第三波発生直後~流れ弾~
「政府が公開したオーソン丸の内カタダビル店とスリーセブン新橋一丁目店の映像に映し出されたテロリストのメンバーの姿は瞬く間にSNSで拡散され、その特徴はすぐに頭に叩き込まれました。
そして、ネット特有の"正義感"が暴走しだし、"日本人はテロに屈しない"という総意も相まって、独自の特定や捕まえようとする人達も現れ始めました」
東京都渋谷区代々木
ファミリーメイト代々木競技場前店
近隣の代々木競技場に東京都内外の病院のドクターヘリが着陸し、続々とフライトドクターが降り、"第三波"が発生した代々木の現場へと向かった。
「華田総合病院の藍沢以下、2名です。華田総合病院からはあと6名来ます。現場はどちらですか?」
埼玉県内の病院である華田総合病院のフライトドクターである藍沢は警視庁代々木西署の警察官である兼近に訊いた。
時間もなく、競技場を出るために案内役となった兼近の後ろを走りながら現場へと向かう。
「現場は代々木競技場の付近や駅前に集中しています。皆さんは代々木競技場の付近の負傷者をお願いします」
「わかりました」
華田総合病院から派遣されてきたのは藍沢と緋山、白石であり、この3人を第一班として、他にも6人が派遣される予定である。
ヘリの発着点となっている代々木競技場を出るとそこは"戦場"とも言うべき場所になっていた。
警察車両や救急車両、自衛隊の車両がひっきりなしに行き来し、現場となっている場所からは煙が上がっている。
付近のコインパーキングに仮設の処置室が設けられ、3人はそこに案内された。
すでに近隣の病院からドクターカーで駆け付けた医師と看護師がトリアージタグを付けて、ここで出来る範囲の治療を行っていた。
「華田総合病院の藍沢です」
「都立新宿第三病院の喜多見です。助かります」
挨拶もそこそこにすぐに処置にかかり、病院への搬送を行う自衛隊員や救急隊員へその場で出来る処置を済ませた患者を引き渡す。
その間にも続々と患者が運ばれ、その治療にあたっていく。
「急患です!」
オーソン第一体育館入口店の付近で倒れていたという男を消防士が運んできた。
男の背格好は職業は建設作業員と思われ、上半身は空調服のような穴が開いた作業着、下半身は緑色の作業ズボンを着用している。
体格は大柄で肥満体系と言われる体格ではあった。
意識は辛うじてあるようで、名前を聞こうと緋山は「大丈夫ですか?お名前は言えますか?」と聞くも、朦朧としているようで緋山の問いかけに答えられない。
「止血などを済ませて病院へ搬送しよう」
藍沢は外傷がないかを確認してトリアージタグを付けようとした。
だが、IMATの経験もある藍沢は手から弾薬のような火薬のにおいがしたのが気になり、手を止める。
そして、運ばれてきた男の作業着から小型のリボルバーが出てきた。
「拳銃!?」
白石は悲鳴に近い声をあげた。
嫌な予感が当たった、と藍沢は病院から支給されている携帯電話で警察へ電話をしようとしたが、意識が朦朧としていながらも、作業ズボンから自爆用と思われる爆弾を取り出した。
すぐさま、藍沢はその爆弾を握る手を掴んだ。
「自爆はさせない」
すぐに爆弾を奪い取り、緋山に渡す。
緋山は「ひいっ」と声をあげたが、藍沢が警察に電話をしている以上、やむを得ないか、と留飲を下げる。
この爆弾がいつ爆発するかわからないものの、今は待つしかないと恐怖しながら自分が出来ることをすることになった。
そして、爆弾の回収をする警察よりも急患搬送をする自衛隊員が先に来た。
「救急搬送の手配が出来ました・・・ってこれは何ですか!?」
「テロリストのメンバーと思われます。そして、これは自爆用の爆弾だと思います」
「爆弾!?」
自衛隊員は無線を入れ、応援を呼んだ。
「私は陸上自衛隊練馬駐屯地の濱田と言います。三等陸曹です」と名乗り、これから自衛隊がすることを説明した。
「現在、こちらに爆弾を解体するための部隊が向かっています。爆発しないよう無力化して安全に回収します」
「・・・お願いします」
緋山は少しおののきながら応えた。
そして、遅れて到着した警察がテロリストのメンバーを搬送していく。
トリアージタグは意識はないが、命にかかわる外傷はないとして、黄色と診断された。
警察としても専門の部隊が来た方がいいと判断し、そのまま待機することになった。
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東京都豊島区池袋
オーソン池袋西口公園前店
テロリストを発見するも、阻止に失敗し、それどころか制止も虚しく爆発が起きた。
そして、駆け付けた消防と警察によって撃たれた警察官は至近距離で顔面を撃たれて、即死の状態だったため、"回収"された。
「・・・まさか、拳銃を持っているとはな・・・」
警視庁池袋東署の警察官である岡部は同じ管轄で派出所勤務だった警察官の遺体を見ながら言った。
身元は池袋東署管内の池袋西口公園前派出所の小川巡査だった。
そこへ現場へ駆けつけた神永が小川巡査の遺体に手を合わせて、岡部から話を聞くことにした。
「警視庁公安部の神永です」
本庁勤務と聞いて岡部は反射的に敬礼し、「池袋東署の岡部です!」と状況を話し始める。
「捜査本部から現場へ向かうよう指示があったので向かっていましたが、時すでに遅く、テロリストも逃走し、小川巡査も即死の状態でした。また、拳銃が使用されたということですが、銃弾は頭部を貫通、この状況では銃弾の回収も難しいと思われます」
テロリストに繋がりそうな銃弾の回収も、テロによって消火と救助活動が行われ、現場検証すら難しいこの状況では出来ないと判断した。
恐らくはここまでがテロリストが考えたシナリオなのだろうと神永は考えた。
銃弾を混乱に乗じて回収させず、自分たちの身元の特定をさせない狙いがあると踏んだ。
では、テロリストのシナリオに反して銃弾を回収したら、とどうなるだろうかと考えた。
「銃弾を回収します」
神永の指示に岡部は驚くも、これしかテロリストにたどり着く方法はないと考え、探すことにした。
しかし、爆破テロがあった現場である以上、捜索が困難を極めることは想定されていた。
それでも、これ以上のテロを起こさせないために逮捕を優先することにした。
さっそく神永は道路に膝をついて銃弾を探し始めた。
岡部も神永に続いて銃弾を探し始め、それに続いて他の警察官も探し始めた。
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東京都文京区後楽
オーソンビッグエッグ店
「おい。お前、テロリストだろ?」
建設業の男は昼食のゴミを捨てようとコンビニに立ち寄り、食べた後のコンビニ弁当が入った袋をゴミ箱に入れようとした時、サラリーマン達に呼び止められた。
男の格好はとび職であることがわかりやすいダボダボのズボンであるニッカポッカを履いており、ガテン系御用達の作業服メーカーである"寅彦"の作業服を着ていた。
そして、空調服としての役割も果たすためか、脇腹のあたりにファンを通すための穴が開いている。
その特徴は完全にテロリストと同じであった。
作業中のラジオでテロが発生したことは知っていたが、そのテロリストの格好が建設作業員の格好と同じであることは初耳であった。
「今、捨てたのは爆弾だろ!」
「こいつを取り押さえろ!」
「爆発する!店から出るぞ!」
サラリーマン達に羽交い絞めにされ、取り押さえられた挙句、店から出され、警察官が到着するとゴミ箱を調べられ、男が捨てた弁当の袋が調べられた。
当然のことながら爆弾ではないので、無実であることがすぐに証明された。
「こちら後楽園3、通報のあったコンビニに現れた男はテロリストにあらず。G事案とは無関係どうぞ」
警察官は無線で本部に連絡するも、次の現場へ行くよう指示が飛んできた。
『後楽園より後楽園1、調査方、110番。管内にて同様の通報あり。現場へ向かわれたい』
「後楽園3、了解」
調書のための聴取もそこそこにすぐ他の現場へ向かうように指示が出た。
実は後楽園警察署管轄でこの手の通報が相次いでおり、これで6件目であった。
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東京都新宿区歌舞伎町
スリーセブン新宿トウ横店
「こちら歌舞伎町1、通報のあったコンビニに現着しました」
「とび職の格好をしている男が暴れている」という通報を受けた歌舞伎町1丁目交番の警察官が現場に到着すると複数の若者達による人だかりが出来ており、人込みをかき分けていくと通報があった通り、とび職であることがわかりやすいダボダボのズボンであるニッカポッカを履いており、ガテン系御用達の作業服メーカーである"寅彦"の作業服を着ていた。
髪は明るい金髪で「やんのかコラァ!?どけ!殺すぞ!」としきりに周囲を威嚇しながら、取り押さえようとしている通りがかりのサラリーマンらを殴る、蹴るの暴行を加えていた。
「何をしている!やめなさい!」
1人の警察官が警棒を取り出し、とび職の男に対応しようとし、もう1人の警察官は周囲の若者らから話を聞くことにした。
「あ?マッポか?コラァ!」
とび職の男は警察官の制止を振り切って、殴りかかるもすぐに足を警棒で叩かれ、バランスを崩したところであっさりと取り押さえられた。
「午後3時12分、公務執行妨害で緊急逮捕」
とび職の男の手に手錠がかけられ、もう一人の警察官が話を聞いてきた。
「どうやら、この被疑者は、テロリストではないかと疑われたことに腹を立てて、自分を取り押さえようとした会社員の男性やコンビニの店員に暴行を加えたようです」
またか、と建設作業員がテロリストとして間違われ、歌舞伎町1丁目交番の警察官も3件目であった。
「歌舞伎町1、通報にあった男を公執で緊逮。なお、G案件とは無関係であるものの、それに端を発したデマによる事案である」
本部に無線を飛ばし、管轄となっている所轄署からパトカーが来るのを待つことになった。
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東京都千代田区
警視庁本部庁舎
テロリストに関する映像が公開されて、それに端を発するデマによって通報が増えた。
それにより、情報の錯綜が始まっていた。
「どうやらSNSで公開したテロリストの画像が出回っていて、それを見た人達が片っ端からとび職などの建設作業員を疑っているようです」
常守はこれまでの通報の内容から分析し、征陸に報告した。
その中にはスリーセブン新宿トウ横店と同様に警察官に暴行をはたらき、公務執行妨害罪で逮捕されるケースも少なくなかった。
さらにその何人かは過去に補導や逮捕歴のある人物であったために、身元もすぐに割れ、すぐに所轄署の捜査員による捜査で無実であることが証明されたのは皮肉としか言いようがなかった。
「さすがは元ヤンが多いクズ職だな。コンビニ店員にオラつくどころか、頭に血が上ってマッポにも手をあげたらおしまいだっての。バカだな」
和己は笑いながら、公務執行妨害罪で逮捕された建設作業員らの資料を見て言った。
「さっきから君は職業で人をバカにしてないかい?」
勇作は和己が職業で人を判断しているのではないかと訊く。
「バカにしてるんじゃない。差別してるんだよ。日本で職業差別は合法だろ?憲法で"職業で差別してはいけません"って書いてないんだからさ」
一番ダメな解答がきた、と勇作は呆れて大きなため息が出た。




