊すことは無いだろう。
両手斧、大剣なら余程ギリギリでかわずか俺たちを巻き込むくらいでなければ壁を叩くことは無いと思う。
実際問題俺たちにそんなことが出来るとは思えなかった。
「ただあの感じだと余程攻撃はブレるし避けるの危なくなるぞ」
「それはもう大振りに期待するしかないやろ」
俺たちの作戦に必要なことはたった2つ。音爆弾を食らわせて三半規管を狂わせる、壁際で大振りの攻撃を誘う。たったこれだけだ。
階段での挙動を見た限り草食動物の頭にこの音爆弾は破壊的なほどの効果を持つらしい。あの時追われていないのがその証拠だ。
とはいえ俺たちにも相当なダメージを入れてくるこの音爆弾を投げるのでは距離的にもくらうのは必至だ。
だからこそのワイヤートラップ。ルミネの階層で店の間には一定間隔の通路があるのをいいことにワイヤーを括りつけた音爆弾を設置する。
ワイヤーを引っ張った直後にミノタウロスのタゲを取り壁まで誘導し大ぶりを誘発、これが今できる限界だ。
「うん、こんなところだろ。事前準備もなしでこれなら上等だ」
「俺の音爆弾に感謝しろや? 帰ったら美味いもん食わせてもらうわ」
「1000万の中で真宵に使う分と今後の貯金分以外でなら食わせてやる」
「めっちゃいいもん食えるやんけ!」
「サイゼな」
「おっしゃドリア! んじゃ俺こっちのトラップ仕掛けてくるわ」
八木も作戦行動に向けてテンションを上げているのか、恐怖を隠しているのかやけに元気だ。
八木はテンションを上げて生き残ろうとしているだけだろう。怖がっているのは俺の方だ。ダンジョンで人を助けて生き抜いた源さんもあっさりと死んだ、ゴールドの精鋭も全滅⋯俺1人なら死んで保険を真宵に全額渡すだけだっただろうが、今は八木が隣にいる。
俺と生きようとしてくれているこの馬鹿野郎のためにも怖がっている場合じゃない。
俺は顔を張り気合を入れてトラップの設置に向かった。