1話
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「お爺ちゃん、お母さん」
「お帰り、どうしたの?雅」
「えっとね、えっとね...。なんか、そっちになんか大きな車が止まってて、大きな箱をいくつも家に、運んでいたの」
春休み、外出していた女の子が、少し息を切らせて家に帰って来てからの第一声だ。
「あら、今日だったのね」
「お母さん、なんか知ってるの?」
「引っ越しよ」
「あたらしいひとが、そこにくるの?」
「そう言う事ね」
ここは、お好み焼きの店 ”はまちゃん”である。
半年近く前から、この近くで、4軒ほど新築工事があり、先日 4軒とも完成した。その新築の家に、最近次々と施主の家族が引っ越ししてきている。もう3軒は
終わったのだが、最後の1軒が暫く間を置いて、今日引っ越してきた。
「こんどは、おともだちになれるこが、きてくれるといいな~」
「そうね。最初に来た3軒は、大人ばっかりだったからね。今度は小さい子供が居るといいね」
「うん!」
「美佐子さん、焼きそば定食あがったよ」
雅の祖父が言う。
「はい」
と言い、それを持って、テーブル席の客に出す。
「お待たせしました。どうぞ」
何の変哲もない、ごく普通の飲食店内の日々が過ぎようとしていた。
◇ ◇
ここは、とある地方にある小規模な市である。 その市内の住宅街の中にあって、ちょっとした憩いの場、お好み焼き ”はまちゃん” と言う、和風ファーストフード的な店舗周りでの、男の子と女の子のストーリーである。
◇ ◇
「明後日から学校が始まるのは、分かっているのよね?雅」
「うん、母さん。 でも、まだ学校までの道が分からないんだ」
「困ったわね~...。近所に同じ小学校に行っている子が居ればいいんだけど」
と、母親の恭子と共に、長男の雅が多少困った表情をする。
「まだ春休みだし、母さん、さっき車で通って来た時にあった、公園に何人か子供が居たよね」
「あ!そうね。そこで、遊んでいる子に聞いたらって事ね?」
「うん。じゃぁ、ちょっと行ってくる」
「あ、待って。美沙も連れってってくれる?」
「うん、いいよ。 美沙! おいで。 公園に遊びにいくぞ~!」
「う...、うん.....」
「どうした?.....、まだ保育園のおともだちの事が気になるのか?」
「だぁってぇ~...」
石仲家は、4人家族で、今まで住んでいた住まいから、子供が大きくなるに連れ、単に狭い市営住宅から、広い、一軒家に住もうという事で、父親の雅人が戸建ての購入を決め、同じ市内の、隣町から引っ越ししてきた。
現在、長男の石仲 雅は、この4月から小学校3年で、妹の美沙は保育園の年長組になる。
友達に、引っ越しちゃうの?って聞かれたが、校区が違うだけで、引っ越しの移動距離は、約1kmくらいだ。なので、今までの友達には、十分会える距離だった。
雅は、新しい友達ができるかな?、などと期待をしていたが、美沙は、新しい環境に不安があるみたいで、それを見ていた雅が...。
「美沙、保育園では、新しい友達作って、帰ってきたら、今までの友達にあえばいいから.....」
と言われたので、渋々納得したみたいだ。
結局あのあと、雅たちが公園についた時には、子供たちはすでに何処かへ行ってしまったみたいで、学校までの通学路は分からないままだ。
△
石仲家の近所への挨拶回りも順調に進み、、後一件になった。最後は三件隣の 食堂のみとなった。 雅人は食事を兼ね、家族みんなで挨拶に行くことにした。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ!」
店の若嫁の 浜 美佐子が、来店の挨拶をすると、雅人が。
「一昨日、そこの三件隣に引っ越して来た 石仲 と申します。色々と知らない事があると思いますが、これからよろしくお願いします」
「まあまあご丁寧に。こちらこそよろしくお願いしますね」
と、美佐子から、丁寧な返事が帰って来た。
恭子が、引っ越しの挨拶の品を、美佐子に渡す.....?
渡す側 渡される側 ともに、一瞬 目を大きくした。
「.....?」
「?.....」
「きょうこ??.....」
「え??...、もしかして.....」
「そう!...、美佐子だよ」
「あれ~!久しぶり。何年ぶりかしら...」
「ホント、久しぶりね」
それを見ていた、雅人が
「なんだ、二人は知り合い?」
恭子が
「高校の時の、同級生だったの」
「卒業以来ね、10年振り?以上かしら........」
「そうね。それに結婚してたのね?」
「そう、この人が、私の旦那様なの。あなたは?...って、ココに居るって事は、結婚しているのよね」
そう、美佐子も結婚していて、しかも相手は料理人だ。美佐子の亭主の 政士は今現在、結構大きな料理店で修行をしている為に、今はこの店にはいないが、もうすぐ 年 が明けて、この店に帰って来る予定だ。
「ホント、久しぶりね...、あら? あなたの子供? 可愛いわね」
雅人と恭子の後ろに隠れていた子供二人に、目を向けて言った。
「そうなの。長男は今年3年生になるの。...で、この娘は今度、保育園の年長組なの」
「かわいい~。目がクリクリしてて、この娘 将来は美人確定ね」
「ありがとう。...で、美佐子、あの娘は?」
今度は、恭子が店のカウンターの一番端で足をブラブラさせて、鼻歌を歌いながら、折り紙を折っている女の子を見て言う。
「うちは一人っ子なの。今年3年生で、恭子の上の子と一緒だね」
「あら、一緒なのね、じゃぁ学校も同じになるので、よろしくね」
「こちらこそ、お願いするわね」
高校以来の久しぶりの再会に、二人の会話は尽きない。
「雅!挨拶しなさい」 と恭子が言うと、美佐子とカウンターの女の子が驚いた様に目を見張って、恭子の長男を見た。しかしその時、その二人の子供の目線が合い。
((うわ!! カワイイ))
と、雅と雅はお互いの事を思った。
「雅って言うの?その男の子.....」と、美佐子が問うと。
「そうなの。何か女の子みたいな名前でしょ? 主人がこの名前が良いって、聞かないので、そうしたの」
と、雅人をチラッと見ながら恭子は答えた。
相変わらず、目を見張る美佐子と女の子...。
次の一言はまさかの......。
「え...、っと...、あのね、この娘の名前も 雅って言うの.....」
「え!!?......、そうなの?」
この時が、石仲 雅と浜 雅の初対面であった。
お互いに挨拶し合い、雅は、さらに目を輝かせた。
「おばちゃん、この女の子は?」
と、恭子にきいてみると。
「妹の 美沙 って言うの。よろしくね。仲良くしてやってね」
と恭子が言い。
「は~い!」
と言って、いきなり雅が、美沙の手を取り、次に 抱きしめてきた。
「わ~~~!!かわいい!妹にしたい~」
と言っていると、再び恭子が
「仲良くしてやってね」
「うん!!」
と雅は、元気よく返事をした。
それから、石仲家一同は、話をしながら、ここで食事を済ませ、帰る時に。
「明日も会える?」
と雅が聞いてきたので
「いいわよね、美沙?」
と聞いてみると、美沙は
「うん、あしたもくる~.....」
と言っていると
「明日はわたしがいってもいい?」
とミイが聞いてくるので
「うん!来て。おねえちゃん!」
と言う美沙は元気な声で返事をした。
「みやびくんもいいよね?」
と、ミヤにたいして更に聞いてくるので
「いいわよね雅」
と、恭子が返事をしてしまったので、雅は
「う、うん.....」
と、返事を返すだけだった。
その後、子供同士で手を振って バイバイ をした後、石仲家の両親も挨拶をして、四人は店を後にした。
◇ ◇
翌日。朝9時過ぎになると、雅は石仲家の前に居た。
(インターフォンがあるのに)
「み~やびくん み~さ~ちゃん あ~そ~ぼ!」
と言う元気な声があった。
勢いよく美沙が玄関ドアを開けて
「わぁい!雅おねえちゃんだ!いらっしゃい。お母さん、いいよね?」
と、母親に聞いている。
恭子が美沙のすぐ後から。
「雅ちゃん、いいのよ、入ってね」
と言われてから
「は~い。おじゃまします」
と言って、お辞儀をして、玄関を上がっていった。
(雅、ちゃんとして、偉いぞ (作))
「おばちゃん、これ」
と言って、雅が手に持っていた袋を渡すと、そこには 下ごしらえした ギョーザ が沢山入っていた。
「まあまあ、そんなに気を使わなくっていいのに美佐子は.....、でも、ありがとうね、雅ちゃん、助かるわぁ」
「はい! どういたしまして」
「うふふ。ちゃんとしているのね、偉いわ」
と言われた、雅は、少し照れていた。
ちょうどそこへ、雅が来て、その照れた雅の顔を見て、少し顔が赤くなった。
「あ!みやびくん、おはよう。朝早くから来ちゃった。ダメだった?」
「い、いや いいよ」
と言うと。
「えへへ、早く今日が来ないかなって、待ち遠しかったんだ」
と言った後、話を割るように、恭子が。
「雅、お母さんまだ片付けが残ってるから、雅ちゃんと自分の部屋で遊んでてちょうだい」
「うん分かった」
そう言った後、恭子は台所に消えていった。
「みやびおねえちゃん、何する?」
美沙が聞いたが、雅が
「ゲームしない?、3人でも遊べるやつ」
「いいね!やろ?」
テレビの前に向って、3人はゲーム機のコントローラーをそれぞれ持ち、開始した。
△
暫くして、恭子が お菓子とジュースを持ってきた。
3人してキャーキャー言っているところに....。
「楽しそうね、はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「ホントに礼儀正しい娘ねぇ、雅ちゃんは」
「いえいえ...」
「うふふ、照れるところが可愛いわね。じゃあごゆっくり」
「ありがとうございます」
「うふふふ...」
と言いながら、恭子はまた引っ越しの片付けに戻って行った。
「お母さん、忙しそうね」
「まだまだ荷物がいっぱいあるからね」
「みやびくんは手伝わないの?」
「僕のは昨日までに、大体終わったよ。だけど、お母さんたちの物がまだ結構多くて、それに、僕たちじゃあ分からないから....」
「あ!そっかぁ....」
「お兄ちゃん、わたしトイレ行ってくる」
「おう分かった」
美沙が出て言った後、雅が聞いてくる。
「ねぇ、みやびくんって、誕生日いつなの?」
「ぼくは、8月7日だよ」
「え~~!! すごい、私と4日ちがいだ~~!!」
すぐに続けて。
「わたしね、8月11日なの。みやびくんと近いね~。私よりも、4日 お兄ちゃんなんだ~」
「あまり変わらないような....」
「アハハ!そうだね」
その雅の綻んだ表情が、この時の雅にとっては、とっても印象に残った。
「そう言えば。あさってから、学校なんだけど、まだよく道が分かんないから、教えてくれる?」
「え?それは大変だね。 いいよ、あさってのあさ、いっしょに学校いこ?」
少し頬が赤くなる雅。
「う、うん。じゃあ頼もっかな」
「まかしといて!」
「お願いします」
すると。
「何をおねがいしたの、お兄ちゃん」
美沙が帰って来て、ちょっとびっくりした二人。
「ちゃんと、手洗ったか?美沙」
顔を真っ赤にする美沙。
「もう!お兄ちゃんのばかぁ~!!」
「みやびくん、レディ にむかって、それはないよ~」
ミイに注意された。
「はは...、ごめんな美沙....」
「むぅ~~....」
雅たちの出会いはこうして始まった。
◇
学校が始まり、近所の付き合いにも慣れてきて、石仲家はこの地域に、早くから馴染む事が出来た。
たまたまこの近所には、雅たちくらいの年代の子供はおらず、雅の同級生も、家から500m以上離れたところにやっと一人いるくらいだった。
そういう事で、特に3人は仲良くなり、お互いの家に行ったり来たりして、一緒に遊んだり、多い時には、3食を浜家と石仲家で済ます事も多くなった。恭子が「もう、3人まとめてお風呂入ってきなさい」
なんて時もあったほど、仲が良かった。
次の年になると、美沙が一年生になり、3人そろって小学校に通う事になり、美沙の手をミィが引いて、学校に行くことが日常となった。
◇ ◇
やがて雅たちが6年生になり、卒業が近くなると、美沙が 寂しさのあまり、ぐずり出した。
お姉ちゃんと学校にいきたい....、とグズるのを、ミイが宥めて
「学校からかえってきたら、私はいつでも居るよ」
と言っていたが、ミイもミヤも中学校に入ると、部活に忙しくなり、雅たちでさえ、なかなか会えなくなっていた。
その中で、今までも美形なミイは、さらに ”女”らしい容姿になり、ミヤは、そんなミイに、自分がまだ子供っぽい様な気がして、取り残されるような感じがしてきた。
そんな事は全く思いもしないミイは、たまに会うミヤに対しては、今まで通りに普通に話しかけるものだから、ミヤは意識してしまい、会話も素っ気ないものになり、気持ちが離れていく気がしていた。
そんな雅たちだったが、ミイと美沙は今まで通りに、姉妹の様な付き合いが続いている。そんな二人の今までと変わりないやり取りを目の当たりにして、ミヤは少し 苛立っていた。
そんなミヤだが、15歳ともなると、ミヤも男らしさが現れ、身長も 170cmは越えてきた。容姿は、突起したイケメンでは無いものの、他人から見ても、落ち着いた、周りがホッコリできる、癒し型の容姿になっていった。
そして中学も3年になると、高校受験が待っている。 雅たちはそれぞれ、成績はそこそこ良く、学年でも、ミヤは20位前後 ミィは10位くらいの、高位置に居て、志望高校は一緒だった。そのため、受験勉強が理由で、一緒に居る事が多くなり、再び幾分か良好な関係に、戻っていった。
◇ ◇
高校でも一緒になった二人は、お互いの呼び方も“ミヤ”と“ミイ”に変わっていた。
中学の時とは違い、傍から見て、幼馴染という事がぴったりハマった二人だった。名前も一緒という事もあり、よく ”夫婦”と言われる様になった。普通に登校時は、家も近いという事もあって、一緒に行く事が、ほぼ毎日になっていた。
しかし、ミイの容姿は誰から見ても美形という言葉が当てはまり、そんなミイが誰とも 付き合っていない 事が分かると、一時期は男子生徒に告白され続けると言う、ミヤにおいては ヒヤヒヤ の時期もあった。
この頃からミイは、女子ながら少し離れた柔道場に出向き、ミヤと二人で通いだした。
理由は。ミィの父親が、だんだんと母親に似て、奇麗に成長していく娘を見て 『何か自身を守る術を身につけなさい』 と言われたので、『ミヤと一緒に通うなら行ってもいい』 と言ったら、父親は 『そうか、ミヤくんとならいいだろう』と言ってくれた。
習い始めて、半年もたつと、自分たちだけで、時々 加減をした組手練習をするようになり、それを見ていた美沙も 『私も習いたい!』 と言い始めたので、この時期からは、美沙も含めた3人で、柔道場に通った。
この頃から、3人は、柔道場での稽古の帰り、家近くのコンビニに寄り、フードコートで、暫く喋ってから帰る習慣になっていた。
時々、家での組手練習の時、ミヤがミイの体を意識してしまい、手加減をしてしまい、負けることが多くなり、それを感じ取ったミイが。
「ミヤ、加減しないで!」
と、言われる事が度々あった。
「もう!ホントはもっと強いくせに!」
と、良くミイに言われた。
この道場通いは、二人が高校3年のGWまで続き、次第に大学受験に向けての時間がそちらに取られる事になり、段位は取らずに二人は道場を辞める事になった。