8話
8
熱い夏が過ぎ、朝夕が少し肌寒いくらいの時期が来た。
ミヤも、大分会社にも仕事にも慣れてきた。以前の様に、気持ちが落ち込むことも殆ど無くなって来たミヤに、ある情報が入った。
「あれ!ここ、通信もやってるんだ.....」
去年試験を受けようとしていた大学が、通信大学もやっていると聞いて、未だに心の中に燻っている思いが何気に開いた去年の志望大学のパンフに載っていた事に気が付き、その案内を見ているうちに、今まで心中の奥底の曇りが、少しづつ晴れていくように感じた。
(何だ、去年ココの通信受けてれば、オレも働きながら大学生になれたんだ...、ははは....、そんな事って頭の片隅にも無かったな.....)
会社に相談してみよう。一年遅れだけど、上手くいけば大学に入れる...、と言う思いが蘇って来たミヤは、業務終了後、社長に時間を貰い、話し合いに向かった。
社長と専務との話合いの結果、勤務しながらの就学にOKを貰った。
「ウチから大卒者が増えることは将来を考えて、利益になる事は良い事だと思う。だが、通信での大学卒業は、中々辛いと思うが、できるか?」
「はい。何としてでもそこに行きたいです」
「そうかわかった。 信念は堅そうだな。卒業を目指してやるだけやってみなさい」
そう言われ、甲高い声でミヤの肩を叩きながら笑った。
それに、『働きながらの学業も、と言う事は、今までよりもキツくなるが、出来るか?』とも聞かれたが。それに対しミヤは、『若いうちの4年です、何とか乗り切ってみようと決心しました』と言い、社長の期待に出来るだけ答えるようにと、それで話し合いは終了した。
だが、それからが大変だった。
一度勉学から離れた物が、再び同じ学力に戻るまで、時間はどれくらいかかるのだろう、そう思うと、ミヤは不安になり、すぐに妹 美沙に連絡し、対策を講じた。それは......。
..........そして。
本当に
本当に
本当に、まだ間に合うだろうか?
勉強も
恋.......、も.....。
◇
いつものコンビニのフードコート、この時間に居てくれているだろうか?
居てくれ
頼む、居てくれ
「「..........あ!!」」
お互いが気恥ずかしくて、モジモジする。
久しぶりで、緊張する。
だけど.....。
本当は あいたくて 会いたくて 逢いたくて.....。
フードコートにポツンと座っていた、オレの、オレだけの彼女が.......、振り向いてくれた。
「みやび.......?」
ミヤが呼ぶと.....。
「なぁに?.....、みやび」
(ああ! ミイだ。 オレの.....オレだけの.....みやび.....、 だ)
「待った?」
「ううん、さっき来た....、と...、こ....」
「ふふ、嘘でも嬉しいよ。ミイ.......」
「みい?..........」
「うわぁぁぁぁぁん!!.....」
突然ミイが泣き出した。
「ミヤ.....、ば、ばか!.....、ばか!...、ばかあ.......、あ~~~~ん!!」
「ミイ、泣くな。いい子だから」
「ばかあ.....、ばか.....、ば...、ひっく...、ひっく...、ひっく」
「と、とにかくここは.....、みんなが見てるぞ」
「いいもん!大好きだもん、ミヤぁ....」
「あ~~~~、もういいや」
そう言いながら、なりふり構わずに、思いっきりミヤはミイを抱きしめた。
もう、店の中は、この二人に釘付けだった。
△
ミイを宥めたミヤが、抱きしめていた体をゆっくりと離す。が、手は繋いだままだ。
「ミイ、お願いがあるんだけど...」
言ってる途中に、ミイが人差し指でミヤの唇を塞いで、そのミイの口から出た言葉は。
「その前に....、ミヤ、今から私の言う事を守ってくれたら、それ聞いてあげる」
指で口を軽く押さえられながら、ミヤは返答する。
「分かった」
その返事を聞き、ミイが要求ごとを言う。
「じゃ....、あのねミヤ....。今後一切、二度と私から離れない事。それともう一つ、二度と一人で苦しまない事。.....コレ守れたら、お願い聞いてあげる」
その愛しく尊いまでの彼女の事を、もう一度抱きしめたくなる衝動を抑えミヤが。
「ミィ、ゴメン。ごめんなさい。 オレが一人で落ち込んで、一人で離れて行って。でも...、でもな、会社のある人が、オレに立ち直るキッカケをくれたんだ。だから、これからは 雅 と一緒に生きていく事に決めた。 うん。 そう決めたんだ、もう離さないぞ、覚悟しておけよ」
「うん、受けて立つわ。雅」
「ありがとう。嬉しいよ、こんなヘタレなオレを待っててくれて」
「あ!そうそう、ヘタレで思い出したんだけど.....」
「ん? なに?」
「今度、大学の友人に会ってくれない?今まで色んな事で、親身に相談相手になってくれた人なんだけど」
「男?」
「ちがうちがう!! 女の子だよ.....あ!、だけど、その娘 すっごくキレイだから惚れたらグーで殴る」
「はは、それは大丈夫だ。ミイで美形の免疫は、出会った時から出来てるから」
ボンッと、ミィの頭から煙が出そうな音がした気がする。
「顔真っ赤だぞ、ミイ」
「もう! ミヤったら.....」
「いいよ、一度会ってみる、お礼も言いたいしな」
「お礼?...」
他の客が、フードコートに入れない雰囲気を作っている二人。
「...ところで、最初言っていた、お願いってなぁに?」
「あ!それそれ」
と言って、ミイに通信大学の事を話した。
「一年遅れだけど、なんとか社会人をしながら、頑張ってみるよ」
「それなら、まかしといて! その友達にも協力してもらうから」
続けてミイが。
「ミヤ、これから時間ある?」
「今日はこれだけの用事だから、この後別に用事って、ミィとご飯食べる事くらいかな?」
「じゃぁウチ来ない? ご、ごはん食べに」
「いいけど、店やってるんじゃないのか?」
「いいの。えっと...、だから....、その.....」
「分かったよ....」
ミイの顔が真っ赤っかになるのを見て。
(ほんっとに分かりやすいな、オレの彼女は...(ミヤ))
この時ミヤはミイを、本気で一生大事にしたいと改めて思うのであった。
(ミイ ミヤ、良かった良かった...(作))
次話が(A)編の最終話になります。