神奈川編Ⅰ・潜入~Slash~
神奈川県横浜市中区
神奈川県庁
同時多発テロ事件現地対策本部
「知事、入られます」
現地対策本部に神奈川県知事の黒見レイチェル(くろみ-)が入ってきた。
黒見が遅れたのはみなとみらい地区で開催されている国際会議―E20環境担当相会議のレセプションに参加していたためであった。
元々、東京で開催予定であったが、先のコンビニを狙ったテロにより、保安上の理由で開催地を変更せざるを得なくなった。
そこに手を挙げたのが、黒見であった。
すぐにパシフィコ横浜を手配し、東京都知事の大池を説得して横浜での開催に漕ぎつけたのだった。
日本での初開催で、この会議には環境問題に積極的に取り組むアメリカ副大統領であるジョニー・フロントビレジが来日することも決まっており、警備体制は万全で全国からの応援の警察官が呼ばれている。
しかし、警備体制がみなとみらい地区に集中したために、他が手薄になっていたのだった。
「被害状況を報告します。横浜市消防局からは横浜市鶴見区の鶴見駅周辺で15店舗、川崎市消防局からは川崎駅周辺で13店舗が先の爆破テロの被害に遭ったという報告があがりました」
「内訳ですが、鶴見駅周辺での被害ではファミリーメイト系列が4店舗、オーソン系列が5店舗、スリーセブン系列が6店舗。川崎駅周辺での被害はファミリーメイト系列が5店舗、オーソン系列が3店舗、スリーセブン系列が5店舗となっています」
混乱する現場からようやく被害の状況報告があがり、横浜市鶴見区と川崎市川崎区で発生していた。
消防と警察の報告で具体的な被害が見えてきたのだった。
そんな中、海上自衛隊の護衛艦"ひなた"の横浜へ派遣の決定が神奈川県庁内の現地対策本部にもたらされた。
「到着はどれくらいですか?」
黒見の質問に作戦の立案者である菊政は答える。
『"ひなた"はすでに横須賀市内の医療関係者を乗せて、横浜へ向かっております。30分でそちらに現着します。停泊する場所は、大黒海釣り公園沖です。救急車などをそちらに集めてください』
「わかりました。すぐに指示を出します」
黒見は横浜消防局と川崎消防局には大黒海釣り公園へ向かうように、神奈川県警には周辺の交通整理を行うように指示を出した。
「公安調査庁の浅見と高木です。犯行グループの情報をご報告させていただきます」
公安調査庁の浅見と高木、神奈川県警外事二課の一ノ瀬と本間は犯行グループである"ダッカの夜明け"とその首魁であるナイム・ムハンマドの情報を報告する。
「"ダッカの夜明け"とその首魁であるナイム・ムハンマドの身柄の拘束、並びに起こりうるテロの阻止です。彼らの要求は実現が不可能である以上、到底受け入れることは出来ません」
黒見としては"ダッカの夜明け"の要求である「E20環境担当相会議にて、日本などで使われているポリエチレン製のレジ袋やビニール袋の商用利用ならびに販売の全面的な禁止を宣言、可決」を通すわけにはいかないらしく、是が非でもテロの阻止をする方針らしい。
「浅見さん、どうやら・・・コンビニ各社もその要求を受け入れるつもりはない、と宣言しているようですよ?・・・」
一ノ瀬は臨時ニュースが流れているテレビの映像を見せた。
映像にはファミリーメイトの社長である澤田、オーソンの社長である竹増、スリーセブンの社長である永松がそれぞれ会見を開いていた事を報じるニュースだった。
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東京都港区芝浦
ファミリーメイト本社
今回のテロを受けてファミリーメイトも記者会見を開くことになった。
社長の澤田優作は1人で会見場に姿を現し、準備が整うと深呼吸して口を開いた。
「ファミリーメイト株式会社、代表取締役社長の澤田優作です。まずは、今回もテロによりお亡くなりになりましたお客様、ファミリーメイトに加盟しております加盟店オーナー様、店長様、マネージャー様、スタッフの皆様に黙祷を捧げます」
その会場にいる全員が立ち上がり、黙祷をすると早速、会見に移る。
「東京でのテロに引き続き、今回も神奈川県や埼玉県、千葉県でのテロにより、尊い命が奪われてしまいました。私どもとしましては、テロは到底許される事ではありません」
静かな怒りがこもった目でマスコミが向けるカメラを見ながら、口を開く。
「現在、神奈川県内でテロを起こした国際テロ組織"ダッカの夜明け"の要求には、決して応じるつもりもなく、また、要求を受け入れるよう要求するようなことも私どもは発信は致しません。以上で会見を終了しますが、また発表がございましたら、再び会見を開きます。ありがとうございました」
澤田は会見を短く切り上げ、記者達も質問などはなく、すぐに立ち上がって会見場から去って行った。
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東京都品川区大崎
オーソン本社
「これより緊急の記者会見を行います。株式会社オーソン、代表取締役社長の竹増邦衛です。まずは、今回のテロによりお亡くなりになりましたお客様、加盟店オーナー様、店長様、クルーの皆様に黙祷を捧げます」
会見はファミリーメイトと同様にその会場にいる全員が立ち上がり、黙祷をする。
発生した地域が3つある分、少し長い黙祷が済んだ後に早速、竹増は会見に移った。
「犯行グループの要求である"E20環境担当相会議にて、日本などで使われているポリエチレン製のレジ袋やビニール袋の商用利用ならびに販売の全面的な禁止を宣言、可決"は到底、現実味がなく、実現不可能な要求である以上は受け入れることは出来ません。また、私どもが政府などの関係各所へ要求を受け入れるよう要請する事もありません」
会見を終わらせ、足早に会見場を後にした。
記者も質問がない事を疑問に思わず、立ち上がって撤収をし始めた。
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東京都千代田区二番町
コンビニスリーセブン本社
「これより緊急の記者会見を行います。株式会社スリーセブンホールディングス、代表取締役社長の永松文太です。まずは、今回のテロによりお亡くなりになりましたお客様、加盟店オーナー様、店長様、クルーの皆様に黙祷を捧げます」
他の2社と同様にその会場にいる全員が立ち上がり、黙祷をする。
そして、駆け足気味に会見を進める。
「私どもは、決してテロには屈しないという宣言を東京でのテロの際にしました。それは、今回のテロにおいてもそれが変わることはありません」
永松は静かにではあるが、語気を強めに話す。
「テロリストの要求に屈して、こちらから政府に働きかける事もありません。手短ではありますが、これにて会見を終わらせていただきます。ありがとうございました」
会見を終わらせた永松は足早にその場を去ろうとした。
その瞬間、「待ってください」と記者が一人、足止めした。
「アメリカのFBN日本専属記者の岡田です」
アメリカ最大のニュースチャンネルFBNの日本契約記者であり、名古屋に本社を持つネットニュース配信会社である東洋ニュースコムの記者の理佐だった。
理佐は経済担当でコンビニ問題を追っており、今回はFBNの記者として会見場に入る事に成功していた。




