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日常の破壊者  作者: ファミ・ローⅦ世
3rd~模倣の因縁~
102/141

事故発生~真夏に何か起きるのかしら~

沖縄県宮古島市

ファミリーメイト下里小学校前店

8月。最高気温は33度にも昇る高気温で熱中症警戒アラートが宮古島だけでなく沖縄県全土に発令されていた。

このところ、梅雨が明けてからずっと29度を下回る事がなく、ずっと熱中症警戒アラートが発令される日が連日続いている。


「ありがとう・・・ございました・・・」


店舗スタッフである多良間八郎たらま はちろうは覇気もなく、マスク越しの呼吸も荒く、レジ接客が終わると少しカウンターにうなだれた。

一時間前から頭痛と吐き気、眩暈が止まらず、何かにもたれたり、うなだれたりしていないとまともに立っていられない。


「おいよ、店員が何をダリてるかよ、まず!レジをやれ!」


カウンターにガテン系の客が現れた事により、八郎はゆっくりとうなだれた体を上げて、前の客の方に向く。


「いらっしゃい・・・ませ・・・」


言葉を発するごとに頭痛が走り、吐き気も止まらず、いつもの倍以上の疲労も感じていた。

その八郎の様子を不真面目でやる気のない店員だと思い、イライラしながら客は仁王立ちで会計をするのを待っていた。

スキャナーを手に取った八郎を見て「袋、あと57番ね。あと、チキン」と矢継ぎ早に客は欲しい物を指差した。

客が持ってきたビールを1本手に取ってスキャンすると複数本をゆっくりと入力する。

その遅い手つきに客はイライラして「遅いよ!早くすれ!クイック!クイック!」と手を叩く。

カゴからポテトチップスを手に取ったところで意識が朦朧としはじめるも、客から「遅いよ!!アバッ!!」とブチギレられ、一瞬、意識が戻る。

「ダァラダラダラと何をしてるかよ、まず!は?はーよ?あがいー・・・・!」と相当、怒りのボルテージが上がっているのがわかる。

ポテトチップスをスキャンし、次の焼肉弁当を手に取ったところで再び意識が朦朧とし始めたが、何とか「温め・・・ますか?」と声を絞り出した。

しかし、絞り出した声のボリュームが逆に逆鱗に触れたらしく、「は?聴こえん!?何て!?」と大声で聞き返されたところで意識が途切れ、焼肉弁当を手に持ったまま、八郎は倒れ込んだ。

さすがに目の前で人が倒れてしまったためにガテン系の客も「ひぃっ!」と一瞬、悲鳴をあげ、「おいよ!大丈夫か!?おい!おい!」と呼びかけるが、意識が途切れた八郎には届かない。

店の売り場には八郎以外のスタッフはおらず、もしかして、事務所に誰かいるのでは?と緊急時だからやむを得ないとカウンターから事務所に入ると、責任者らしき人物が机に突っ伏して寝ている。


「おい!あんたのところのスタッフが倒れたんだけど?何寝てるかよ!?お前がレジをやれ!」


と体をゆするとその責任者らしきスタッフも倒れ込んだ。

そのスタッフも汗をビッショリかいており、「ううっ・・・」とうなされている。

さすがにまずいと考えた客はすぐに119番で救急車を呼んだ。

だが、衝撃的な発言が告げられる。


『宮古島消防本部です。救急車ですが・・・到着までに時間がかかります。他で熱中症の患者の救急搬送中です』


到着に時間がかかり、すぐには到着出来ない旨がオペレーターから告げられる。


「こっちも人が倒れてるんだけど?」


『・・・わかりました。症状は倒れている以外、どんな感じですか?』


「え、えーっと・・・何か、熱中症に似てるかも。ばんも建設関係だから・・・」


『熱中症ですか・・・では、応急処置ですが、倒れている方の服を緩め、脇と首に冷たい物を挟んでください』


オペレーターの指示に従い、客は自分が買うつもりだったビールを八郎の制服を緩め、脇と首に当てた。

同じく事務所で倒れている責任者らしきスタッフにも同様の処置をした。


「当てたけど?」


『・・・今できる事はここまでです。先の搬送が終わり次第、そちらに向かわせます』


客は電話を切らずに到着まで待ち続け、他に来た客にも事情を説明し、協力を仰いだ。――――――――――


―――3日後。

沖縄県那覇市

沖縄県庁

地域保健課疾病対策班

真夏日が続いて熱中症警戒アラートが連日、発令されているある日、地域保健課疾病対策班に所属する県庁職員、伊敷理々(いしき りり)は毎年、行っている熱中症に関する啓発活動の一環で那覇市内のショッピングセンターで塩分が摂取できる飴を配るための企画書を作成していた。

地域保健課疾病対策班は国指定の難病に関する事を主に業務として行っているが、他にもハンセン病、臓器移植と骨髄移植に関する事、そして身近なもので熱中症に関する事も業務として取り扱っている。

その中でも理々は毎年、熱中症に関する啓発活動を担当しており、例年通り、今年もどこかのショッピングセンターで塩分摂取用の飴を配るのだろうと思っていた。


「伊敷さん」


理々の上司である汀良秀雄てら ひでおから呼び出されて、汀良のデスクへ行く。

汀良のデスクにはすでに池端理奈子いけはた りなこ山川春香やまかわ はるかがいる。


「宮古島で連日、熱中症患者が増えているのは知ってるね?」


このところ、宮古島ではコンビニエンスストアの店員が次々と熱中症で倒れる事案が発生している。

この事態に対して現地の宮古島保健所と宮古島労働基準監督署がインシデントにあたるのではないか、と調査チームの設置を求めてきていた。

しかし、相手が非常に悪く、沖縄県内での店舗数が多いコンビニチェーン、沖縄ファミリーメイトであった。


「コンビニ店員を中心に熱中症患者が増えているんですよね?・・・」


池端は昨日の夕方のニュースで知った事を答える。


「うん。それ関連でうちの疾病対策班から数名、事故調査チームに加わる職員を派遣する事にした。それを君たちにお願いしたい」


汀良は理々達3人を宮古島に派遣し、現地での調査をする事にしたようだ。


「実は、現地の保健所や労基が調査をしようとしたが、まともに相手にされず、なかなか調査が進んでいないらしい」


「え・・・・コンビニの本部は協力しないんですか?」


「先ほど、金城さんと儀保さんに港町にある沖縄ファミメの本社に行ったけど、こちらはこちらで"現地の事は営業所に任せている"と門前払いだったんだ」


那覇市内にある沖縄ファミリーメイトの本社へは3人の先輩職員にあたる金城園枝きんじょう そのえ儀保充秀ぎぼ みつひでが出向いたが、まともに取り合わなかったようだった。

そこで3人には現地の宮古島に出向き、営業所の調査を行う事になった。

どうやら本部としてはまだ重大インシデントという意識はなく、県も本腰を入れていないと思っているようだった。

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