神奈川編Ⅰ・OP.トレジャーシップ~SAVIOR OF SONG~
「海上自衛隊のヘリコプター搭載護衛艦"ひなた"が"のぎ"、"さくら"より先に横浜へ入り、一時的な病院船として活用されることになりました。
この作戦を後に神奈川県には"大黒"や"弁財天"など七福神にまつわるものが多いため、後に七福神が乗る船の名前である宝船になぞらえ、"オペレーション・トレジャーシップ"と銘打たれました。
そして、"武力を行使しない戦い"に身を投じたのは自衛隊だけではありませんでした。
その戦いで武器になるのは、電話の向こう側からの"声"でした」
神奈川県横浜市
大黒埠頭沖
ヘリコプター搭載護衛艦DDH327"ひなた"
"ひなた"の艦長である宮津は艦内にいる乗組員らに向けて全艦放送を始める。
『当艦"ひなた"のクルー並びに横須賀IMATの医師団に達する。艦長の宮津です。我々はこれから歴史に残る戦いへと身を投じていく。ただし、その戦いにおいて、我々はミサイルを撃つことも、機銃弾一発たりと使う事はない。対象をロックオンする事もない。武力を一切使わずして、国民を救うための戦いを行う。我々の戦場はテロの現場となった横浜市や川崎市であり、この艦内である。一人でも多くの人命を救う事が我々の戦果とする。この国の平和な未来を守る事、この国からテロの犠牲者を増やさない事、この国から新たなテロを生まない事、我々は一人の国際社会に生きる者達として武力を一切行使しない戦闘に身を投じる。諸君らの健闘を祈り、これを訓示とする。以上』
放送を終えた宮津は自分がいるブリッジのクルーに向けて敬礼をし、クルーもそれに応えるように敬礼した。
ブリッジからは大黒海釣り公園が見え、陸自の小型ヘリやドクターヘリが続々と"ひなた"へと向かってくるのが見えた。
大黒海釣り公園を見るとパトカーや救急車が止まっており、警察が広い公園の敷地をヘリポートとして整理し、救急隊が負傷者をヘリに載せているのが見える。
「第一陣、到着します」
大型ヘリが3機も駐機できる広い甲板にドクターヘリと陸自の小型ヘリが着艦し、急患を艦内へと運び入れ、同時に燃料の補給を開始する。
横須賀IMATに同行した横須賀市内の病院の看護師らがすぐにストレッチャーに患者を乗せ、簡易的なベッドが用意されている艦内へと運び入れた。
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東京都千代田区丸の内
東海三友損保本社ビル
4階・グループ企業「サンユウコールセンター」
今回の危機管理センターの動きは早く、第二波を防ぐためにすぐにコールセンターへ休業要請勧告のための業務委託を行い、先の東京のテロで店舗に休業要請のための電話をかけた社員に加えて、その社員の活躍に感化されて委託業務に参加した社員もいた。
「今回は以前よりも急な申し出で申し訳ございません。通常の業務から外して、政府からの委託業務に従事する事についてきてくれてありがとう。先のテロの際に活躍してくれた社員がほぼ全員、参加してくれたこと、また、その社員の活躍に感化され、参加を決めた社員の皆さんにも礼を言いたい。だが、本番はここからである。我々のやる事は変わらず、"命を救う電話"をし、標的になりうる場所を潰していくことである。さっそく、取り掛かろう。諸君の健闘を期待する」
社長の小手愛之助はパンと手を鳴らし、それを合図に参加した社員らは静かに頷き、自分のデスクに戻った。
今回も小坂七海と上村比奈は参加したが、心強いメンバーとして小坂の同期である金村美李と先輩社員である加藤帆華と斎藤京香も2人が先のテロで活躍したことに感化されて参加を希望したのだった。
「七海、わからない事があったら、訊くね」
加藤はインカムをつけながら小坂に声をかけた。
「よし。一人でも多く助けるよ。頑張ろう」
低音の声が特徴的な斎藤は2人を鼓舞するように声をかけてきた。
それに小坂と上村は静かに頷き、インカムをつけた。
すでにインカムをつけた金村は何も言わないものの、小坂にアイコンタクトで「頑張ろう」と目配せし、受話器を取った。
それを見て小坂も緊張しながらもリストにある店舗の番号に電話をかけて受話器を手に取り、電話をかけた。
相手方が店舗名と自身の名前を名乗ったタイミングで小坂は口を開いた。
「政府からの依頼でお電話させていただいております。サンユウコールセンターの小坂と申します。先ほど発生したテロに際して、政府から避難要請が出ており、コンビニの店舗の休業の要請を行っております」
今回に関しては避難を促しやすいJアラートなどは使用されておらず、電話のみで休業要請を行うことになっている。
Jアラートの使用が出来ない理由としては、犯行グループである"ダッカの夜明け"が神奈川県内、もしくは横浜市内か川崎市内のどこに潜んでいるかわからず、仮にそれを使われた場合、刺激する可能性があるのであった。
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東京都千代田区霞が関
中央合同庁舎第6号館A棟
公安調査庁
召集された和己は征陸に三浦と喜久川が待つ部屋に案内された。
三浦と喜久川以外にも何人もの公安調査庁の職員らが詰めており、三県で起きたテロの情報収集にあたっていた。
大きなモニターが3台設置され、それぞれ神奈川県庁、埼玉県庁、千葉県庁に設置された現地対策本部と繋がっていた。
「では、私はここで」
征陸は2人に和己を引き渡すと公安調査庁を後にした。
「・・・確か、三浦と喜久川でいいんだよな?」
前回の召集の際、本名を明かしたため、和己はそれで呼んでいいのかと確認した。
「まぁ、我々はもう君の事を信用しているからね。偽名を使う必要性が無くなった。今回もよろしくお願いいたしますよ」
「ややこしいな。神田と春日で統一するわ」
「お好きなようにどうぞ」
「さて、若林さん。ここの説明をします。ここは、各地の現地対策本部から情報収集を行い、危機管理センターへ整理して発信する"情報集積CIC"と言ったところか。単にCICとも言えますね」
三浦―神田と喜久川―春日は偽名の方が慣れているという和己に合わせる事にした。
そして、ここは情報集積CICとして運用していくことになっている事も明らかになった。
和己の到着から少し遅れてマコも職員に案内されてCICに現れた。
「ネェちゃんも呼ばれたのかよ」
覚悟を決めたような顔で、それでいて冗談を交えながらマコは和己に答える。
「えぇ。埼玉の奥地からはるばるやってきたわ」
と、マコはキョロキョロと周囲を見回す。
「フミちゃんも、呼ばれていたりします?」
マコは神田に訊いた。
「加藤さんですが、さっきから連絡が取れなくて・・・他にファミリーメイトに詳しい人物を招集しています」
マコは「そっか、残念だなぁ・・・」と大きなため息をついた。
その直後、職員がタブレット端末を神田に見せ、神田は声を詰まらせる。
「加藤フミさんが、テロに巻き込まれて、川崎市内のコンビニで死亡したのが確認された・・・」
そのタブレット端末には今回のテロで巻き込まれ、死亡した事が確認された人物のリストが添付されたメールが表示されていた。
その一報を聞いたマコは膝から崩れ落ちた。




