4話
4
三条との事案が済んだ翌日の朝、HRの前の時間 ミイは友人たちに囲まれていた。
「ねえねえ雅、昨日は大変だったんじゃない?」
友人たちの中の一人が、興味心身で話しかけてきた。
「こらこら、学校には内緒だよ、この事は」
「え~~!あの後何があったの? ねえねえ...」
「な~いしょ!」
「ま!いいか。どうせ最後は、石仲とイチャイチャしたんでしょ?」
「そ、それは...」
「ほ~、一瞬 いま間があったな? あやしいぞ~...」
こんな会話がミイの周りから聞こえる。とりあえず、このままこの事が、フェードアウトしてくれる事を願うばかりだ。
自分の席からそんなことを願うミヤであった。
(三条先輩、コレでミイの事諦めてくれるよな.....)
ミヤはそう願う。
◇ ◇
「もうあれから20年くらいはなるかな?」
「そうね、そのくらいはなるんじゃない?」
今日は”はまちゃん”の定休日。
店の休みの時は、こうやって、たまに恭子と美佐子はカウンターで、昔の色々なアルバムを見ながら、楽しいお喋りをしている。
昔話に花咲くのは、同級生と言う、境遇を共にしたからだろう。
「三浦くんって、カッコよかったよね」
「あ~!いたいた。でも、いつも女の子が絶えなかった人だよね」
「そうそう。あれだけ彼女が変わると、女子からは何?って感じだったよね」
「っていうか、何人食ってるの?って感じで、私はすごくイヤだったな~」
「好きな子はいいんだろうけど、私もアレは受け付けられない人だったな。 あ!最も、相手にもされてなかったからね。ははは.........」
そんな時だった。
「あ!この写真。」
「ま、まずい!!」
恭子がある写真に手を伏せた。
「なんで隠すの~!」
「何でって...」
「い~から、退けなさぁい...、えいっ!!」
「あ!!」
力づくで恭子の出を退ける美佐子。
「..........(汗)」
「ほうほう。そう言う事でしたか。恭子さん?」
「..........」
「こんな時期からねぇ...、恭子さん??」
「うぅ..........」
「いい男だったんだね~ 雅人さんって...、今もだけど」
「あわわわ.......」
「恭子。さっきから、日本語喋ってないわよ」
「.......で、この写真の時期にはもう 済んでた?....」
「うっ!..........」
「あ~分かりやすい。 そうだったんだね~」
こんな会話をしていると、奥から店内に美佐子の亭主の政士が入って来た。
「なにかさっきから盛り上がってるんじゃないか、お二人さん」
同級生と言う二人に、微笑ましい表情をむける政士。
「そうよ、あなた。」
「何の話だ?」
「女同士の ひ・み・つ な話なのよ」
「何か、恭子さんの頬が赤い気がするが...」
「い~のい~の、気にしないで」
「ま!い~か。俺ちょっと出かけてくるから、恭子さんゆっくりしていってくれ」
「ありがとうございます」
そう言い、何となくあしらわれた感はあったが、そのまま政士は店を出て行った。
「さて、政士さんが出て行ったところで、今度は美佐子だからね」
「あ~やっぱり?」
「当然でしょ! さぁさぁ、政士さんとの馴れ初め、白状しなさい 美佐子!」
「分かったわよ...」
こんな感じでいつものこの二人は、平日の朝から盛り上がるのであった。
*
ちなみに、美佐子たちの馴れ初めは、美佐子が大学2年の時、サークルでの飲み会で、良く使う料理店での出会いだそうだ。
大まかに言うと、大部屋で飲んでいた美佐子が、気分がすぐれなくなり、友人に店のカウンターまで連れて行き、休ませていたところ、この店に修行中の政士が、美佐子を気の毒に思い、暫く付き添ってくれていた、という事だ。
その後、美佐子が。
『あんな醜態を、店員とはいえ、殿方に晒してしまった』
と、嘆いていた。
その後、恥を忍んで、再び店に先日のお詫びに行ったところ、政士はその日はお休みの日で、居なかった。しかし、どうしてもお礼がしたい美佐子は、当時 政士が暮らしているアパートの住所を教えてもらい、訪ねたと言う。
美佐子が訪ねた時、自室で洗濯をしようとしているタイミングだった。
そしてお礼をする美佐子だが、政士は わざわざ気を使わなくて良い と言っていたのに、それでは私の気が済まないから と言って、いきなり洗濯をし始めた。
いきなりお礼に来て、しかも、洗濯までし始めたが、政士はずうずうしい女とは思わなかったそうだ。
「わざわざ、そこまでしてくれなくても...」
「それじゃぁ私の気持ちがおさまらないし、あんな醜態をみられて.......」
「そんなことは無い、酔い潰れていても、可愛かった....」
と言われて
「もしかして、今わたしって口説かれてる?」
「半分そのつもりですが」
「ナンパですか?」
と聞いたら
「そうです!...、ね」
と、言われて
「2度目の対面で、そこまで正々堂々と言われたのは初めてです。なにかちょっと私もあなたに興味が湧いてきました。これ終わってから、ご飯食べにいきませんか?」
「いいですけど、いきなり男と怖くはないですか?」
「あなたの仕事場と、住んでいる所を知っているんです、悪い事は出来ないでしょう。それよりも、あなたは悪い人ではありませんから、政士さん」
「俺の名前まで....」
「うふふ、店で聞きました。浜 政士さん」
「俺は君の 美佐子と言う下の名前しか知らない」
「田中よ 田中 美佐子。 女優みたいでしょ?」
「よくウチの店を利用してくれていたのは知っていた」
「なぁんだ、私の事、ちょっとは覚えてくれていたんだ」
「可愛いから...(照れ)」
「へぇ~....(照れ)」
そして。
「洗濯物干し終えたし、行きましょう、政士さん」
「お~けいです」
大方、こんなやり取りから始まり、それがやがて交際になり、結婚をして、今に至るそうだ。
*
「なんか、ロマンスね~」
恭子が言う。
「はじめは変でも、いい男見つけたと、今でも思うかな」
「ごちそうさまでした」
「お互いだね!」
「「うふふふふ......」」
(いい男捕まえたね、お二人さん(作))
◇
......となれば、当然こっちの方の話もです。
金曜日の夜9時半過ぎ、店のカウンターには、雅人とその裏には政士の、会話する姿があった。もうすぐ閉店と言う時間で、周りの客もいい気分になって、そろそろ帰り始める時間帯でもある。
「雅人さん、この前の水曜に、うちの美佐子と恭子さんが、朝から何やら盛り上がってましてね、 なにか? って尋ねたら 秘密 なんて言われましてね、何か知ってます?」
雅人が少し考えながら
「う~ん...、何か美佐子さんとは会っていたと言ってはいましたが、内容までは聞いてませんねぇ」
「いったい何で盛り上がってたんでしょうかね?」
「ま!女には女の話ってのがあるんじゃないんですか?昔から」
「女の秘密 ってヤツですね?」
「男には内緒の」
「「はははは...」」
お互いに、ビールを注ぎながら、いつもの様に二人は意気投合しながら、閉店まで話を続ける。それを横から見ていた美佐子が...。
(お義父さん、ごめんなさいね、うちの人、雅人さんが来ると、もう客そっちのけで、飲んじゃうの。その代わりに、お店に立っていただいて、いつもありがとうございます (美佐子))
□
秋も深まって来て、イチョウの葉が殆ど落ち、初冬とも言っていい頃、いつもと変わらなく二人が登校していると、ミヤ達の100mくらい前の方に、あの 3年生の 三条 昭が歩いていた。
あの事件(?)から、早いもので、もうすぐ4ヶ月になる。あの事があってからは、今まで一切 三条とは接触がない。以外に大人しくなってきている最近のミヤたちの身の周りの中で、彼は今までどうしていたのだろうか。あの一時のミイに対する態度も、今では全く無く、大人しい。
だが...。
よく見ると、三条の隣を歩く、ショートボブのやや長身の、女子生徒がいるのが見える。しかも、三条も その女子も、楽しそうに話しながら、二人肩を並べて歩いている。隣を歩くミイも気が付いたみたいで、二人して、顔を見合わせる。....で、最初に出た言葉は。
「「三条先輩に彼女?!」」
と言う言葉が、揃って出た。
「ミイ、あの三条先輩の隣って誰?」
と聞くと
「う~ん誰だろう、後ろ姿じゃあ分からないなぁ」
「一見すると、彼女風に見えるけど....」
「そうだといいんだけど....」
などと、その二人の事をコソコソ話していると、女子生徒の方が何となく、ミヤ達の方を振り向いた。その顔をみた瞬間にミイが。
「あ!長谷川 先輩だ」
と言って名前を叫んだものだから、三条も振り向く。すると少し目を大きくしてから、頭を掻きだした。隣にいる 長谷川 と言う女子が、ミイに向かって 手をひらひらと振っている。
「知り合いなのか?」
と、聞くと
「長谷川 令 先輩よ。顔と名前だけ知っている程度だけど」
と言う。遠くから見ても、綺麗と言うよりも、カワイイ と言った方が容姿の表現が正しいだろうか。そのまま三条たち二人は、そこに立ち止まっていて、まるで、雅たちを待っているかの様だ。
二人が三条たちに追いつくと、長谷川の方から声がかかった。
「おはよう」
と言ってきたので。
「「おはようございます」」
と雅たちが返した。
三条は、どことなく気まずそうに、頭を一度だけペコリとさげた。
すると、長谷川が開口二番に
「噂の二人ね、昭」
「あ、ああ。そうだ」
「あなた達の事は、この人から聞いているわ、この自己中な男に、良く言ってくれたと、お礼がしたいくらいなの」
「「??」」
「ふふ....。いきなりでごめんね。わたしは....」
ミイが
「長谷川 令 先輩ですよね」
「あら、知っているの?私の事」
「はい、名前だけは」
「そう、なら話が早いわ。あなた達には謝らなくてはいけないから」
「何ででしょう。長谷川先輩から謝罪される事なんて、何一つないと思うんですが」
ミイが言うと、さらに今度は三条が
「お前たちには、ホントに迷惑をかけた。特に大きな勘違いで、石仲には申し訳ない事をした。 すまなかった、石仲」
「先輩があそこまで、ミイ......、雅に執着しているとは思ってもみなかったんで、ホント困りました。でも、最後には気が付いてくれて、良かったです」
「やっと謝罪出来たわね、昭」
どこかしらホッとした表情を見せる令。
「何か、ホッとした、この数か月、たまにお前たち二人が歩いているのを見たりすると、心が痛む時があって、いつかは謝罪しなくては、と 思っていたんだ」
「...で、先輩方。この状況はどういう事ですか?」
仲良さそうに二人でいる状況を見て、ミイが昭と令に訊く。
「やはりそれを聞くか...」
「うふふ、昭、どうする?」
「令。意地悪くするなよ」
「「??.......(ミヤ ミイ))」
「先輩 もしかして、長谷川先輩の事....」
ミイが聞いた。
「う、うむ...。あ...、ま、まあな.....」
「あはは! 最近、私、昭に迫られているの」
「な.....! 令....」
すごく照れた表情を見せる三条。
「いいじゃない、ホントの事だから。でね、未だにハッキリとした告白が無くって、ちょっとイラ付いている所なの」
「何でイラつくんだ? 令」
「だって、夏休み前は、あんなにこの 雅さんには迫っていたのに、私には、好意は見せてくれるものの、積極性がないから、こんなものなんだって....」
「ち、ちがうちがう。この前の 浜 みたいに行き過ぎた事になると、歯止めが利かない事が分かったんで、少し抑制してるんだ」
少し間を置いて、三条の目を見て、令が言う。
「だったら...、だったら。今ここで告ってよ!この二人の前で」
「い、今か?」
驚く三条。だが さらに 令が言った。
「出来ないの?、石仲君は、みんなの前で告ったって言ってたじゃない。あなたには出来ないの?」
「う.....」
「どう?」
戸惑う昭.....、だが。
「.......、分かった。俺も男だ、やってやる」
三条は長谷川の真正面に立ち、そして、目を合わせて言った。
「長谷川 令さん。今までこんなオレを思っていてくれた事は気が付いていました。一時期は横恋慕してしまいましてけど、最近自分の気持ちが君に向かっている事に気が付き、今では君が隣に居てくれる事に、安堵しています。これからは、君と俺とで一緒に色んな事をしてみたいし、色んな所にも行ってみたい.....。こんな俺で良かったら、これからずうっと付き合ってください」
目が潤みはじめる令が...。
「はい!....。 やっと...、やっとハッキリ言ってくれたね昭....。これからは横恋慕するなよ! しっかりと、私から離れない事、コレが条件。 分かった?」
「お。おう」
「なんだかなぁ...、でもこれからもよろしくね、本日只今からは、恋人として
」
「っしゃぁ~~!!」
雄たけびを上げる三条に、登校中の数人の生徒が拍手をした。
そしてミイが二人に向かって。
「先輩方、良かったですね、おめでとうございます」
「ありがとう。あなた達のお陰でもあるのよ」
「いえいえ、でも、公開の告白って、見てる側も照れるんですね」
「あなた達を見てると、そうみたいね....」
「さあて」
と言い出して、令は 三条に言う。
「確かに恋人同士にはなったけど....」
驚いた顔で、令 を見る 三条。
「でもね、ちゃんと大学には行くから。分かってるわよね」
「そうだな、まず受験だ」
「分かってるじゃない。同じ大学志望なんだから、さっそく今日からは私と、しっかり受験勉強よ」
「お...、おう、分かった....」
今度は 令が雅たちに向かって。
「じゃあ、ありがとね、立ち会ってくれて。これで私達、同じ気持ちで、これから一緒に進めるわ。本当にありがとう」
「俺からも例を言わせてもらう。ありがとな、石仲、浜。お前たちには感謝する」
「いえいえ、先輩方、お幸せに」
「「ありがとう」」
昭と令にお礼を言われながら3年生とは、玄関が違うので、三条達とは別れた。
△
「私の事は、横恋慕だって.....、何か、失礼しちゃう」
機嫌の悪いミイをミヤが宥めている。
「いいんだ。ミイは、オレだけのものだからな」
「なに、そのいやらしい言い方...」
「そんな意味はないぞ。誰にも渡さないって事だから」
「分かってるわよ。嬉しい、ミヤ」
「でも、良かったよな。あの二人上手くいって」
「そうだね」
もう肌寒いと言うよりも、ただ 寒い と言う言い方が合っている時期になってきていた。