第003話・転生
side:南條陽葵
善行ポイントで転生特典のスキルを取得したあと、私は異世界へと旅だった。
女神様の導きに従って浮遊感を感じたら、次の瞬間には私は巨人の群れに取り囲まれていた。
そのあまりの衝撃に驚いて、少しだけチビっちゃったのは一生の不覚である。
周りの巨人の話す言葉は分からないけど、恐らく巨人達が私の家族なんだと思う。
言葉は理解できないけど、声色から私に対する愛情が伝わってくる。
どうやら、私が無事に生まれてきたことを祝福しているようだ。
「あだ~、うぅ~」
それにしても、私を取り囲む巨人達は金髪や緑髪で彫りの深い外国人のような見た目なのに、着ている服は着物なので何とも奇妙な印象を受ける。
この世界は、和洋折衷な世界なのだろうか?
『おめでとうございます、陛下、王妃様!王妃様に良く似た、可愛らしい姫様で御座います!』
『良くやった、エレオノーラ!本当にお前に良く似た可愛らしい娘だぞ!これで無事に成長すれば、さぞかし美しくなるに違いない!周りの男どもは、絶対に放っておかないだろう!』
『まあ、陛下。お気が早い。生まれたばかりでは、将来の美しさなど分からないでしょうに』
『そんなことは無いぞ、これは親の欲目ではない!私には分かるのだ、将来この子に群がるであろう男どもはトンでもない数になるだろう!この目に映るようだ、国中の男どもがこの子に恋い焦がれるだろう姿がな!』
「うぅ~、だ~っ!」
皆さん私の誕生を喜んでくれるのは嬉しいですが、私は小腹が空いています。
プリーズ、ママン。
母乳を与えて下さいな。
「あ~、ぶ~」
『王妃様、どうやら姫様はお腹が空いているようですよ。先程から、仕切りに御自分の指をしゃぶっておられます』
『本当だわ。マーサ、これはお腹が空いているからなの?』
『恐らく、間違いないかと』
『だったら、その子をわたくしに抱かせて下さいな。早くオッパイを飲ませてあげなくちゃ』
『かしこまりました、王妃様。それでは、姫様の頭を抱えるようにお抱きください。姫様はまだ首が座っていないので、肘で頭を支えるようにするのです』
『こうかしら?なんだが首がグニャグニャして抱いてると不安になるわ』
『王妃様、赤子とはその様なものなのです。こればっかりは、慣れるしかありませんね。成長すれば、首も座って確りとしてくるでしょう』
『だったら、それまではわたくしが確りとこの子を守ってあげなければいけませんね。この子は、陛下の血を引く姫ですもの。責任重大だわ』
『その通りで御座います、王妃様。成長するのは姫様だけではありません。王妃様も、姫様と一緒に親として成長していくのです』
『親とは、そう言うものなのね……』
ちょっと、ママン。
母乳はまだですか?
さっきから周りと話してばっかりで、私のことを忘れてますよ!
「あきゃ~っ!ひぃ~や!」
『いけない、忘れていました。この子はお腹が空いてるんでしたね』
おっ?
やっとご飯の時間ですか。
完全に忘れられてるのかと思いましたよ。
それじゃあ、失礼して……。
んま、んま。
『陛下、わたくしのオッパイをこの子が飲んでいますよ!小さなお口で一生懸命で、とっても可愛いと思いませんか?』
『うむ、この子の可愛さに私の顔まで蕩けそうだ!この子の可愛らしさは天下一だろう!』
『まあ、陛下。それは言い過ぎですわ。天下一だなんて』
『そんなことは無い!私はこれまで、この子ほど可愛い赤子を見たことがない!』
う~ん……。
オッパイは美味しいけど、さっきからこのオッサンが煩いな……。
年の頃は二十代の半ばだけど、キラキラしたイケメンは嫌いです。
オッサンと呼ぶにはまだ早いけど、こんな奴はオッサンで十分だ。
煩くてイラッとしたので、さっきから覗きこむように近づけてくるオッサンの顔を叩いてやる。
「やーっ!やーっ!」
『おや、食事を邪魔されて怒ったのかな?この子は見かけによらず食いしん坊なようだ』
むきーっ!
このオッサン、それでもますます近づいてくる!
軟弱な見た目に反して、神経は図太いらしい。
私の一番嫌いなタイプだわ!
「あんぎゃ~!」
ママンには申し訳ないけど、もう我慢の限界よ!
こうなったら、実力行使だ!
私はママンの腕の中で、必死に手足をバタつかせる。
そうすると、やっとキラキラしたイケメンのオッサンも離れていった。
『あらあら、大変!マーサ、どうしましょう!?急に暴れだしたわ!』
『マーサ、なんとかせい!』
『陛下、王妃様。恐らくですが、姫様はお腹がふくれて眠たくなったのだと思われます。眠たいのに周りが騒がしくて眠れないので、お怒りになられたのではないでしょうか?』
『そうなのか?つい先程まで元気に乳を飲んでいたのに、急に眠たくなるものか?』
『陛下、赤子とはその様なものなのです。赤子の仕事とは、食う寝る泣くの三つで御座いますから』
『赤子とは、なんとも気楽なものなのだな……』
ん?
なんとなく、オッサンにバカにされた気がする。
舐めんじゃないわよ、軟弱イケメンのくせに!
「ん~……あだーっ!」
『いたたたた……マーサ、これ以上に暴れられてもたまらん!なんとかいたせ!』
『それでは、失礼致します』
オッサンの顔を何度も叩いていると、マーサと呼ばれていたお婆さんにベッドまで運ばれた。
腹もふくれて少しだけ眠くもなっていたので、これ幸いとお昼寝する。
ママン、おやすみ。
オッサンはどっか行け!
初対面のオッサンに寝顔を見られるとか、罰ゲーム以外の何物でもないから!
◇◇◇
◇◇◇
side:エレオノーラ・グランベルグ
愛しい我が子にオッパイを飲ませて上げると、オッパイを飲み終わったら急に暴れだしました。
マーサが言うにはお腹がふくれて眠たくなったそうなので、マーサにベビーベッドまで運んでもらいます。
本当なら自らの手で全ての世話をしたい所ですが、産後の疲れのせいかまだ動くのは無理そうです。
ここは無理をせずに、マーサに我が子を託しました。
「それで、陛下。あの子の名前はお決めになったのですか?」
私が陛下に尋ねると、陛下は自信をもって頷かれます。
どうやら、良い名を思い付いたようでした。
「あの子の名前はエレノアとする!私とエレオノーラの愛娘、我がグランベルグ王国の第一王女だ!」
「エレノア……」
我が子の名を呟くと、胸にストンと落ち着きます。
「あの子はエレノア……」
うん。
とっても良き名だと思います。
流石は陛下、御見逸れしました。
可愛い愛し子、エレノアです。
わたくしはこれから母として、精一杯の愛情をエレノアに注いでいきましょう。
そうやって、エレノアと一緒にわたくしも母として成長していくのです。
わたくしは、そうやって決意しました。