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第005話・金の無心

side:エレノア・グランベルグ


先程残念な事の筆頭に魔力無双が出来なかった事を上げた私だが、ある意味ではそれ以上に残念な事もある。


それは、この国でのご飯があんまり美味しくない事だ。


嬉しい事の筆頭に白米の美味しさを語った先程の言葉とは矛盾しているかもしれないが、私にも言い分はある。


この国には、圧倒的に調味料が足りていないのだから。


皆にも、想像してほしい。


毎日毎日、素材の味と塩だけで味付けされた素朴なオカズと味噌汁と白米だけの生活を。


しかも、動物を食べることを忌避する文化があるらしく、肉だって食卓にはのぼらない。


そんな生活が、飽食の日本で育った私にとってどれだけ苦痛なのかと言うことを。


「こんにゃしぇーかちゅ、もうがまんできまちぇん!」


私は調味料が欲しいのだ!


最低でも、醤油だけでも何とかしたい!


皆にも分かってほしい!


あの、魚醤を出された時のこれじゃない感を!


なまじ醤油に似ているだけに、これじゃない感が凄いのだ!


「こうなったりゃ、じさくしゅるしかありましぇん!」


だからこそ、私は行動を開始した。


私の魂が欲する醤油を作るための行動を。


「まりあべーちょ、いきましゅよ!まじゅは、おとーしゃまのとこりょでしゅ!」


何事も行動を開始するときには、大なり小なり資金源が大切だ。


私は、お金を無心するためにキラキライケメンのオッサンの所に突撃する。


「おとーしゃま、しちゅれーしましゅ!」


私がオッサンの執務室に突入すると、オッサンが相好を崩して仕事を放り出す。


私が来たことでオッサンが仕事を放り出すのでオッサンの部下には迷惑な顔をされたが、その顔はスルーした。


醤油の製作は、何よりも優先されるべき事だからだ。


「どうしたんだい、エレノアたん。執務室にエレノアたんが遊びにくるなんて、珍しいじゃないか」


まあね、私はキラキライケメンの軟弱なオッサンがあまり好きではないので、オッサンには基本的に寄り付かない。


そんな私が執務室に遊びにきて嬉しそうなオッサンだが、続く私の言葉でその笑顔も凍りつく。


「おとーしゃま!あたちは、おこじゅかいがほちーのでしゅ!とりあえじゅ、じゅーおくごーるどほどおねがいしましゅ!」


「じゅ、十億ゴールド!?」


この国のお金の単位はゴールドで、一ゴールドで一円ほどの価値がある。


私は、オッサンに十億円を要求したのだ。


「だめでしゅか?」


嫌いなオッサンにも、ここは必死に媚びておく。


私は出来るだけ可愛く見えるように上目使いを駆使しつつ、祈るように胸の前で両手を組む。


線の細い軟弱なオッサンだが、それでも腐っても国王だ。


可愛い娘のためなら十億ゴールドくらい出してくれるはず。


最低でも、半額の五億ゴールドくらいは堅いだろう。


そう思った私だが、オッサンから帰ってきた言葉は次のような物だった。


「そんな大金、いくら私でも気軽にホイホイと出せる訳がないだろう!?エレノアたんの要求は、いくら何でも無茶苦茶だ!」


どうやら、十億ゴールドは多すぎたらしい。


だったら、ここは最初の予定通りに半額で手を打とう。


先に大きく要求しておいて、次に半額を提示すれば大幅に譲歩したように見えるだろう。


「だったりゃ、ごおくごーるどでもいいんでしゅよ?」


前世で培った、私の交渉技術だった。


だが、しかし。


それでもオッサンは頷かない。


「だめだめだめっ!五億ゴールドでも子供の小遣いを越えているよ!」


このオッサン、国王のくせにケチンボだ。


「だったりゃ、いちおくごーるどならどーでしゅか?」


一億ゴールドでは私の計画が大幅に狂ってしまうが、それでも何もないよりはマシだろう。


そう思っての要求だったが、それでもオッサンは頷かない。


「エレノアたん。エレノアたんはまだ子供なんだから、これで我慢しておきなさい。欲しいものがあるのなら、私が買ってあげるから。まあ、それでも何でもって訳にはいかないけどね」


そう言って、オッサンは私の手に飴玉を握らせる。


オッサンは、ハナから私のことなんて子供だと思ってマトモに相手をしていないのだ。


一歳で既に読み書き計算をマスターしている私のことを普段は神童扱いするくせに、こういう時には都合良く子供扱いしてくる。


これには、温厚な私でも流石にカチンと来たね。


私は、捨て台詞を吐きながら執務室を後にする。


「もういいっ!おっしゃんなんて、だいきりゃい!」


「お、おっさん!?」


私の捨て台詞にオッサンはショックを受けたのか、オッサンの慟哭が聞こえてくるが、そんな事はどうでも良い。


私は、マリアベートと手を繋ぎながら歩き出す。


まだヨチヨチ歩きの私だが、体を鍛えるのも兼ねて自分の足で歩いている。


「まりあべーちょ、ちゅぎはおじーしゃまのところでしゅ!」


私はオッサンに見切りをつけて、お爺ちゃんの所を目指していた。


これくらいの事で、私は諦めたりはしないのだった。


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