難航
その日のうちから、おじいさんも加わり作業が始まりました。
娘は三台目として、旧式の機織り機を持ち込むと、
それまで自分が使っていた新しい型式の機織り機を
おじいさんに渡し、一緒に作業を教えました。
旧式の機織り機は新しい型式に比べると、
足踏みが緩んでおり、動きが円滑ではないのですが
使えないことはありません。
それでも、もともと不器用なおじいさんの作業は
娘よりも遅いのでした。
二月のあいだ、おじいさんとおばあさんと娘の
悪戦苦闘がはじまりました。
おじいさんが疲れて寝てしまった後、
自分の作業を終わらせた娘が、今度はおじいさんの使っている
機織り機で作業の続きを行うのでした。
そして、そろそろ二ヶ月にあと三日を残した日
問題はおこりました。
娘とおばあさんが一反ずつ織り上げ、
もう少しで、おじいさんの手掛ける三反目が織り上がるころ
「糸が足りん」とおじいさん。
織物は、完成まであと三寸ばかりです。
しかし、もう町まで糸を買いに行っている時間はありません。
娘が弱っていると、おばあさんがやってきて
鋏で長い白髪を切り落としました。
「これをつかってください、おじいさん」
おじいさんは涙ながらにおばあさんの頭を撫でると
その白髪をひろい、横糸として機織り機に通すのでした。
なんとか三反目も出来上がったのです。
反物は濡れておりました。